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創業者の先見性が生んだ、大人数のつながり

孤独を救った「Zoom」が、コロナ後に生み出す新たな価値

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コロナ禍の中で「Zoom」というサービスがすっかり馴染みあるものになった。パソコンやタブレット、スマホを使ってウェブ会議を行えるもので、仕事はもちろん、Zoomを使った“リモート飲み会”も普及。外出自粛の「孤独」を救った、一番のサービスかもしれない。

「Zoomは教育やイベントにも取り入れられており、コロナ終息後も、オフラインと併用する新しい可能性が見てとれます」。こう話すのは、ZVC Japan株式会社(Zoom)のカントリーゼネラルマネージャーを務める佐賀文宣氏。Zoomは今どう広がり、アフターコロナでオフラインとどう併用されていくのか。佐賀氏に聞いた。

Zoomによる教育、子どもたちの意外なフィードバックとは

アプリやアカウントを持っていなくても、URLさえクリックすればウェブ会議が行えるZoom。その手軽さから、外出自粛を皮切りにビジネスシーンや教育現場で急速に使われた。

実はコロナ前から「日本では教育関連での広まりが早かった」と佐賀氏。他の国と比べて顕著であり、4月以降はさらに加速した形だ。そして、実際に行ってみると、子どもたちは意外なほどオンライン教育に好意的だったという。

「どうしても『対面の方が良い』と先入観を抱きがちですが、子どもからは『オンラインだから気軽に質問できる』『先生と話しやすい』といった声が非常に多いのです。たとえば、家庭教師の事業を行う株式会社バンザンでは、早くからZoomを使ったオンライン授業を実施。同社が生徒に対し、対面とオンライン、2つの授業を比較したアンケートを行ったところ、『オンラインの方がいい』あるいは『同じ』という回答が91.5%に上ったのです」

さらに、“教える側”からも好評だったという。たとえば、出産を理由に教育現場を一時離れた人、あるいは親の介護のために教師を辞めて地元に帰った人が、Zoomを使い、育児や介護をしながら家庭教師をするケースが出てきた。「住む場所に関わらず、自分のペースで子どもに知識を伝えられる」。オンライン教育の現場から聞かれたこの声は「Zoomにとってうれしい副産物だった」と佐賀氏は微笑む。

コロナ禍の中で、オフラインの“代用”としてオンラインの手段が注目を浴びた。しかし、実際はオフラインに負けない良さがあり、「2つの併用でこそ生まれる価値が明確になってきた」と佐賀氏。アフターコロナの世界を考える上で、この気づきは重要になると考えている。

さらに、2つの併用が生む価値について、教育だけでなく、イベントや企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)でも「起こりうる」と話す。

1000人参加、49人同時表示を可能にしたシステムの工夫


オフライン・オンラインの併用について深掘りする前に、改めてZoomの特徴に触れておきたい。大きな強みは、一度に1000人まで接続でき、最大49人の同時表示が可能な点。手軽かつ大人数で使え、人数が増えても通信不良や遅延を感じない。

この強みは、配信システムの工夫から生まれている。たとえば、参加者全員を均等に分割表示する画面モードの場合、一人一人の映像はサイズが小さくなるので、高画質で映像を届けても非効率。そこで、適度に解像度を落とす。

一方、話している人が大きく映る画面モードの場合は、大写しの画面のみ高解像に。他の画面は非常に小さなサイズになるので、より解像度を落とす。このシステムにより「参加人数が増えても、トータルのデータ量は大きく変わりません」と佐賀氏は説明する。

なお、Zoomに類似したサービスの多くは、運用の主となるサーバを持つ集中型のクライアントサーバ方式。そのため、ユーザーが増えるほどクライアントサーバの負荷が増し、動きが重くなる。

一方、Zoomは主となるサーバを持たない分散型の設計。佐賀氏は「スマホをはじめ、今の端末のCPUは性能が高く、作業を端末側に分散させることでむしろ能力が高まるのです」と説明する。

「こういったシステムを構築できたのは、Zoomが9年前に開発されたものであり、現代のスマホの能力やウェブ環境に合わせた最新の設計だからです。他サービスは、およそ20年前の設計をベースにしているものが多く、集中型のクライアントサーバが中心。それが配信の差を生みます」

20年ほど前から、ネット上でビデオコミュニケーションを行う「ウェブ会議」や、専用機器で会議室をつなぐ「ビデオ会議」のシステムが開発され始めた。ウェブ会議とビデオ会議は似ているが、システムはまったく異なるもの。そして、今あるサービスの多くはこの時代の基本設計を引き継いでいるという。

さらに、ウェブ会議・ビデオ会議両方に対応したサービスも増えているが、中身を見ると、実は2つのプラットフォームをくっつけて1つにした形が多いようだ。

「一方、Zoomは最初からウェブ会議とビデオ会議を区別せず、1つのプラットフォームで開発しました。9年前にゼロから作り始めたからこそ、新しい考え方で、最新のデザインができたのだと思います」

Zoomを開発したエリック・ユアン氏(現Zoom Video Communications CEO)は、もともとWebexという会社で、同じくウェブ会議やビデオ会議のシステムを作っていた。2007年、同社はシスコシステムズに買収され、Cisco Webexというサービスで今も提供されている。

ユアン氏もこの会社に所属し続けたが、まさに9年前、2011年に今のスマホなどに合った新たなウェブ会議サービスの開発を提案。根底にあったのは、たくさんの人がデジタルの場で気軽に顔を合わせるシステムを作ること。そのためには、昔のデザインを引き継ぐのではなく、まったく新しいデザインが必要という思いだった。

しかし、アイデアは採用されず、ユアン氏は同社を離れ創業。Zoomを開発したのである。ウェブ会議・ビデオ会議に対する彼の先見性が、1000人の同時接続、49人の同時表示を実現したのだった。

一方、URLひとつで参加できる手軽さは混乱も招いた。会議のURLを予測し、勝手に侵入して悪質行為を行う「Zoom Bombing」が発生したのである。これらについては、参加者にパスワード入力を義務づけるなど、すでに対策を実施。佐賀氏は「メーカーとして見通しに甘さがあったと痛感しており、今後もセキュリティを強化していきます」と言う。

Zoomが生むイベントの「プレミアム化」。今後は字幕機能も

いずれにしても、Zoomにより、オフラインからオンラインに切り替える試みが多数の場で行われた。そこで見えたのが、先述したオフライン・オンラインの併用。コロナ後において、これが「新しい価値を生む」と佐賀氏は考える。

「たとえばイベントやセミナーなら、オンライン参加を“標準”とし、会場に足を運ぶオフライン参加は“プレミアム”な位置付けにする。オンラインなら遠方からも参加しやすく、質問もデジタルで行えます。一方で『現場で見る』という行為には付加価値がつきます」

Zoomにも最大1万人が視聴できるウェビナー機能があり、同社も昨年、この機能を使ってオンラインセミナーを行ったという。その際、チャット専用スタッフを20名ほど用意し、500件近い質問にその場で答える形に。同じことをオフラインで行うのは難しい。このように、両方の良いところを生かし、相互に価値を高める方法は増えるはずだ。

「企業の人材確保においても、オフライン・オンライン両方を充実させることが、働きやすさにつながるはず。特に今の学生は、この期間にオンライン授業を経験した世代です。DXに力を入れた企業が『選ばれる会社』となり、良い人材が集まるのではないでしょうか」

なお、今後Zoomに追加する機能として、字幕や通訳の実装を視野に入れている。「現在、Zoomは地域や物理的距離の壁を無くすサービスですが、今後は言葉の壁も無くしていきたい」と佐賀氏。同社では、毎週ユアン氏による社員向けウェビナーが行われており、そこではすでに字幕表示を行っている。

まだ開発途中の“ベータ版”ではあるものの、お披露目は近い。例年10月にアメリカで行われていた同社のイベント「ZoomTOPIA(ズームトピア)」は、今年初めてオンラインでの開催になるが、そこでこれらの機能を発表する予定だという。

オフラインでの行動が制限される中、私たちのコミュニケーションを救ったZoom。いつか日常を取り戻した後も、オフラインとの併用によって新しい価値を作るだろう。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2020年7月現在の情報です

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