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「動く医療」が早くも実現

ソフトバンクと車メーカー8社の「MONET Technologies」

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未来の交通におけるキーワードとして聞かれる「MaaS(Mobility as a Service)」。そのキーワードが盛り上がりを見せる中で、MaaSの概念は急拡大している。

たとえば、MaaSとは「モビリティ(移動)のサービス化」と言われ、スマートフォンのアプリを用いて、交通手段やルートを検索し、運賃等の決済を行う例が多い。あらゆる移動手段について、検索から予約、支払いまで一貫した体験を可能にするサービス・アプリというイメージだ。

一方で、モビリティそのものや、それにまつわるサービス(モビリティサービス)の進化をMaaSの概念と捉える動きもある。すでに事業として行っているのが、ソフトバンクとトヨタ自動車が設立したMONET Technologies(モネ テクノロジーズ。以下、MONET)だ。

2018年10月に設立を発表した同社は、その後トヨタ自動車以外にも、国内自動車メーカー7社が株主として参加。すでに全国30以上の自治体と連携している。また、同社が運営するMONETコンソーシアムには500以上の企業が加盟。それらのパートナーと「未来のモビリティ」を予感させる実証実験をスタートさせている。

一体どんなモビリティの進化を目指しているのか。MONET Technologiesの上村実氏(事業推進部 部長)の話から、その未来を考えたい。

「船」を通勤手段にする実証実験も行った

MONETは、バスなどの既存交通をより便利かつ効率的にするサービスや、これまでになかった新たなモビリティサービスの創造を目指している。まずは「既存交通」への取り組みについて、上村氏がその意図を語る。

「都会に暮らす方は感じにくいかもしれませんが、地方は高齢化やバス会社などの経営難が顕著であり、買物困難者は800万人を超えるとされています。私たちは、テクノロジーやデータを駆使して既存の交通サービスを最適化し、その課題を解決したい。これがMONETの目的のひとつです」

そしてもうひとつの命題が「新たなモビリティサービスの創造」。いつか自動運転が実現すれば、人が運転する必要はなくなる。また、これまで店舗などの「不動産」で行っていたことを、モビリティという「可動産」で行えるようになる。たとえば「動くコンビニ」や「動く病院」など。「もちろん自動運転の実現にはまだ時間がかかります。しかし、その時に向けて今から新たなモビリティサービスを実験し、データを貯めることが大事」と語る。

MONETの使命は「既存交通の高度化」と「新たなモビリティサービスの創造」であり、それに向けた「法制度改革」にも注力していくようだ。

同社では、これらを形にした実証実験も多数行っている。特に分かりやすい事例を紹介しよう。

まず「既存交通の高度化」では、2019年12月から翌年1月にかけて、船と車を連携させた新たな移動サービスの実験を実施。河川で物資や旅客を運搬する舟運(しゅううん)は、これまで一般生活者の日常の足として使われることはほぼなかった。そこで、数多くの船舶が行き来する東京都・竹芝エリアにおいて、通勤時間に舟運とワゴン車のシャトル便を組み合わせた交通手段を提供。朝潮運河船着場から竹芝小型船ターミナルまでは河川を舟運で行き、そこからワゴン車に乗り換えてJR浜松駅まで移動する。水陸のモビリティを活用した実験で、通勤時のラッシュ解消なども見据えたものだ。


そのほか、長野県小海町・南相木村では、タクシー会社による物流代行実験も行った。将来は「貨客混載」を目指す。

「既存のモビリティは、シングルタスクが基本です。タクシーは人を運ぶだけ、貨物トラックは配送だけなど。しかし、タクシーも利用者の少ない時間は荷物を運ぶなど、マルチタスクにするだけで効率はよくなり、採算性も上がります。そういった実証実験を各地で行い、実際に利用者のデータを分析しながら既存交通を高度化させていきます」

デマンドタクシーが小海町内の病院に到着
モノの配送代行車に荷物を搬入

マルチタスクだけでなく、近年増えているデマンドバス(※)の運行や予約アプリシステムの導入なども各地で行っている。

※路線バスとタクシーの中間的な乗り物。大まかな走行エリアを決め、利用者の予約があった場合のみ運行。ルートや運行時間は利用者の要望で柔軟に変化し、周辺エリアに複数の利用者がいる場合は相乗りで運ぶ。

「動く医療」で医師不足を救えるか

「新たなモビリティサービスの創造」についても、好事例が生まれている。2019年12月から長野県伊那市でスタートした、医師の乗らない移動診療車「ヘルスケアモビリティ」の実証実験だ。

「動く医療」のプロトタイプのひとつで、医療機器が搭載された車両(医療モビリティ)が患者の家近くまで行く。車両にはドライバーと看護師が乗り、医師はテレビ会議システムを使って病院から通信。医師の指示のもと、患者は車内で問診・診察を受ける。

「医師不足に悩む地域は多く、特に中山間地域では病院と患者の家が遠いケースが多々あります。患者が病院に行くのも容易ではありませんし、医師が訪問するにも時間がかかる。往復1時間の移動であれば、その分の医療対応ができません。医師不足の地域には悩ましい問題です。診療設備をモビリティ化し、医師が病院から遠隔で問診できれば、それらの解決になるでしょう」

車両には心電図モニタや血圧測定器などが搭載され、オンライン診療の環境も整備。患者情報はクラウドで共有している。実験は、まず定期的な問診が必要な慢性疾患の患者を対象に展開。長野県伊那市とMONET、そしてフィリップス・ジャパンの連携で行われている。

紹介した実証実験は、いずれも自治体や企業との連携なくしては行われない。MONETの役割・立場は、さまざまな地域で生まれる交通サービスの裏側、プラットフォームを提供すること。たとえばデマンドバスの運行管理や配車システムの提供、あるいは車両やサービスから得られるデータなどを、コンビニや宅配、医療など、モビリティによる新サービスを企画するサービス事業者に提供し、企業同士や自治体をつないでいく。

こうした中、企業をつなぐために生まれたのがMONETコンソーシアムだ。すでに500社以上が加盟し、MaaS事業の開発や情報交換を行っている。実証実験などで得たデータを提供し、日本全体のモビリティ発展に役立てていくという。

「新しいサービスを作るためにも、まずは今の交通課題を細かくデータ化することが重要です。地方の交通の“危機”は長く叫ばれてきましたが、具体的にどれだけ利用者が少ないのか、どんな問題が起きているのか、現状を事細かに示すデータが十分にありませんでした。まずは現状を可視化する。その上でサービスを高度化し、やがて訪れる自動運転の時代に備えたいと思います」

今ある交通を高度化させ、さらに新しいモビリティサービスを作る。その思想に多くの企業が共感しているからこそ、またニーズが強くあるからこそ、参加する自治体、企業が急速に増えているのだろう。MONETの存在は、いろいろなサービスと移動の組み合わせを生むかもしれない。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2020年4月現在の情報です

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