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配達のシェアにクラウドキッチン……

宅配にとどまらない、「出前館」に見るアフターコロナの可能性

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コロナ禍において、食事のデリバリーサービスを利用する人が大きく増えた。その代表的な存在と言えるのが「出前館」だろう。

出前館の特徴は、注文できる飲食店のラインナップが豊富なこと。チェーン店から個人経営のお店まで、大小さまざまな店舗の料理が宅配される。

とはいえ、小さな個人店がみずから配達するのは、人手やコストを考えると簡単ではない。それを補完したのが、出前館が2017年から始めたシェアリングデリバリーだ。3年前にできたこのシステムが、飲食店にとって「宅配」のハードルを低くしたと言える。

また、2020年3月にはLINEとの資本業務提携を行った。両社が手を組むことには、どんな意味があるのだろうか。出前館の広報を務める小宮栞穂里氏に聞いた。

信頼の置けるスタッフが配達を代行する「シェアリングデリバリー」

2000年にサービスをスタートした出前館は、当初、出前を注文したいユーザーとお店を“マッチング”するポータルサイトとして誕生した。出前館は「注文を受け付けるまで」が役割で、宅配には関わっていなかった。結果、配達機能を準備できず加盟しない店舗も多かった。

その仕組みを大きく変えたのが2017年。同社が始めた「シェアリングデリバリー」の機能である。

「シェアリングデリバリーは、出前館に加盟する複数の店舗で配達機能をシェアするサービスです。コロナ前から食品宅配の市場は年々拡大していましたが、配達人員の不足や配達時の責任から参入できないお店が多数ありました。シェアリングデリバリーでは、各エリアに配達拠点を設け、その拠点スタッフが店舗に代わって配達を行います。店舗は新たに配達員を採用する必要がなくなります」(小宮氏)

詳しいシステムを説明していこう。出前館のサイトやアプリから宅配の注文が入ると、その内容は飲食店に伝達される。と同時に、シェアリングデリバリーの配達拠点(以下、シェアデリ拠点)にいるスタッフにも連絡が送られ、配達スタッフは飲食店へ。出来上がった料理をピックアップし、注文者のもとに運ぶのだ。

シェアデリ拠点は、2020年5月末時点で全国に336設けられており、関東・関西の都市部を中心に、北海道から沖縄県まで展開されている。

拠点にも特徴がある。決して、出前館自体が新たに配達拠点を作っているわけではない。多くは地元の運送会社や、もともと宅配事業をやっていた飲食店などへの委託。たとえば今年7月に初展開した愛媛県では、地元の軽貨物業者である「四国軽貨物」が配達を行う。人材やノウハウの蓄積がある既存の会社・店舗とパートナー契約を結んでいるのだ。

「私たちがゼロから直営で構えるより、地域を知り尽くした地元の業者やお店にお願いする方が良いと考えています。車やバイクといった宅配ツールを有していて、宅配ノウハウのあるパートナーなら、スムーズにスタートできますから。加えて、配達スタッフはシェアデリ拠点の“直雇用”となるので、配達マナーや教育面も目が行き届きます」

食べ物を扱うからこそ、配達中の取り扱いや衛生面の配慮も気になるところ。届いたら「汁がこぼれていた…」といったケースは避けたい。その意味で各拠点が雇用し、責任を持って教育できる点もメリットかもしれない。

なお配達については、人の教育だけでなく、容器などにも配慮している様子。「汁漏れしにくい容器をメーカーと開発するなど、ツールによるバックアップにも力を入れています」と小宮氏は付け加える。

地方の味を東京で。クラウドキッチンを使った新たな食ビジネス

こういったシステムが事前に構築されていたからこそ、コロナ禍に宅配を始める店舗はスムーズに進められたのだろう。これを機に、フードデリバリーはより普及していきそうだ。

さらに、出前館では別の取り組みを通じてフードデリバリーの新たな可能性を見出している。そのひとつが「クラウドキッチン」だ。

「クラウドキッチンは、イートインの席を持たない、キッチンのみの“出前専門店”の総称で、近年増えています。ただし出前館のクラウドキッチンは、複数のブランドが1つのキッチンに入る形を採用。出前館直営のデリバリー専門ブランドを開発・展開し、今まで出前館になかったジャンルの充足と魅力的な商品をお届けしています。日本の食文化・出前に革命を起こしていくという意味も込め『インキュベーションキッチン』と私たちは呼んでいます」

現在、東京の学芸大学駅近くに出前館のクラウドキッチンがあり、3つのブランドが入っているという。4月には、宮城県仙台市の高級中華料理店であり“予約が取れないお店”として知られる「楽・食・健・美―KUROMORI」とコラボした「KUROMORI EXPRESS」をオープンした。

「仙台で仕込んでいただいた料理を冷凍でお送りいただき、事前にレクチャーを受けたスタッフが調理して宅配する形式をとりました。コロナ禍で地方に出掛けにくい状況ですし、そうでなくても育児などで遠出できない方はたくさんいます。そういった方が、遠くの名店の味を楽しめる仕組みとして、クラウドキッチンは可能性があると思います」

お店側としても、クラウドキッチンには多くのメリットがある。たとえば上述のような地方店の場合、東京進出を念頭に置いたテストマーケティングとしての活用が考えられる。もちろん、コスト面での利点も見逃せない。店舗やキッチンを自前で持たずに事業を始められるのだ。

宅配のハードルを低くし、さらには飲食店の新たな可能性を生む。出前館の取り組みはその線上にあると言えるだろう。

さらに今後の展望をたずねると、実は「飲食」にとどまらないビジョンがあるそうだ。そしてそれは、3月に発表されたLINEとの資本提携にも関係してくる。

「出前館は飲食以外のデリバリーにも対応しています。水回りのトラブル対応やハウスクリーニング、『メガネスーパー』のコンタクトレンズ即日宅配もあります。今後は飲食だけでなく、日常に必要なものをライフライン的に届けるインフラとして成長したいですね。LINEとの提携も、その部分の共感から生まれたものです」

LINEも、ひとつのコミュニケーションツールにとどまらず、ユーザーの生活すべてをサポートする「Life on LINE」のビジョンを掲げている。もともとデリバリーサービス「LINEデリマ」において出前館と連携してきたが、今後はよりユーザーの生活をカバーしていくのだろう。その中で、出前館の宅配ノウハウはカギとなる。一方、小宮氏は「LINEの持つITを駆使して、より出前館のサービスを高めたい」と答える。

フードデリバリーの普及は進んだが、その中身は「店内飲食」から「宅配」への単なる置き換えではない。シェアリングデリバリーやクラウドキッチンの事例は、飲食業の新しいビジネスモデルを予感させる。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2020年8月現在の情報です

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