「介護保険」は役所に申請しないと使えない!?
ある日突然始まる「介護」、まずするべきことは?
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高齢の親が転倒した拍子に骨折し、寝たきりになってしまった、といった場合、予想もせず急きょ介護が必要になる。介護は、金銭的な負担が大きいため、介護に関する費用が1~3割負担になる「介護保険」の利用はマストだ。
介護保険は、申請すればすぐに利用できるのだろうか。ファイナンシャルプランナーの桑野恵子さんに、親の介護が始まった際の手続きについて、教えてもらった。
まずは「地域包括支援センター」に相談
「介護が必要になるケースは、大きく2つ考えられます。1つは、親がケガや病気で長く入院し、運動能力や認知機能が衰え、退院後に自立した生活ができなくなる場合。もう1つは、直前に言ったことを忘れる、同じ日用品のストックがたくさんあるなど、認知症の疑いがある場合です」(桑野さん・以下同)
親だけで日常生活が送れない可能性が出てきたら、介護が必要になるというわけだ。ただ、その線引きを家族が行うことは、なかなか難しそう。
「日常的に手助けが必要になりそうだと感じたら、親が住んでいる地域の地域包括支援センターに相談してみましょう。相談は無料ですし、『親のことが不安なので、どんなサポートがあるか教えてください』と聞けば、適切に対応してくれます。いざという時のため、地域包括支援センターの電話番号や住所を控えておくといいでしょう」
また、「役所内で、介護保険を担当する部署に相談してもいい」とのこと。親の状態について話せば、介護保険やそのエリアの地域包括支援センターを紹介してくれるという。
「相談の結果、介護保険を利用した方がいいと判断されたら、『要介護認定』を受ける必要があります。介護保険は、介護保険被保険者証を提示すれば受けられるものではなく、認定を受けなければいけないのです」
「要介護認定」は親との予習を忘れずに
「要介護認定」とは、介護保険サービスの利用希望者である親に対して、どのような介護がどの程度必要か、判定するためのもの。「要介護1~5」「要支援1・2」「自立」という8つの区分で判定される。
「まずは、役所の専用窓口で要介護認定の申請を行いましょう。介護保険被保険者証を提示し、申請書を提出したら、親と家族、認定員が立ち会って行う訪問認定調査の日時を調整します。面談の際には、認定員からの聞き取り調査や簡単なテストなどが行われます」
聞き取り調査は、立ち会う家族にも行われる。例えば、「お母さんはお風呂に1人で入れますか?」「お父さんは毎日歯磨きしていますか?」など、日常的なことが聞かれるため、同居していない場合は、親への事前確認が必須。
「調査項目は、自治体のウェブサイトなどに『認定調査票』として公開されているので、親と一緒に予習しておくと、調査の際に答えやすくなります。親の持病や病歴、輸血経験の有無なども聞かれるので、事前に親に振り返ってもらうことも忘れずに」
「要介護認定」には、主治医の意見書も必要。訪問認定調査の際に親のかかりつけ医を伝えると、自治体が医師に作成依頼を出してくれる。
「かかりつけ医は、月1回の検診など、定期的に訪れる病院があれば、そこを伝えましょう。普段病院に行かない場合も、1年に1回健康診断をしてもらっている病院があれば、そこで問題ありません」
訪問認定調査の結果と主治医の意見書をデータ化し、コンピューターで結果をはじき出す「一次判定」。一次判定結果などをもとに専門家が話し合う「二次判定」を経て、「要介護認定」を受けたら、ようやく介護保険が利用できる。
「申請から通知まで、1~2カ月はかかるので、早めに動き出したいところです。また、通知される要介護度・要支援度によって、受けられるサービスが異なります」
更新しなければ「要介護認定」は無効に
認定結果が出たら、介護保険を利用しながら介護していくことになるが、ケアマネージャーの存在が必須なのだそう。
「地域のケアマネージャーと面談し、ケアプラン(介護計画)を作成してもらう必要があります。介護保険を使って介護サービスを利用する場合は、必ずケアプランを提出しなければいけないのです。ケアマネージャーさんと相談しながら、介護の方針や利用するサービスを決めていきましょう」
「要介護認定」には注意点もある。一度認定されたら永続的に介護保険が使えるわけではなく、更新しなければならないのだ。
「認定には有効期限があり、初めて認定された場合は6カ月、その後は1年ごとです。親の症状が安定し、要介護度・要支援度が変わらなければ、2年ごとになる場合もあります。更新時期に再度『要介護認定』を受けなければ、介護保険が利用できなくなります。自治体から更新のお知らせが届いたら、忘れずに申請しましょう」
もし、親の症状に大きな変化があり、要介護度が変わりそうな場合は、有効期限を待たずに「要介護認定」を申請することもできる。
介護保険を利用するには、何かと手続きが多そうだ。少しでも心配なことがあれば、地域包括支援センターなどに赴き、知識を蓄えておくといざという時に慌てなくていいかもしれない。
(有竹亮介/verb)
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桑野恵子
FP事務所やさしいお金の相談室代表、コスモスペース取締役社長、一般社団法人女性FP相続サポート協会理事。ファイナンシャルプランナー、住宅ローンアドバイザー。ファイナンシャルプランナーとして、1人暮らしの高齢者の定期訪問、見守りサービス、任意後見と遺言、相続の手伝いなどを行う。