銀行・証券・保険すべての商品を扱う業者が登場するらしい
法改正で誕生する「新たな金融サービス仲介業」って何?
2020年6月、金融商品販売法の改正案が国会で成立したことで、「金融サービス仲介業」が創設される。どうやら、銀行・証券・保険といった金融サービスや商品をまとめて扱う業態を指すらしいが、新設されることでどのような変化が起こるのだろうか。
野村総合研究所 金融イノベーション研究部の竹端克利さんに、法改正の経緯を追いながら、「金融サービス仲介業」について教えてもらった。
金融機関と客の間に立つ「金融サービス仲介業」
「今回新設される『金融サービス仲介業』とは、銀行・証券会社・保険会社といった金融機関とお客様の間に立ち、サービスや商品を仲介する業を指します。これまでも、金融商品やサービスを仲介する業はありましたが、業態別に分かれていました」(竹端さん・以下同)
これまでの仲介業は、金融機関の業態ごとに、それぞれ登録が必要だった。銀行だと「銀行代理業者」、証券会社だと「金融商品仲介業者」、保険会社だと「保険募集人(保険仲立人)」。例えば、保険代理店は「保険募集人」の資格を持っており、特定の保険会社の商品しか扱えないのだ。
「もう1つ、現行の仲介業の特徴は『所属制』と呼ばれる仕組みがあること。それぞれの仲介業者は、委託元となる金融機関(所属金融機関)が決まっていて、そこのサービスや商品を扱います。仲介業者1社につき、所属金融機関1社から数社程度が一般的です」
金融機関は所属する仲介業者の運営を指導する立場にあり、仲介業者が利用者に損害を与えた場合、金融機関が賠償責任を負うという決まりもある。会社は別だったとしても、実質的には、金融機関の一部だったといえる。
「フィンテック企業が登場するなど、金融サービス提供の在り方が変わる中、現行の規制の枠組みでは限界があるのではないかという問題意識のもと、規制体系全般を考え直すための議論が2017年11月に金融審議会で始まりました。そこでは、決済分野も含めて幅広いテーマが取り上げられましたが、仲介業に絞れば、先ほど申し上げた『業態別の登録』と『所属制』の見直しが焦点になったのです」
前述の通り、仲介業者が銀行・証券・損害保険・生命保険といったすべてのサービスや商品を扱おうとすると、4種類のライセンスを取得する必要があるのだ。
「国内で損害保険を使う仲介業者(損害保険代理店)は18万社ある一方、4つの分野すべてで登録している仲介業者はわずか4~5社程度。それほど、個別に登録することの負担は大きいのだと考えられます。また、『所属制』も大きな問題といえます」
金融機関に所属しなければ、その金融機関の商品は扱えない。つまり、複数の機関の商品を扱うためには、そのすべてに所属しなければいけない。もし、フィンテックを活用し、アプリなどで幅広い金融機関の商品を扱いたいと考えても、所属制に伴う手続きなどがかなりの負荷となり、断念する業者は出てくるだろう。
そのため、2017年11月から議論が始まり、2020年6月に金融商品販売法の改正案が成立したのだ。
法改正で“金融サービス仲介”の可能性を拡大
「法改正で新設される『金融サービス仲介業』のポイントは大きく2つあり、1つはすべての分野のサービス・商品を扱えるよう、ライセンスを一本化すること。もう1つは、『所属制』を用いず、多くの金融機関を仲介できるようにすること。この2点を採用した『新たな金融サービス仲介業』が、今後出てくるのです」
仲介業者は、1回の登録で銀行・証券・保険すべての仲介を行うことができ、金融機関に所属する必要もなくなるため、自由度が増す。ビジネスの幅も広がることだろう。ただし、別の問題が出てくるという。
「『所属制』を用いないということは、これまで金融機関が担ってきた利用者保護の責任を、仲介業者が負うことになります。結果的に、利用者保護上のリスクが高くなることが懸念されているのです。その対応策として、金融庁が掲げている案は、仲介業者が複雑な商品・説明が難しい商品を扱えないようにすること」
金融庁が2019年11月に示した資料では、以下のような分類例が示されていた。
新たな仲介業者が取り扱う範囲のイメージ
「上の表は、あくまで金融庁がイメージとして示したもの。審議会において、『もっと広くすべき』という意見もあれば、『もっと狭くすべき』という意見も聞かれ、結論には至っていません。細かなところは、これから決まっていくと思われます。今回成立した法律は『1年半以内に施行』と定められているので、遅くとも2021年中には明らかになるのではないでしょうか」
将来的には家計簿アプリで投資信託が買える!?
「新たな金融サービス仲介業」として、どのようなサービスが誕生すると考えられるのだろうか。
「まったく新しいサービスが生まれるというよりも、既にある程度の顧客基盤を持っている会社が提供するサービスに、新たな機能がプラスされる可能性が高いのではないかと見ています」
「金融商品を仲介することでより一層便利になるサービスとして考えられるものは、家計簿アプリやクラウド会計ソフトではないか」と、竹端さんは話す。
「例えば、家計簿アプリの履歴をもとに、ベストな投資信託やカードローンをおすすめしてくれる機能ができるかもしれません。クラウド会計ソフト上で、その会社にマッチした銀行の融資の情報が提供されることも考えられます。比較サイトの保険のページから、申し込みまでできるようになる可能性もありますね」
まだ法律が成立したばかりだが、身近なところで変化をもたらしそうな「新たな金融サービス仲介業」。日々の生活を有意義にするためにも、今のうちからチェックしておくべきといえそうだ。
(有竹亮介/verb)
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竹端克利
野村総合研究所(NRI)金融イノベーション研究部上級研究員。2005年NRI入社。コンサルティング事業本部で統計・計量経済モデルの分析、公的経済統計の改善・構築支援等の業務に従事。2012年より金融イノベーション研究部にて金融・財政政策および金融制度に関する調査研究に従事。