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五常・アンド・カンパニーが目指す「民間版の世界銀行」(前編)

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私たちが日々使っている、さまざまな金融サービス。銀行口座やクレジットカード、保険、お金の引き出しや振込、あるいは金融機関からお金を借りることもある。これらは、生活に根付いた“インフラ”となっている。

しかし世界全体で見ると、そういった金融サービスにアクセスできない人は約20億人いると言われている。多くは、途上国の人々だ。

そんな人たちが当たり前に金融サービスを使えるよう、「民間版の世界銀行」を目指して急成長する日本企業がある。2014年7月に設立された、五常・アンド・カンパニーだ。

アジアを中心に、4カ国7社のグループ会社を擁し、グループ全体の売上は50億円を超える。7社全体の従業員も3400人超という規模だ。

彼らが行うのは「マイクロファイナンス」と呼ばれる、おもに低〜中間所得者層の個人事業主や中小零細企業に向けた小口の金融サービス。なかでもメインとなるのは、事業用の少額ローンを貸し出す“小口融資”だ。冒頭の写真は、まさに彼らが融資している現地の写真である。

五常・アンド・カンパニーの事業モデルはどんなものなのか。同社 CFOの堅田航平氏に聞いた。

マイクロファイナンス事業者は、世界に1万近く存在

同社の小口融資は、おおむね300~500ドルの資金を、1年から3年程度の期間で貸すケースが多いという。ただし、融資するのは基本的には事業性の資金のみ。事業に使う資金が必要な個人事業主や中小零細企業に向けて貸し出す。

「中古ミシンの購入資金や食堂経営の運転資金、織物を縫って納める人が原材料の布を買う資金、酪農を始めるために乳牛を買う資金など、さまざまな形で融資が行われています。事業を行う際、日本のようにまとまった資金を借りられない、アクセスを持たない人々に融資を提供しています」

こういったマイクロファイナンスに馴染みのある日本人はきっと少ないはず。しかし、はっきりとした統計はないものの、マイクロファイナンス事業者は「各国の規制当局から認可を受けているプレイヤーは、世界に数千から1万近く存在するとも言われます」と堅田氏。そのほとんどは途上国だ。

では、どのように彼らは融資を行っているのか。ポイントになるのが、4カ国7社のグループ会社だ。同社は創業以来、カンボジア、スリランカ、ミャンマー、インドの企業をグループ会社にしていった。実際に各国の現場で融資や契約を行うのは、これらのグループ会社。五常・アンド・カンパニーは、社員の派遣や、取締役会や経営会議などを通して日々の経営に参画しながら、融資に必要な資金の中でも主に株主資本を世界中の投資家から調達する。

「そのほか、グループ各社の人材を私たちが国外で採用する、あるいは最新の金融テクノロジーを各社に導入するといった幅広い側面から経営支援を行っています。マイクロファイナンス事業者は、ほとんどが国単位、村単位の小規模経営。私たちは国をまたいでグローバルに行うことで、収益性を上げ、より低金利かつ顧客にとって便利な商品設計を実現して貸し出せるようにしたいのです」

このような事業が生まれた背景には、共同創業者である慎泰俊氏(代表取締役)の原体験がある。彼は早稲田大学大学院に合格したものの、入学費用の120万円を用意できなかった。その際、慎氏の父が入学資金を工面することで大学院に入学。以来、立場や境遇に左右されず、誰もが機会を得られる世界の実現を目指したという。

その後、慎氏は投資ファンドに勤めるかたわら、Living in PeaceというNPO法人を立ち上げた。このNPOはマイクロファイナンス機関向けのファンドの企画を行っており、新興国の事業現場に足繁く通う中で五常・アンド・カンパニーのビジネスモデルを着想したという。

堅田氏も、入社こそ2019年7月だが、Living in Peaceや慎氏の存在を早くから知り、長く応援してきた。

現地の人だけでなく、お金を貸す投資家にも魅力

「すべての人に金融包摂を」という理念には共感するものの、それがビジネスになるのか、利益が出るのか疑問に感じる部分もある。たとえば、このビジネスモデルはお金を貸すための原資を世界中から調達しなければならない。はたして、そこにお金を投資する人はどのくらいいるのだろうか。

「先進国の投資家は、今後の経済成長が見込める新興国を魅力的な投資先だと思っています。たとえばミャンマーの現地通貨の定期預金の金利は8から9.5%ほど。それほど高いのは、国全体としての成長機会とそれに伴うリスクが反映されています。当社が各国の経営に入り込みガバナンスや内部統制を強化しながら投資家に適切なレポーティングを行うことで、利回りを求めて投資する先進国の投資家と、金融アクセスを求める新興国の人々を繋げることは、両者にとって喜ばしいことでもあります」

ちなみに、同社の小口融資の金利は「マーケットごとに大きく異なるものの18%から38%」だという。ミャンマーの定期預金が金利8から9.5%という点からも分かるように、そもそも融資資金の原資となる現地通貨を調達するコストは高い。結果として先進国の人々にとっては高く映る金利水準に収斂されているという。貸出の上限金利は各国の規制当局が制定しているケースがほとんどだ。

ちなみに、これらの融資は基本的には「担保」がない。となると、もしも返済が滞った場合のリスクは大きくなる。

しかし、同社は貸付債権の質を高く維持するための仕組みをつくり、創業から低い延滞率を継続しているという。その仕組みには最新のテクノロジーを駆使し、もう一方では人と人との関係やつながり、ヒューマンタッチを大切にしているそうだ。

テクノロジーとヒューマンタッチ。2つの要素を用いて、どんな仕組みを作っているのか。後編で詳しく触れていく。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2020年5月現在の情報です

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