ESG投資との違いは「投資による社会への貢献を具体的に測定すること」
今の時代に注目しておきたい「インパクト投資」ってなに?
近年、投資の世界で耳にする機会が増えている「インパクト投資」。どうやら、環境・社会・ガバナンスに配慮している企業を重視する「ESG投資」に近いもののようだが、違いはどこにあるのだろうか。
ニッセイアセットマネジメントESG推進室チーフ・アナリストの林寿和さんに、「インパクト投資」とはどのような投資を指しているのか、聞いた。
「金銭的リターン」と「インパクト」を生じさせる投資
「『インパクト投資』という言葉は、2007年にアメリカの慈善事業団体・ロックフェラー財団が初めて使用したといわれています。2015年、SDGsの策定やパリ協定の合意などによって、世界的に環境・社会課題が意識されるようになったことがきっかけで、『インパクト投資』への注目が高まっているのです」(林さん・以下同)
世界最大級のインパクト投資家コミュニティ「グローバル・インパクト投資家ネットワーク(GIIN)」では、「インパクト投資」を“金銭的リターンに加えて、ポジティブで測定可能な社会面・環境面のインパクトを生じさせるという意図を持って行われる投資”と定義している。
「定義に含まれている“インパクト”とは、『事業活動の結果として生じた社会的・環境的なアウトカム』のこと。『アウトカム』とは、企業の事業活動によるアウトプットの先にある地球環境や社会の変化という意味合いです」
例えば、企業が途上国の子どもに向けて教育を提供する事業を行ったとする。この「教育」こそがアウトプットで、事業によって出た「地域の識字率が20%向上」という結果がアウトカムである。
「『インパクト投資』では、インパクトを測定することが求められます。しかし、投資によって企業がどのくらいアウトカムを生み出したかを数値で明示することは難しい場合が多く、まだ手探りの状態。取り組む投資家が増えていくことで、アウトカムの測定法が徐々に洗練されていくことでしょう」
事業による「インパクト」の測定・報告が必要
地球環境や社会の課題解決に動いている企業に投資するという点では、「インパクト投資」と「ESG投資」はほとんど変わらないように感じるが、明確な違いがあるという。
「『ESG投資』は、企業の環境や社会への取り組みに注目することによって、リターンを高めたり、リスクを抑えたりする投資で、インパクトのために投資しているとは限りません。一方『インパクト投資』は、“環境面・社会面の課題解決への貢献に対する意図を持った投資であること”と定義されていて、インパクトのために投資することが明確であるとともに、どのくらいのインパクトが生まれたか測定し、報告するという特徴もあります」
「インパクト投資」と銘打っている投資信託などでは、インパクトの測定結果を報告するレポートが作られるそう。また、解決を目指す課題を明確に打ち出しているファンドも多いという。
「気候変動対策や生物の多様性の保全、教育や栄養摂取の改善など、具体的な貢献テーマを掲げている投資信託も出てきています。そのテーマこそ“投資の意図”であり、インパクトの測定の対象となるのです」
「インパクト投資」には、さらに“金銭的リターンの追求”“アセットクラスの多様性”という特徴もある。
「この2つの特徴は、『ESG投資』とも重なるところ。いずれも、金銭的リターンの獲得を目指すものであって、単なる寄付ではありません。また、上場株式や債券、未上場株式など、さまざまなアセットクラスで実施できる投資なのです。もともと『インパクト投資』は未上場株式や融資などが主流だったので、機関投資家向けの印象が強かったのですが、近年は上場株式のファンドも出てきており、今後、個人投資家もアクセスしやすくなってくると思います」
「インパクト投資」重視の流れは始まっている
林さん曰く、「『インパクト投資』は、今後さらなる拡大が予想される」とのこと。その理由も聞いた。
「理由の1つ目は、国連が『SDGs(持続可能な開発目標)』に貢献している事業活動を認証する基準『SDG Impact Standards for Enterprise』を作ろうとしていることにあります。SDGsへの貢献を掲げる企業はすでにたくさん出てきていますが、国連自らが『SDGsに寄与する事業』の基準を示すことで、企業の活動がより具体的なものになると期待されます。インパクト投資家にとっては、魅力的な投資先が増えることに繋がるでしょう」
2つ目は、企業の存在意義の捉え方の変化と「インパクト投資」が対の関係になる可能性が高いから。
「昨年のビジネス・ラウンドテーブルやダボス会議で『企業は、株主の利益だけではなくステークホルダーの利益を高める存在であるべきだ』という論調が高まり、企業の存在意義が見直されています。インパクトとは言い方を変えると、ステークホルダーに対する利益といえます。企業の存在意義の捉え方の変化と『インパクト投資』の拡大が、互いに相乗効果を生む可能性があります」
そして、3つ目は、年金基金や資産運用会社など他者から預かった資産を管理・運用する人が負っている「受託者責任」が関係しているという。
「UNEP FI(国連環境計画・金融イニシアチブ)という組織が、受託者責任に関する法律の解釈に関する見解を過去2回発表しているのですが、2015年には『財務的に重要なESG要素を考慮しないことは、受託者責任に反している』と明言したのです。そして現在は、インパクトへの考慮について議論しているところ。その結果、インパクトへの考慮と受託者責任が矛盾しないということになれば、『インパクト投資』に積極的な機関投資家が増えてくるでしょう」
環境・社会課題の解決に関して、より具体的な結果に着目する「インパクト投資」。社会の中で生活する一員として、意識するべき投資手法といえるだろう。
(有竹亮介/verb)
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林寿和
ニッセイアセットマネジメント 運用企画部 ESG推進室/投資調査室 チーフ・アナリスト。