金融機関で受けつけていないって本当…!?
「民事信託(家族信託)」の手続きってどうすればいいの?
生きているうちから、自分の財産を配偶者や子どもに委託し、管理を任せられる「民事信託(家族信託)」。委託された配偶者や子どもは、財産を投資や節税に回すことができるなど、自由度の高い制度だ。
<合わせて読みたい!>
親の財産を子どもが管理できる「民事信託」のメリットを深掘り
将来の認知症などの可能性を考え、「民事信託」の利用を検討している人もいるだろう。では、どのような手順を踏めば、家族に財産を委託できるのだろうか。その手続きに関して、ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子さんに聞いた。
「公正証書」「信託登記」…専門知識が必要な「民事信託」
「意外と知られていない部分ですが、『民事信託』は金融機関や役所で受けつけているものではありません。必要な人だけが行う任意の制度なので、専門的に行っている組織がないのです。そのため、『民事信託』を利用する場合は、自ら動く必要があります」(川部さん・以下同)
つまり、自分で書類などを作成し、進めていくことになるということだろうか。
「自分で『民事信託』の手続きを行うことは、法的には可能です。最初から最後まで自分で行えば、手続きにかかるコストを最小限に抑えられますし、信託の内容を他人に知られることもありません。『民事信託』完了までの手順を、簡単に紹介しましょう」
(1)「民事信託」の目的を、相続人となる家族や親族と話し合う
後々のトラブルを回避するためにも、自分が亡くなった後に相続にかかわる家族・親族全員で、「民事信託」の目的や内容を話し合って決めていくことが理想。
(2)信託契約書を作成する
財産の内訳や信託の内容などをまとめた信託契約書を作る。契約書の形式はまだ確立されていないが、ネット上でひな形をダウンロードすることはできる。
(3)公証役場で、信託契約書を公正証書にする
信託契約書の効力をより確実なものにするため、公正証書にしておくと安心。
(4)信託財産を受託者に名義変更する(信託登記)
委託者が父、受託者が長男である場合、委託する財産の名義を父から長男に変更。この際、「信託登記」の形で名義が変更される。
(5)信託財産専用の銀行口座を開設する
信託財産は、受託者の財産と分けて管理する必要があるため、口座も分けるのが一般的。
「『民事信託』の手続きには、信託や登記などに関する専門的な知識を要します。知識ゼロの状態だと、かなりハードルの高い手続きといえるでしょう。また、手探りの状態で進めていくと、不備があっても気づかず、いざ信託が開始する段階になって問題が発生するおそれもあります」
「民事信託」をするなら「司法書士」に任せて
自分で「民事信託」の手続きを進めることが難しいとなれば、誰かを頼るしかないが、金融機関でも役所でも受けつけていない。誰に頼めばいいだろうか。
「司法書士に依頼すれば、最初から最後まで手続きを任せられます。ただ、司法書士によって専門分野が異なるので、『民事信託』の経験がある人にお願いすると安心。弁護士にも同様の依頼はできますが、費用が司法書士よりも高くなります」
「民事信託」経験のある司法書士であれば、信託契約書の作成から信託登記まで任せられる。さらに、保有している財産の確認や仕分けなどに関しても、相談に乗ってもらえる可能性が高いが、もちろん費用はかかってくる。
「財産の内容や額によって費用は変わり、財産に不動産を含まない場合は30万~70万円、不動産を含む場合は50万~100万円が相場のようです。大きな金額ではありますが、家族が財産を管理する『民事信託』は、その後のランニングコストがかかりません。一方、『成年後見制度』はランニングコストがかかり、場合によって数百万円ほどに膨れ上がることもあります。“人生100年時代”といわれる時代なので、司法書士に依頼して『民事信託』を行う方が、結果として低コストで済む可能性があります」
自由度が高く、家族の安心感にもつながる「民事信託」だが、その手続きは難解。利用を考えている場合は、「民事信託」に強い司法書士探しから始めると良さそうだ。
(有竹亮介/verb)
関連リンク
川部紀子
FP・社労士事務所川部商店代表、ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士。日本生命保険相互会社に8年間勤務し、営業の現場で約1000人の相談・プランニングに携わる。2004年、30歳の時に起業。個人レクチャー・講演の受講者は3万人を超えた。著書に『まだ間に合う 老後資金4000万円をつくる! お金の貯め方・増やし方』など。