広さも住居費もダウンサイジングするチャンス!
知っておきたい将来の住まいのこと ~老後の住み替え編~
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「老後は、息子家族の近くで暮らそうかな」「海の見える家で過ごしたい」など、それぞれに思い描く老後のライフスタイルがあるだろう。そのためには、今住んでいる家を引き払い、引っ越す必要が出てくるかもしれない。
ただ、リタイアしてから、新たな家を買ったり借りたりすることは、難しいのではないだろうか。ファイナンシャルプランナーで不動産コンサルタントの橋本秋人さんに、老後の住み替えについて聞いた。
「郊外から都心へ」のケースが増加傾向
「老後も、持ち家に住み続ける方が多いと思います。ただ、これまでより住み替えを検討する人は増えており、今後さらに増える傾向にあるといえるでしょう。家や土地を継ぐ子どもや親戚がいないケースが多く、自宅を一生持ち続ける意味がない時代になってきているからです」(橋本さん・以下同)
家や土地が、子どもにとって負の財産になってしまうことを避けるため、元気なうちに処分し、住み替えようと考える高齢者が増えているそう。
「かつては、土地の価格が上がり続けていましたが、今はそうとも言い切れません。そのわりに、固定資産税などはかかるので、家や土地をマイナス資産と考える人もいます。そのためか、ここ10年くらい、リタイア後に郊外から都心に引っ越す人が多く見られるようになってきました」
郊外の持ち家を売却し、都心のマンションや戸建てを購入するケースが増加傾向にあるという。都心の方が利便性が高く、医療機関も整っているため、安心して老後の生活を送れると考え、住み替える人が多いのだ。
「必ずしも新たな家を購入するわけではなく、シルバーマンションやサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)などの、シニア向けの賃貸物件に住む方も多くなってきています。国がサ高住の建設を補助していることもあり、施設自体が増えているという要因もあります」
都心に家を買うにしろ、サ高住などの施設を借りるにしろ、老後の住み替えは費用がかかるのではないだろうか。
「費用は思いの外かからないというか、かけない人が多い印象です。リタイアしている場合、通勤は考えなくていいので、住む場所は制限されません。また、子どもが独り立ちしていれば、広い家や複数の部屋は必要なくなります。そのため、家をダウンサイジングしやすいのです。また、多くの人は収入が年金だけになるので、老後の生活資金も考えて中古物件を選ぶ傾向にあり、費用が安く収まるのです」
都心に住み替えるなら「環境」「住居費」に注意
現在の住み替えトレンドは「郊外から都心へ」といえそうだが、その場合の注意点などはあるだろうか。
「大きな問題は、環境が変わることです。生まれてから60~70年、ずっと同じ場所で過ごしてきた人が住む場所を変えると、環境に馴染めずにストレスを感じてしまうことがあります。血縁者や知人がいない土地であれば、なおさらでしょう。事前に住む予定の場所に赴き、街や住人の雰囲気を感じることが大切です」
橋本さんは、「もし余裕があれば、すぐに家を購入するのではなく、賃貸で暮らしてみるのもいい」と話す。賃貸であれば、街に馴染めなかったとしても、別の場所に移れるからだ。賃貸が難しければ、そのエリアのホテルに数日泊まり、過ごしてみるのもいいかもしれない。
「賃貸マンションに住む場合は、管理費や修繕積立金、駐車場代などがかかることも忘れずに。都心だと、家賃とは別に月4万~5万円かかることも。また、購入する場合は、固定資産税などの税金が、地方より高くなる可能性もあります」
前もって支出を把握し、管理するためにも、リタイア後は25~30年先までのキャッシュフロー表を作った方がいいとのこと。年金がいくら入るか、現在の資産はどのくらいあるか、老後の生活費はいくらかかるかなど、お金に関することを確認し、計算していけば、住居費に充てられる金額が見えてくる。そのうえで管理費や税金なども含めて、新たな住まいを考えていこう。
現在の持ち家を活用できる制度が登場
「住み替えのためには、持ち家を処分する必要があります。ただ、必ずしも売却しなければならないわけではありません。住み替えの際に利用できる制度も出てきているので、紹介しましょう」
●マイホーム借上げ制度
一般社団法人 移住・住みかえ支援機構(JTI)が運営するもので、JTIを経由して持ち家を第三者に貸すことで、終身にわたって賃料が支払われる制度。50歳以上であれば誰でも利用でき、借家契約は3年単位であるため、更新しなければ持ち家に戻ったり、売却したりすることもできる。
「ただし、賃料が安くなります。例えば、相場10万円の物件だと、『マイホーム借上げ制度』の査定家賃は9万円ほどになり、さらに15%の運営費が引かれるので、入ってくる賃料は7万6000円程度。家賃は1年ごとに見直されます。今は、民間の不動産会社でも借上げ制度を行うところが増え、相場の賃料の9割程度を保証してくれるところもあるので、活用する場合は各社の制度を比較した方がいいでしょう」
●ハウス・リースバック
持ち家を不動産会社に売却した後も、その家をリース契約して、そのまま住み続けられるシステム。民間の不動産会社が行っているもので、自宅を売却したお金が手に入るうえに、自宅に住み続けることができる。
「住み続けるには、不動産会社に家賃を支払う必要があります。大抵は、年間の家賃がその家の価格の10%程度に設定されるので、2000万円で売った場合はひと月16万円ほど。10年住むと、2000万円は家賃で消えてしまうので、長く住み続けたい人にはおすすめできません。住み替えのための猶予期間と考えるといいでしょう。自宅を売った後、その資金をもとに2~3年かけていい家を探すといったように、余裕をもって住み替えができます」
都心のマンションを借りる、子どもの家の近くの中古物件を買うなど、さまざまなケースが考えられる住み替え。住む場所や予算、老後のライフスタイルを踏まえたうえで、新たな家を探そう。
(有竹亮介/verb)
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橋本秋人
FPオフィス ノーサイド代表。ファイナンシャルプランナー、不動産コンサルタント。早稲田大学商学部卒業後、住宅メーカーに入社。長年、顧客の相続対策や資産運用として賃貸住宅建築などによる不動産活用を担当。また、自らも在職中より投資物件の購入や土地を購入して新築の物件を建てるなど、不動産投資を始め、早期退職を実現。現在はライフプラン、住宅取得、不動産活用、相続などを中心に相談、セミナー、執筆などを行う。