マーケットが下がっている時こそ投資するチャンス!?
“投資の神様”バフェットが緊急事態にしたこと
新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、世界経済は急速に冷え込んでいる。株価も急落したため、運用の進め方に悩んでいる人は多いことだろう。
世界的な経済危機が訪れたとき、投資のプロはどのように対処しているのだろうか。“投資の神様”と呼ばれる投資家ウォーレン・バフェットでも、不安にかられることはあるのだろうか。
「これまでの投資行動を振り返ると、バフェット氏は『株価が下がったときこそ、株を買う絶好のチャンス』というスタンスで、アクティブに投資を行っているんですよ」
そう教えてくれたマネックス証券チーフ・外国株コンサルタントの岡元兵八郎さんに、バフェットのこれまでの実績と、そこから読み取れる投資の極意を聞いた。
リーマン・ショックのさなかに50億ドル投資
2008年9月15日、アメリカの投資銀行「リーマン・ブラザーズ・ホールディングス」の経営破綻をきっかけに、世界規模の金融危機リーマン・ショックが発生した。株価が暴落すると、さらに下落する前に保有している株を売った方がいいのではないか…という心理が働くものだが、バフェットはその逆をいく。
2008年9月24日、バフェットは自身が会長を務める持株会社「バークシャー・ハサウェイ」(以下、「バークシャー」)を通じて、金融機関「ゴールドマン・サックス」に50億ドルの投資を行ったのだ。このときに発行された優先株は10%の利回りが約束されており、さらにワラント(発行会社の株式をあらかじめ定められた価格で購入できる権利)や、「ゴールドマン・サックス」の都合で優先株を買い戻したい場合は「バークシャー」が購入した価格より10%高い価格で買い取るという魅力的な条件もついていたという。
「リーマン・ショックのさなか、続けて金融機関を倒産させるわけにはいかなかったので、『ゴールドマン・サックス』が好条件を提示したんです。でも、なかなか応じてくれる人は現れなかった。そのなかで、資金に余裕のあった『バークシャー』が救世主になったのです。かなりいい条件なので、『バークシャー』としても損する可能性は低かったでしょうし、実際に大儲けして、バフェット氏も高く評価されました」
極意その1「待機資金を持っておくこと」
欧州債務危機が発生した後の2011年、バフェットは当時経営を危うくしていた「バンク・オブ・アメリカ」に50億ドルを投資。金利6%の優先株が発行され、このときもワラントが付与されたそう。
「リーマン・ショックのときと同様に、バフェット氏や『バークシャー』にとって素晴らしい条件の投資だったといえます。好条件を提示されて、すぐに対応できた理由は、潤沢なキャッシュを保有していたから。バフェット氏の行動からわかることは、待機資金を持っておくことがいかに大切かということです」
どんなにいい条件の株を見つけても、手持ちの現金がなければ買えない。個人投資家であっても、財産のすべてを投資に充ててしまっていたら、転がってきたチャンスをつかめないのだ。
「キャッシュは必要なものですから、会社員の方であれば、ある程度の貯金をしたうえで、給料のなかから少しずつ投資できる状況を作ることが先決だと思います」
極意その2「価値の高い会社の株を安く買う」
バフェットの投資行動からは、「マーケットが下がったときこそチャンスと捉える」という発想も見えてくる。
「バフェット氏は、『過去48時間で株が大きく下がったとしても、5年後、10年後のアメリカの企業の価値は何も変わっていない』と話しています。先を見据えて投資を行う場合、重要なものは現状の株価ではなく、その企業の持つ価値だということ。そして、本来高い価値を持つ企業の株が安く買えるのであれば、手に入れるチャンスと考えるべきなのです」
その価値を図る基準として、バフェットが用いているものが「エコノミック・モート(経済的な堀)」。敵が侵入できない堀がある企業=競合他社が真似できないビジネスモデルを持っている企業こそ価値が高い、という視点で判断しているのだ。
「バフェット氏の考え方はシンプルで、『わからない会社の株は買わない』とも話しています。身近でわかりやすい『コカ・コーラ』の株は、何十年も持ち続けています」
2016年に「バークシャー」のファンド・マネージャーの1人が「アップル」の株を10億ドル分買った際、バフェットはiPadを使っていた孫と話したそう。その会話を通じて、アップル製品んお使いやすさわかりやすさに感銘を受けたバフェットは360億ドルを追加投資したのだとか。
「自分がわかる範囲で投資することも大切です。自分が使っていいと思ったものやサービスは、世の中の人も同じように感じる可能性が高いですよね。バフェット氏は、そんなことを教えてくれているようです」
極意その3「自分なりの信念を持つ」
バフェットの投資行動を振り返りながら、岡元さんは「信念なしには投資できない」と話す。
「バフェット氏は、ずっと『アメリカの将来を信じている』と言っています。その信念があるから、周りが恐怖におののいているときにも、彼だけがチャンスをつかめる。自分の軸を決めていれば、投資判断をしやすくなるはずです」
さて、そのバフェット氏は直近のコロナショックにおいて、バークシャーが保有していたアメリカの大手航空株をすべて売却するなど、これまでの金融危機における投資行動から一定の変化も見せており、当面のアメリカの経済シナリオについても、「幅広い可能性が考えられる」と慎重な見方も披露している。
一方で、引き続き強い信念として、「何事も米国の成長を止めることはできない」とも強調し、米国株の中長期的な成長性にについては強気な姿勢を崩していない。バフェットの今後の投資行動を、引き続き、注視したい。
(有竹亮介/verb)
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岡元兵八郎
マネックス証券チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー。上智大学卒業後、ソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)入社。東京、ニューヨーク本社勤務を含め26年間同社で一貫して外国株式のマーケティング、外国株式関連商品業務に携わり、外国株式部の上級管理職として機関投資家相手の外国株式ビジネスの拡大に努める。その後、SMBC日興証券で、個人投資家向けに米国株式投資の啓蒙活動を行うなど米国株式仲介事業の拡大に貢献。著書に『日本人が知らない海外投資の儲け方』。