店舗同士で“売上バトル”もできる
メガネの「OWNDAYS」が自社開発した社内通貨システム
近年、会社内で独自にポイントを作り、社員同士が送り合うなどして感謝を伝える「社内通貨」のシステムが普及し始めている。社員が貯めたポイントは、多くの場合、景品などに交換できる。新しいインセンティブの位置付けだ。
このような社内通貨は、実際に企業や社員をどう変えているのだろうか。そこで今回伺ったのが、メガネ・サングラスを販売するOWNDAYS(オンデーズ)。同社では、独自の社内通貨システム「STAPA(スタパ)」を自社で開発し、2017年から使用。現在は、いくつかの外部企業にもこのシステムを提供しているという。
海外を含め300を超える店舗を持つ同社は、なぜ社内通貨システムを開発・導入したのか。そして、どんな効果が出ているのだろうか。OWNDAYSの広報であり、開発メンバーの一人だった重村真実氏に尋ねた。
アイデアを投稿すると「マイル」がもらえる
STAPAは、スタッフが「マイル」と呼ばれるポイントを貯め、旅行券や景品、特別休暇の取得などに換えることができる。マイルを貯める方法はいくつかあり、1つは、スタッフ同士で感謝や応援の意味を込めて贈り合う形。これは、ほかの社内通貨サービスでもよく見られる機能だ。
面白いのは、「アイデアポスト」と「チェックイン」によるマイル取得。アイデアポストは、スタッフが新企画や改善のアイデアを投稿できるもの。投稿すると900マイルが与えられる。そしてそのアイデアは、代表取締役社長の田中修治氏が目を通し、良いものがあれば投稿者に追加でマイルが付与される。さらに、毎年アイデアポストの投稿の中で金賞・銀賞・銅賞が決められ、最大で30900マイルが贈られるという。
ここに投稿されたアイデアが“実現”したケースも多い。たとえば、小さな子どもがいる女性スタッフの一人は、毎年夏休みになると子どもが自由研究のテーマに悩む様子を見ていた。そこで、OWNDAYSの店舗で「自由研究に合わせたイベントの実施」を提案。2018年6月に投稿され、イベントは実現した。「その後、子ども向けのワークショップなども増えましたが、原型になったのは彼女のアイデアです」と重村氏は説明する。
「チェックイン機能は、各店舗や本社、営業所など、OWNDAYSに関わる場所に行くと、移動距離に応じてマイルがもらえるものです。店舗スタッフは、他店舗の人と関わる機会がなかなかありません。そこで、より交流が増えるように、たとえばプライベートでお店の近くを訪れたとき、ちょっと顔を出してお店の雰囲気を見る、スタッフと会話する。そんな機会が増えればと作られました」
そのほか、月の売上達成や無遅刻無欠勤、店長への就任など、何かの項目を達成した際にもらえるご褒美マイルや、1日1回引ける「STAPAガチャ」で高額マイルが当たるケースもある。
貯めたマイルは、STAPA内のストアで家電やグッズ、あるいはエステ券や旅行券などに交換可能。「社長とのディナー券」や「特別休暇10日間」といった商品もあるという。
STAPA誕生のきっかけは、OWNDAYS名物の「社内選挙」
それにしても、なぜSTAPAの開発に至ったのだろうか。ここに関係するのが、同社の特徴的な社内制度だ。
「OWNDAYSでは、店長やエリアマネージャーを選挙で決める制度があります。希望者は自ら立候補でき、社員の投票で決定。この制度により、社員のモチベーション向上を図ってきました。ただ、出産・育児を経験する女性スタッフは、どうしても選挙に参加しにくく、別のモチベーションを作る必要がありました。その考えから、頑張っている社員がきちんと評価される仕組みとしてSTAPAが生まれたのです」
導入して大きく変化したのは、スタッフの「売上意識」だという。その意識改革に貢献したのが、STAPAの「バトル」機能。店舗同士がその日の売上をもとに対戦できるもので、「たとえば池袋西口店が川崎ダイス店に挑戦状を出し、承諾するとバトルが行われます」とのこと。指定した1日の売上額か昨対比率のどちらかで競うことができる(※現在、OWNDAYS内のSTAPAのみに実装)。
「バトル機能はかなり人気で、毎週のようにさまざまな店舗で対戦が生まれました。これをきっかけに、どうやって売上をアップさせるか、ゲーム感覚で考えるようになりましたね。他店舗の売上も見られるので、店舗同士の交流も活発に。選挙制度もあることから、他店舗のスタッフを知るのはOWNDAYSにとって重要です。その意味でも効果が出ています」
新型コロナウイルスの影響で、今はなかなかバトルをするのも難しい状況だが、終息した頃にはまたこの機能が活用されるだろう。
「これまでは売上目標があっても、店長やエリアマネージャー以外のスタッフは目標達成のモチベーションづくりが難しい部分もありました。そこにマイルというインセンティブを取り入れ、ゲーム感覚で行うことで、やる気につながっていると思います。それこそが、STAPAがもたらしたメリットですね」
日本全国、さらには海外にまで広がるOWNDAYSの店舗。STAPAは、そこで働く人たちのモチベーションを支える重要な仕組みになっている。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2020年5月現在の情報です