経済学者の安田洋祐氏が監修
楽しむうちに“金融リテラシー”が高まるアプリ「かぶポン!」
日本人は、他の先進国に比べて、お金の知識やリテラシーが低いとよく言われる。ある調査(※)では、金融に関する問題を出題し、正答率をアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスと比較したところ、日本はいずれの国よりも下回ったという。
※金融広報中央委員会「金融リテラシー調査 2019年」より。日本・アメリカの比較では、日本が正答率で下回り、また、日本、イギリス、ドイツ、フランスの比較でも、日本の正答率がもっとも低くなった。
最近は、早いうちからの「金融教育」を求める声も多いが、若ければ若いほど「お金の知識なんて別に学ばなくていい」となりそうなもの。
そんな課題に対し、楽しみながら金融力を高めるゲームアプリが出ている。3月にローンチされた『かぶポン!』だ。フィンテックベンチャーのFinatextが開発し、GMOクリック証券が協賛。また、経済学者であり大阪大学准教授の安田洋祐氏が監修を務めている。
「お金の知識を高める」というと、難しくてとっつきにくそうなイメージ。だからこそ、このアプリではとにかく“楽しさ”に焦点を当てたという。一体どんな工夫があるのか、Finatext、GMOクリック証券、安田氏に話を聞いた。
アプリで『のぶニャがの野望』キャラを集める楽しさ
『かぶポン!』は、毎日クイズが出題され、それに答える中で金融力を高めるアプリ。クイズの内容は、お金や経済、時事ニュースや政治など多岐にわたる。
とはいえ、若者に「クイズをやりながらお金の知識を高めよう」と言っても響きにくい。そこでこのアプリは、まず楽しさに力を入れている。楽しくアプリをやっていたら、自然と知識もついていたという流れを狙った。
監修を務めた安田氏は、この流れの設計が大きなポイントだと言う。
「金融リテラシーを身につければ『将来役に立つ』と言いますが、そう考えて学び始める人は一握りです。しかも、実際に役に立つのは、ある程度のお金を持ったり、家のローンを組んだり、年齢を重ねてから。若い人が必要性を感じる機会は少ないですよね。であれば、『役に立つから』と言って学ばせるよりも、『楽しいから』とアプリをやるうちに、いつの間にかお金の知識を得ている。それがいつか役に立つという図式を作るべきだと考えました」
では、どんな“楽しむ工夫”があるのか。そのひとつが「ガチャ機能」。クイズに答えたり、アプリ内の学習コンテンツを見たりすると、ユーザーはポイントを獲得。それでガチャを引き、キャラクターを集めることができる。出てくるのは、コーエーテクモゲームスの『のぶニャがの野望』のキャラたちだ。
Finatext代表取締役CEOの木下あかね氏も、こういった“若い人が楽しむ要素”をフックにして「知識が自然と身につけばいい」と話す。そのほか、成績に応じてAmazonギフト券がもらえることもある。
これまでの学び、努力を「レベル」として数値化
先ほど触れた「ポイント機能」も、楽しめる工夫のひとつ。「ポイントをもとにユーザーのランキングが表示されるので、順位を上げる楽しみも生まれる」(GMOクリック証券)とのこと。安田氏も、若者が没頭するための工夫として「ランキングというソーシャルな要素」を入れることを提案したという。
「他人と競う、あるいはコミュニケーションを取るなど、ソーシャルな要素は若者に受けるアプリのポイントです。ガチャでキャラを集めるという“ゲーム性”に加え、ランキングという“ソーシャル要素”によって楽しさを作ろうとしています」
なお、各ユーザーには“レベル”が設定されており、獲得ポイントに応じて上がっていく。その点について、開発を担当したFinatextの白水康誠氏は、こんなこだわりを述べる。
「小さな工夫ではありますが、ガチャを引くと手持ちのポイントは減るものの、レベルは下がりません。あくまでこれまでの累計ポイントで決まります。こうすることで、今までの努力の合計をレベルとして数値化するようにしています」
ちなみに、ユーザーがクイズを作って投稿する機能もある。採用されれば、ポイントがもらえるとのこと。さらに今後は「過去に間違えたクイズを、補習的に振り返る機能もつけたい」と、Finatext・木下氏は考える。
現在のユーザー層について聞くと、大学生と高校生がもっとも多い様子。より下の年代の利用も見込んでおり、「小さなお子さんと親御さんが一緒にチャレンジする形も増えてほしい」(GMOクリック証券)とのこと。親にとっても、金融知識をつける良い機会になるかもしれない。
加えて、Finatextの木下氏は、学校などでも活用されることを望む。「教育教材として、たとえば学校ごとでランキングを競うなどの取り組みが実現するといいですね」。2022年からは、高校の家庭科で金融教育が取り入れられる。そういった流れの中、ひとつのツールとして学校現場での普及を描いている。
楽しさに没頭するうちに、自然とお金の知識がつくアプリ。『かぶポン!』は、どう若者たちに広まっていくのか。今後が楽しみだ。
(取材・文/有井太郎)
※記事の内容は2020年6月現在の情報です