再選のカギは「アメリカ経済」と「○○人の失業率」
トランプ大統領がアメリカ大統領選挙で重視しているもの
日本でも、連日のように報道されているアメリカ大統領選挙。6月末時点では、民主党のバイデン氏が有利と目されているが、トランプ大統領再選の可能性はどの程度あるのだろうか。
アメリカの政治に詳しく、トランプ大統領のコミュニケーションスタイルを研究している明治大学政治経済学部の海野素央教授に、今年のアメリカ大統領選挙に大きく影響する要素について聞いた。
大統領選挙と密接に関係する「失業率」
「アメリカ大統領選挙において、有権者の関心が高い分野は『経済』と『失業率』です。今年6月、ロイター通信が世論調査で、有権者に『アメリカが直面しているもっとも重要な問題は何だと思いますか?』と質問したところ、『経済一般』が20%、『失業・雇用』が10%を占めたのです」(海野教授・以下同)
あらゆる問題の中で、「経済」に関する問題が3割を占めたのだ。過去の大統領選挙を振り返っても、景気が好調な時ほど、現職の大統領が再選しやすいという。
「2012年、当時の大統領だったバラク・オバマ氏の再選をかけた選挙が行われました。選挙直前の10月の失業率は4.9%と低く、オバマ氏は見事再選したのです。一方、1992年にジョージ・H・W・ブッシュ氏が再選できなかった原因は、経済を立て直せなかったからだと考えられます」
そして、今年6月のアメリカの失業率は11.1%。新型コロナウイルスの影響を受けているとはいえ、失業率は依然として高い。
「失業率11.1%は、トランプ大統領再選にとって赤信号です。失業率が上がれば、当然有権者の不満も高まり、政権交代した方がいいという流れになります。11月の大統領選挙までの4カ月を切り、トランプ大統領が失業率を5%以下まで下げられるかが、カギになると思います」
経済立て直しの策は「貿易戦争」「ワクチン開発」「法人税減税」
トランプ大統領の経済立て直しの秘策は、いくつかあるそう。そのキーワードが「株価」。
「トランプ大統領の特徴は、非常に株価にこだわるところ。そして、株価が上がる仕組みを把握しているところです。その仕組みの1つが、米中貿易戦争。報復関税の掛け合いによって、株式市場は不安定になり、投資家を不安にさせます。そこで中国との合意に持っていくと、株価が上がるということを知っているのです」
「ただし、現在は米中関係が悪化しているため、貿易合意が経済立直しの材料になるとは断言できない」と、海野教授は話す。では、そのほかの「株価が上がる仕組み」は、どのようなものが考えられるだろうか。
「今、トランプ大統領が力を入れている新型コロナウイルスのワクチン開発も、その1つだと考えられます。ワクチン開発が、国内経済を活性化させる起爆剤になるから。また、トランプ大統領の支持基盤は製薬会社なので、ワクチンを開発して製薬会社の株価が上がれば、選挙に有利に働くという思惑があるのでしょう」
世界的に見ると、ワクチン開発は国家間の覇権争いの一環のように感じられるが、トランプ大統領は再選のための策の1つと考えているのかもしれない。
「トランプ大統領は『年内に開発できる』『来年は素晴らしい年になる』と、強調しています。恐らく、有権者である投資家を安心させ、支持してもらうために、繰り返し言葉にしているのだと思います」
もう1つ、トランプ大統領が経済立て直しのために考えている秘策は、法人税減税だという。
「トランプ大統領は、大企業を対象にした大幅減税というカードを持っています。法人税減税は経済にダイレクトに影響しますから、11月までに遂行したら、アメリカ経済はかなり大きく動くと思います」
現在の「人種差別問題」も大きく影響している
トランプ大統領が再選のため、経済を立て直し、失業率を下げる政策を打てば、必然的にアメリカ経済が上向きになっていくといえそうだが…。
「トランプ大統領の思惑通り、米中貿易戦争がうまく作用し、ワクチン開発が実現できれば、経済はよくなっていくはずです。ただし、必ずしもうまくいくとは限りませんし、現在は人種差別の問題も大きく関係しています」
今年6月の失業率は11.1%だが、5月は13.3%だったため、実は2ポイント以上下がっているのだ。しかし、失業率が下がったのは、白人だけなのだそう。黒人の失業率は5月が15.5%、6月が16.3%と、0.8ポイント上がっているのだ。
「一部の失業率を下げるだけでは、経済は劇的には変わりませんし、トランプ大統領の再選の可能性も大きくは上がりません。黒人票の獲得に動いているトランプ大統領ですが、黒人の失業率も下げないことには、票は動かないでしょうね」
今年のアメリカ大統領選挙のカギは、「失業率」といえそうだ。トランプ大統領再選のバロメーターになるだろう。
「再選を視野に入れているトランプ大統領が、自国経済に悪影響を及ぼすことはしないと考えられます。そして、11月までに失業率をどこまで下げられるかが、ポイントになります」
大統領選挙を追うことで、選挙と密接に関係しているアメリカ経済の知識が得られるかもしれない。世界情勢を知るためにも、11月の選挙まで要チェックだ。
(有竹亮介/verb)
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海野素央
明治大学政治経済学部教授。専門は異文化間コミュニケーション、異文化ビジネス論。2008年、2012年、2016年の米大統領選で研究の一環として民主党陣営に参加し、実地調査を行うなど、米国政治を独自の視点から調査・分析する。著書に『オバマ再選の内幕』『リスクと回復力』など。