株に債券、預貯金…配分比率を整えた方が利益が出やすい!?
「iDeCo」「企業型DC」のリバランスタイミングっていつ?
老後の備えとして、活用している人が増えてきている「iDeCo(個人型確定拠出年金)」「企業型DC(企業型確定拠出年金)」。毎月一定額を拠出して運用し、その利益が運用中は非課税となるため、利益の出やすい金融商品で運用するのが賢明だ。
株や債券、預貯金など、複数の投資を同時進行する場合は、その比率が重要であり、時に比率を元に戻す「リバランス」が必要。しかし、投資初心者にはその判断が難しいものだ。そこで、日本経済新聞の編集委員・田村正之さんに、リバランスの必要性と方法を聞いた。
「リバランス」とは当初の資産配分に戻すこと
「リバランスとは、当初想定していたリスク(値動きの大きさ)を維持するために、資産の配分比率を元に戻すことです。例えば、値動きが激しい株の比率が大半でリスクが大きくなることを避けるため、株50%、預貯金50%という資産配分を選んだとします。時が経ち、株価が上がって株70%、預貯金30%になると、当初の想定より値動きが大きくなってしまいますよね。不況時などには耐えられないほどの下落率になるかもしれません。そうならないように株の一部を売って預貯金に回し、当初の50%ずつの比率に戻しておくことが、リバランスの目的です」(田村さん・以下同)
自分が耐えられるリスクを考え、株の比率を抑えて投資を始めたとしても、株価が上がれば、いずれ株の比率が多くなってしまう。そのままの状態だとリスクが上がり、想定とは違う結果になってしまうかもしれないのだ。
ただ、「『確定拠出年金』に関して、初期の段階ではリバランスは考えなくてもいい」と、田村さんは言う。
「『確定拠出年金』の拠出額は、一般的な会社員であれば月数千~数万円程度。このくらいの金額であれば、積み立てても大した額にはならないので、全額を長期的に見て増えやすい株式型の投資信託などに絞っていいでしょう。自分が適正だと思う配分比率は、『確定拠出年金』以外の資産を含めた資産全体で考えるべきなのです」
例えば、月2万円の拠出だとしたら、めいっぱい拠出しても年24万円だから、全財産ではないだろう。例えば、「iDeCo」や「企業型DC」の全額を株に投資し、それ以外の資産を預貯金や債券に回す、といったように比率を考えていくと、管理もしやすくなる。
「『iDeCo』や『企業型DC』の中の資金が何百万円にもなり、株だけだと下落のリスクに耐えられないと思うようになったら、何割かは債券や預貯金に変えてもいいでしょう。ただ、何百万円にも膨れ上がるのは、制度を利用し始めて何十年も経ってからなので、若手のうちはあまり考えなくていいと思います」
ちなみに、「確定拠出年金」の仕組みの中では、新たに拠出する分の比率を変えることを「配分変更」、すでに保有している商品の保有比率を変えることを「スイッチング」という。株価が暴落して不安が増す場合に、株を減らして、債券や預貯金を増やすといった変更を行うのも選択肢の1つだ。
配分比率は「年1回」のチェックがベター
資産が大きくなってリバランスが必要になったとしたら、配分比率はどのくらいのスパンで確認していくといいのだろうか。
「基本は年に1回でいいと思います。誕生日やお正月など、チェックする日を決めておくと忘れないでしょう。確認した際に、当初の配分とほとんど変わっていなければ、リバランスする必要はありません。いずれかの比率がかなり大きくなっていると感じたら、リバランスしましょう」
リバランスの本来の目的は当初想定した値動きに戻すことだが、結果的にリターンが大きくなることが多いという。
「株であれ債券であれ、1つの銘柄がずっと高くなり続けることは少ないからです。高くなったものを少し売り、安くなったものを少し買うことを繰り返すと、長期的に見てリターンが大きくなりやすいのです」
その考え方でいくと、年1回とはいわず、月1回確認して、積極的にリバランスした方が良さそうな気もするが、そうとも言い切れないらしい。
「あまりにも頻繁にリバランスすると、成績は伸びにくくなります。株価は数カ月続けて上がることが多いので、せっかく上がり始めた銘柄をすぐに売却してしまうと、その後に期待できた利益が得られないからです。おすすめの投資手法である世界全体への投資の場合、長期では株価は右肩上がりになります。好調な時期はできるだけ生かす方がいいので、ある程度は放っておいて、1年に1回の確認で十分でしょう。ただし、これは平時の話。株価があまりにも大きく上がったり下がったりした場合などに備え、自分であらかじめ『2割以上ズレたらリバランスする』のように決めておき、臨時のリバランスを実行することも必要です」
リスクを抑えながら、投資を順調に推移させるため、必要なリバランス。未来の自分が満足のいく生活を送れるように、原則年1回のチェックを忘れずに。
(有竹亮介/verb)
関連リンク
田村正之
日本経済新聞社編集委員(マネー報道担当)兼紙面解説委員。証券アナリスト(CMA)、ファイナンシャルプランナー(CFP)の資格を持ち、年金など社会保障のフル活用と長期分散投資を組み合わせた総合的な資産形成術を発信している。著書に『人生100年時代の年金戦略』『税金ゼロの資産運用革命』など。田村優之の筆名で小説も執筆し、98年に開高健賞受賞。経済小説『青い約束』(原題「夏の光」で松本清張賞最終候補)は14万部を販売。