コロナ後の世界
提供元:日興アセットマネジメント
<ここがポイント!>
■ 財政政策に注目:緊急事態から格差縮小へ
■「非接触」と「ヘルスケア」の台頭か
■ 緩やかなインフレと金利上昇に期待
財政政策に注目:緊急事態から格差縮小へ
財政政策の重要性について、コロナ・ショックの前後で社会の認識が大きく変わるとみている。米国など主要国がインフレと戦っていた1980年代以降、選挙で選ばれる議員や大統領などは財政政策でインフレを刺激することを避けるようになり、インフレと戦うFRB(米連邦準備制度理事会)など中央銀行の役割が重要となっている。財政政策は、必要経費的な支出を除き抑えられていた。なお、日本が東日本大震災後に災害対策と復興対策を同時に打ち出したことは、例外といえる。
所得保障など緊急事態対策が一段落する「コロナ後」でも、日本を始め主要国で財政政策が重視され続けるとみている。例えば、生産の国内回帰支援、格差拡大・固定解消に対応する社会福祉の充実、病院施設や健康保険制度の充実支援、再分配(税制)の見直し(高所得層や企業への増税、社会保障費などの負担増)が考えられる。
米国では、大統領選を通じて若い世代が民主党のサンダース候補(すでに大統領選候補を辞退)の社会保障充実を支持した。米国に限らず先進国では、自由や夢よりも固定化する格差社会への不満が、政策選択に影響を与えそうだ。
また、世界的にデフレ懸念が続き、低金利下で金融政策が設備投資行動に影響しづらくなっている。そのため、景気浮揚のためには、金融政策と財政政策を一体化せざるを得なくなる。これがコロナ・ショック対応で明確になってきた。
中央銀行の意思決定は政府から独立しているのだが、景気対策としての財政政策が中央銀行の紙幣発行で実質的にファイナンスされる傾向は強まろう。一方、金融システムの維持・強靭化を目的に、中央銀行はクレジット市場に介入するようになってきた。リーマン・ショック後に導入されたマクロ・プルーデンス(金融システムの安定を確保し、経済悪化の中でも需要を維持させる)は、コロナ・ショックで中央銀行のクレジット市場への介入を促進させたとみる。
さらに、国(ここでは、財政政策を担当する政府+金融政策を担当する中央銀行)の重要性が増すだろう。「コロナ後」の人々は、政府の管理などを以前よりも信頼するようになり、“自由からの逃走”(権力への依存)の傾向が強まるかもしれない。
権力への依存とは、人々が政府に介入を要求することだ。恣意的な「再分配」は長期的に経済を強くできないし、効果的な投資プロジェクトは先進国にあまり多くない。それでも、過去から蓄積された格差拡大と固定の感覚や、コロナ・ショックでの金利政策の行き詰まりなどが、人々の心にこれまでと違う世界をもたらすとみている。
結果として、民間企業が積極的に融資を受け、リスクをとって事業を起こすよりも、政府にクレジットを肩代わりしてもらおうとする可能性がある。そうなれば、国の借金が増加し、高リスクプロジェクトの国家主導化が進むことになる。政策が重要になるほど国の間違うリスクが増大し、例えば生産拠点の国内回帰による非効率も許容され、民間企業は現状維持を望み、低債務・低リスクだが高税率が課される。
このような財政膨張とクラウディング・アウトによる低成長のリスクを避けるためには、国が所得を正しく分配し、消費を刺激し、財・サービスの市場機能を利用する必要がある。そうすれば民間企業は、活力を取り戻し、既存事業を改善させ、さらに市場に良い商品を提供して成長しようとするだろう。企業は、ESG(環境・社会・ガバナンス)について投資家との対話を活かすなどして、蓄積された資金を有効活用し、格差是正などの社会的ニーズに対応した、労働効率改善や健康増進等のサービスを提供する機会などを探してほしい。
「非接触」と「ヘルスケア」の台頭か
「コロナ後」の経済では、インターネット関連などのテクノロジー、特に「非接触」に注目する。典型的なのが、通信回線を利用したウェブ会議への支援などだ。バーチャルな接触ニーズは、テレワーク(会議だけではなく)や巣篭もり消費の支援(オンライン・ショッピング)だけではない。例えば、中国などで進むe-education(ネット環境を利用した遠隔教育・塾)ビジネスや遠隔医療支援などが注目される。
一方、GAFAなどと呼ばれるSNSの「プラットフォーマー」たちは、社会的存在意義が増すとみている。人々はコロナ後の心理的影響で、しばらくは管理社会を容認する可能性がある。プライバシー保護と自由な行動よりも、安全優先で人々の行動詳細を国などが監視することをある程度容認することになり、FacebookやLINEなどの持つ“力”を人々は利用することになる。そして、社会の持続性のために、プラットフォーマーは電力や水道のような社会インフラと認識されるだろう。
これは関連業種の当面の成長を支えることになるが、長期的にはデータ保護の徹底などで国の監視を受ける(業法などができる)こともありえよう。この場合は、コスト増と成長の限界に行き当たる恐れが強まる。
非接触には、これまで日本やドイツで重要な産業として育ってきた生産工程のロボット化も含まれる。自動運転による輸送等サービス業の労働効率改善なども、未来の姿として描くことができる。これらは、働き方改革やESG経営の促進にも関連する。
リスクが高いプロジェクトに政府が支出することも増えるだろう。例えば災害対策(レジリエンス)、生産拠点の国内回帰に向けた土地購入等の投資負担などが考えられる。ただし、建設業や製造業が必ずしも利益率を高められるとは言えず、有効需要が増えるということも考えにくいが、日本企業にとって少ない追加コストで生産拠点の立地を変更できるという効果は見込める。
もうひとつ、ヘルスケアにも注目する。これまでバイオテックや新薬開発(がん先端治療などを含む)が成長分野として注目されてきたが、今後は世界的に社会保障や医療負担への政府支出が増加するだろう。技術力のあるバイオテックはこれまで同様に期待ができるし、個別企業の新型コロナ・ウイルスのワクチン、治療薬、検査薬などへの投資も興味深い。
しかし、ここで注目したいのは、米国など先進国の医療制度の充実傾向、健康保険の対象薬品などへの支出増大だ。民間企業の低リスク選択の時代にディフェンシブなヘルスケア業種の相対的な魅力が高まるだろう。
緩やかなインフレと金利上昇に期待
今後、5~10年の視野で、インフレ的な世界が来る可能性がある。財政出動によるパンデミック対応のための総需要の押し上げは、その後の景気対策への財政政策依存を促すと見ている。インフレ期待が低く低金利が続く中で、金利を引き下げても投資への刺激効果は限られる。これは、石油ショック前の経済を想起させる。
インフレ期待のためには、事業者のアニマル・スピリッツ(野心)が必要だが、米国などは経済正常化で資金の取り合いが予想される。政府はインフレで実質的な負債削減を期待できる。「混乱なきインフレ回帰」、つまり緩やかなインフレになることを期待している。
先進国株価は、正常化を確認しつつ、緩やかな回復が続くとみている。資本効率の低下による労働生産性の上昇を待つ中で、政府の主導する改革に依存し、政治が間違うリスクは残るだろう。中でも新興国では、資金不足が続き、低成長国へ転落する国もあるかもしれない。そのため、新興国投資では国家政策の見極めが重要となる。正しい金融システムを作れるか、財産権を確立できるか、信用が確立するかなどを、プロの目で注目していきたい。
(日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山直樹)
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