ATMから始めるニューエコノミー株の投資戦略
提供元:東洋証券
香港でATMを見かけない日はない。と言っても、ここで指すのは銀行の現金自動預け払い機のことではない。毎日のように現地の新聞ネタとなり、投資家の間でも話題のATMと言えば、そう、アリババ集団(Alibaba、09988)、テンセント(Tencent、00700)、美団点評(Meituan、03690)の3社だ。
中国の代表的新興企業を指す略語としては、アリババとテンセントに百度(Baidu)を加えた「BAT」が有名だった。これに京東集団(JDドットコム、09618)を入れて「BATJ」とも言われた。最近では中国テック業界の新御三家として「TMD」の存在感も上昇中。これは、ニュースアプリの今日頭条(Toutiao)、美団点評、配車アプリ最大手の滴滴出行(DiDi)の3社を総称したもの。なお、今日頭条の親会社は、TikTokも展開するバイトダンス(北京字節跳動科技)だ。
最新ワードの「ATM」は香港市場を代表する“Big3”銘柄を指す。昨年11月にアリババが香港上場を果たし、揃って取り上げられる機会が多くなった。同3社の株価は直近で上場来高値を更新する場面が目立つ。年初来の株価推移を見ると、3月中旬頃まではハンセン指数と同じようなパフォーマンスだったが、それ以降に大きく上昇した。ニューエコノミー銘柄として注目されたほか、ビッグデータやクラウドなど社会のデジタル化推進のキーワードに合致して買い進まれたようだ。
時価総額も拡大中だ。アリババは6900億米ドル、テンセントは6521億米ドルと、香港市場でトップを競う。フェイスブック(FB)は7645億米ドルで、両社ともこれに迫る勢いだ。美団点評は1679億米ドルとまだまだに見えるが、ナイキ(NKE)を上回る規模である。ATMの3社だけで、香港メインボードの時価総額の約28%を占める(数字はいずれも8/7時点)。
さて、ATMに代表される中国のニューエコノミー企業が香港市場に続々と上場している。6月11日に網易(ネットイース、09999)、同18日には京東集団がデビューした。ニューエコノミー株と一括りにされることが多いが、ここでは代表的企業の売上高と売上構成比率を比べ、それぞれの特徴を改めて確認してみたい。
まずは京東集団。19年12月期の売上高は5768億元で、ネット通販のライバルであるアリババ集団を上回る。アリババがマーケットプレイス型(Amazonや楽天方式)なのに対し、同社は直販モデルを採るのが特徴。自社物流にも注力しており、ワンストップ型ECを標榜する。14年にはテンセントのEC事業を実質的に買収した。
アリババ集団の20年3月期の売上高は5097億元。売上全体の85.6%を、EC、フードデリバリー、ネットスーパーなどの「コアコマース」が占める。クラウド部門も強化中で、売上の7.8%規模まで成長してきた。一方、比較されやすいテンセントは、売上の53.0%をスマホゲームが中心の「付加価値サービス」で稼ぐ。これを軸にスマホ決済などのフィンテックやオンライン広告などの事業を拡大中。ゲームと言えば、網易も売上全体の78.4%が「オンラインゲーム」。人気タイトル「荒野行動」が絶好調だ。
意外なのは小米集団(シャオミ、01810)だろうか。スマホ大手だが、実は全売上高に占める同事業の比率は59.3%。15年12月期の80.4%から大きく低下した。一方、「IoT・ライフスタイル製品」の比率は3割まで拡大し、充電器やイヤホンなどのスマホ周辺製品や関連ガジェット販売も収益源になってきた。ただのスマホメーカーという枠組みにとどまらない事業展開を進めている。
美団点評は、中国のネット出前最大手。「フードデリバリー」部門が売上全体の56.2%を占める。近年はシェアサイクルや配車サービスなども手掛けており、スマホ一つで何でもできる“スマホ経済圏”の構築を強化中だ。
ニューエコノミー株はバリュエーションが高く、市場ではやや過熱感もささやかれている。米中貿易摩擦やハイテク覇権争いによる影響も未知数だ。しかしながら、決して無視はできない存在であり、今後の中国経済をリードする企業であることは間違いないだろう。中国株の投資戦略としてはATMに代表されるニューエコノミー株をベースに考えていきたい。
(提供元:東洋証券)