投資人生を変えた本とは?【投資家の本棚】
【投資ブロガー・水瀬ケンイチさん】45年の風雪に耐えた、すべての投資家のバイブル『ウォール街のランダム・ウォーカー』
- TAGS.
投資で資産を築き、羨望の眼差しを向けられる投資家たち。しかし、彼らとて努力せずに、いまがあるわけではない。ゼロから知識を身につけ、実践してきたからこそ、確かな結果を手に入れることができたのだ。そんな彼らの“投資脳”を育てた土台となっているのが、書籍である。そこで、投資家たちの本棚にしまわれる珠玉の一冊を紹介してもらおうと、いうのがこちらの連載。
第2回目は、投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」を運営する、水瀬ケンイチさん。会社員ながら著書『お金は寝かせて増やしなさい』、共著『全面改訂 ほったらかし投資術』などインデックス投資関連の書籍を手掛け、投資ブロガーの先駆け的存在として知られている。そんな水瀬さんがずっと大切にしている一冊とは。
【水瀬ケンイチさんの一冊】
『ウォール街のランダム・ウォーカー』(バートン・マルキール著)
アメリカの経済学者で作家のバートン・マルキール氏が、1973年に個人投資家向けの啓蒙書として出版したロングセラー。それから40年以上の月日が経った現在も、改訂を重ねながら世界中で読み継がれている不朽の名著です。500ページにのぼる分厚い本ですが、一貫して主張されているのは「インデックスファンドへの投資がベスト」ということ。それを証明するために、膨大なページ数を割いて他の投資法を実証分析している硬派な一冊になります。
ちなみに、タイトルの“ランダム・ウォーカー”とは、“千鳥足の酔っ払いが次の一歩をどのように踏み出すかを予想することは困難である”という意味に由来。株価の短期的な値動きの予想が、いかに困難かを示唆しています。そして、不確実な投資の世界において、個人投資家にとって“いくぶんマシ”なのが、インデックスファンドを買ってじっと待つことだと結論づけているんです。もちろんインデックス投資の弱点も書いてあって、リスクは結局把握しきれないこともきちんと示しています。
最新の改訂12版では仮想通貨にも触れられており、内容がますます進化。88歳の人物が書いているとは思えない凄みがあります。
影響を受けたポイント
投資スタイルの大きな転機になった
20代後半から30代にかけて、図書館の金融・経済に関する本から、生き方や人生訓にまつわる本まで、年間200冊くらい乱読していた時期がありました。そのときに、この本を手にとりました。まず、まえがきに書かれていた次の一文にビビッときたんです。
「個人投資家にとっては、個々の株式を売買したり、プロのファンド・マネジャーが運用する投資信託に投資したりするよりも、ただインデックス・ファンドを買ってじっと待っているほうが、遥かによい結果を生む」(第12版より)
買うだけで何もしなくていいなんて、衝撃的でびっくりしました。最初はインチキだと思ったんですよ(笑)。当時は投資といえば、株を安く買って高く売ることで儲けるしかないと思っていたので。でも、読み進めていくうちに、株式市場やバブルと崩壊の歴史やさまざまな投資法の検証などが学術的に書かれていて、信用に値することを確信。気づいたらどっぷりはまっていました。
じつはそれまでは、老後の資産形成を目的に個別株に投資していたんです。でも、常に財務諸表を分析したり、新製品情報や不祥事といったニュースに日々アンテナを張っていたりと疲弊していました。それはもう本業に支障が出るほど・・・・・・。凝り性で心配性なので、もともと向いていなかったんだと思います。
この本をきっかけにインデックス投資をはじめたのですが、その頃はインデックスファンドの商品が少なく、TOPIXと日経225ばかり。外国株は信託報酬が高くて、商品選びが結構大変でした。周りでやっている人もほとんどいなくて、情報が乏しくて苦労しましたね。
それから、はや18年。いまはインデックスファンドのみ保有しています。少し前まではアクティブファンドにも投資していましたが、インデックスファンドと比較すると、やはり成績が悪かったので結局手放しました。実体験をもって、マルキール氏の主張はやっぱり正しいんだなと痛感しました。
おかげさまで仕事中に株のことも気にならなくなり、当然集中力も上がりました(笑)。現在は、老後不安の必要がないくらいの資産を築くことができたので、本当にこの本に出会ってよかったと思っています。いまは早期リタイアに向けて、タイミングを見計らっているところです。リタイア後は・・・・・・そうですね、何かに忖度することなく、自由な情報発信をしている人にすごく憧れるので、自分も早くそうなりたいですね。
この本をおすすめしたい人
すべての投資初心者の“2冊目”にしてほしい
この本を特におすすめしたいのは“投資の初心者”です。個別株、FX、先物、なんでもいいので、何かしらの投資をはじめた初心者に読んでもらいたいですね。ただ、はじめの1冊としては重過ぎるので、2冊目に推します。1冊目は投資の全体像が分かるあっさりしたものを読み、より深い知識をこの本で補強してもらいたいです。インデックス投資だけではなく、さまざまな投資方法について言及されていますし、1~4章のバブルの歴史は、これだけで本になるくらいの価値がありますよ。
もちろん全15章をしっかり読んでもらいたいのですが、8章から読み進めるのもおすすめ。1~4章はバブルの歴史、5章から7章までは、インデックス投資以外の手法について書かれているので、後回しにしてもいいかなと思います。なので、8章から入って、最後まで読んでみてください。
投資の良書に巡りあうための秘訣
時代を超えて読み継がれる古典に触れる
私にとっての良書とは、 “時間の洗礼を受けた古典”です。この本も1973年から今日まで、少しずつ内容をアップデートしながら、ずっと読み継がれていますが、それにはそれ相応の理由があるわけです。投資本ではありませんが、風雪に耐えて生き残っている本に、デール・カーネギーの『道は開ける』『人を動かす』などがあります。これもビジネス書の鉄板として知られていますよね。つまり時代を超えて、たくさんの人に読まれ、影響を与えたとされる本は、良書である確率が極めて高いと思います。よって「投資の良書に巡りあうための秘訣」のひとつは、古典を読むことです。
そしてもうひとつは、乱読することです。あまり効率的ではないので、皆さんにおすすめできるやり方ではありません。ただ、私は数十冊読んだうち1冊の確率で良書に出会える感覚を持っています。
ちなみに、私はまだサラリーマンをやっていますが、経済的に困るからというよりは、然るべき生きがいがないと、会社を辞めてもいいことがないと考えているからです。というのも、仕事以外に生きがいがないと、心身に影響が出て体調を崩すというデータがあることが、以前乱読したときに出会った本に書いてあったからです。このように、どんな本が人生の意志決定に影響を与えるか分かりませんから、たくさんの本に目を通すといいと思います。
とりわけ投資本に関しては、以前よりも良書に出会う確率が高い気がしています。なので、1冊だけでは響かないかもしれませんが、毛色の違う本を数冊読めば、しっくりくる本が見つかると思うんです。そして、もし自分的にヒットした本が見つかったら、そこから派生した本を探してみる。そうやって蓄積された知識が、自分なりの投資スタイルの土台になるのではないでしょうか。
(末吉陽子/やじろべえ)