「任意後見制度」よりも自由度が高いって本当…?
親の財産を子どもが管理できる「民事信託」のメリットを深掘り
今後ますます超高齢社会が進めば、親が100歳近くまで生きる可能性はあるだろう。場合によっては、認知症などで親の判断力が低下してしまうことも考えられる。もしそうなってしまったときに使えるのが、「成年後見制度」と「民事信託(家族信託)」だ。
「成年後見制度」の1つに、家族が後見人になれる「任意後見制度」があるにもかかわらず、同様に家族が財産を管理できる「民事信託」が存在する意味とは? ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子さんに、親の財産管理について教えてもらった。
「民事信託」は財産を活用して利益を生み出せる制度
「『任意後見制度』を使い、親が被後見人、子どもが後見人となれば、子どもは親の財産を管理できます。ただし、被後見人自身や財産を保護するための制度なので、積極的な投資などはできません。一方、『民事信託』で親が委託者、子どもが受託者となれば、親の意思に従って子どもが財産を投資や節税に回し、利益を出すことができるのです」(川部さん・以下同)
どちらも家族が財産を管理することに変わりはないが、「任意後見制度」はできることが最低限に抑えられていて、「民事信託」はある程度自由度が高いといえそうだ。
「制度が効力を発揮する期間も異なります。『任意後見制度』は、親の判断能力が低下してから、親が亡くなるまでの制度です。『民事信託』は、委託者である親があらかじめ期間を設定でき、判断能力が落ちる前から子どもに委託することが可能。終期を決めず、無期限に存続させることもできます」
親が元気なうちから財産の使い方について話し、管理をスタートできる「民事信託」であれば、親の意思からズレることも少なくすみそうだ。
「『任意後見制度』は家庭裁判所での手続きが発生するので、少し手間がかかりますが、『民事信託』では家庭裁判所などの公的機関は関わってきません。また、『任意後見制度』では、任意後見監督人への報酬が発生しますが、『民事信託』では受託者への報酬を自由に設定でき、無報酬にすることもできます。家族会議次第ですね」
「信託財産」は受託者自身の財産と別個に扱う義務がある
さまざまな条件から、「民事信託」の方が親にとっても子どもにとってもメリットが大きいように感じるが、自由度が高いがゆえに、受託者である子どもが散財してしまうことはないのだろうか。
「『民事信託』で委託される財産は『信託財産』と呼ばれ、受託者自身の財産と別に管理しなければならないという決まりがあります。名義は受託者に移りますが、親の意思に従って管理することは義務で、完全に自由に使えるわけではありません」
親が「株式投資をする」「妻に生活費として月20万円渡す」など定めていれば、その通りに管理できるが、定めていないことを子どもの判断で行ってはいけないのだ。
もし「株式投資をする」と定められていれば、どの銘柄に投資するか決めるのは、子どもとなる。どのくらいの利益を出していくかという部分では、自由度が高いといえるだろう。
「また、『民事信託』には委託者、受託者のほかに受益者も存在します。受益者は、『信託財産』から発生した利益を受け取る人のことで、一般的には委託者の家族や親族が当たります。子どもは親の意思に従うと同時に、受益者のためになる管理を行うことも求められます。家族の信頼関係が、重要なポイントになる制度です」
「任意後見制度」併用で法律行為の代行をカバー
川部さんは、「財産が多い家庭の場合は、『任意後見制度』『民事信託』の併用もおすすめ」と話す。
「『民事信託』は財産の管理は行えますが、それ以外の権利は受託者に与えられません。片や『任意後見制度』は財産管理だけでなく、被後見人である親の入院や介護施設への入所の契約、手術の同意など、法律行為の代行も後見人である子どもが行えるのです」
任意後見監督人への報酬を払う余裕があれば、2つとも活用することで、万が一の事態に備えられるというわけだ。
「併用することで、それぞれに足りない部分を補完できると思います。親の財産の行方が気になるようであれば、家族で話し合い、利用を検討してみてください」
子どもにも、大きく関係してくる親の財産。家族の将来のため、「民事信託」や「任意後見制度」の利用は考えておいた方がいいだろう。まずは、親の意向を聞くところから始めてみては。
(有竹亮介/verb)
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川部紀子
FP・社労士事務所川部商店代表、ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士。日本生命保険相互会社に8年間勤務し、営業の現場で約1000人の相談・プランニングに携わる。2004年、30歳の時に起業。個人レクチャー・講演の受講者は3万人を超えた。著書に『まだ間に合う 老後資金4000万円をつくる! お金の貯め方・増やし方』など。