GDPより重要なものは「在庫」と「現場の景況感」
投資するなら押さえておくべき「経済指標」~日本国内編~
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ニュースなどでよく耳にする「GDP」や「景気動向指数」。これらは公的機関が公表しているデータで、「経済指標」と呼ばれるもの。経済状況の把握や先行きの予測をするための指数で、投資にも役立つという。
では、具体的にどのデータが、投資に生かせるのだろうか。第一生命経済研究所 首席エコノミストの永濱利廣さんに、国内のデータで押さえておくべきものを教えてもらった。
「GDP」は投資ではなく“経済研究”のための数値
「一般的に大事だといわれる『GDP(国内総生産)』は、さまざまな分野の経済データを網羅した指標なので、経済を研究するのであれば活用できるデータです。ただし、投資においては、あまり重要ではありません」(永濱さん・以下同)
「『GDP』は重要ではない」と話す理由は、公表のタイミングが関係しているらしい。
「さまざまなデータを用いて作る『GDP』は、発表が遅いんです。アメリカの2020年4月~6月の『GDP』は7月末に発表されたばかりですし、日本に至っては8月17日発表と、かなり時差があるのです」
投資とは、今後の経済状況を予測し、先を見て動いていくもの。その観点からすると、1カ月以上前の経済状況が数値化される「GDP」は答え合わせにはなっても、予測には使いにくいのだ。
「特に今年は緊急事態宣言があったので、4月から5月にかけて『GDP』が下がることは、データを見なくても明らか。それに『景気ウォッチャー調査』などを見れば、6月に景気がV字回復していることが把握できます。もっと早く公表されるデータを見た方が賢明です」
経済先読みのヒントになる「製造業の在庫」
永濱さんに投資に役立つ国内の「経済指標」を聞き、まず挙げてくれたのが「鉱工業生産指数」。
鉱工業生産指数
国内で生産された鉄鋼、金属製品、電気機械、電子部品、デバイスなどの量を指数化し、基準年と比較してどの程度の水準にあるかを表すもの。毎月下旬に前月の速報値が発表される。
「日本は製造業のウェイトが大きく、運輸や卸・小売業などと密接に関係しているので、非常に重要な指標です。製造業のデータで、特に注目すべきは『在庫指数』。景気の循環は、製造業の在庫循環で作られるといっても過言ではありません」
「在庫は生産に先行する」とのこと。例えば、ある製品の需要が落ちれば、在庫が増えるため、生産は減る。逆に、予想より需要が落ちなければ、在庫が少なくなるため、生産は増える。
「生産が増え、ヒト・モノ・カネが動けば、景気が上がります。つまり、『在庫指数』が減少傾向にあれば、景気が上がると予測できるのです。逆に、『在庫指数』が増えているようだと危険。製造業の在庫は、魚釣りの浮きのイメージで、在庫に動きがあれば経済に動きが出る可能性が高いのです」
「鉱工業生産指数」は現状だけでなく、これからのデータもまとめられているという。
「『鉱工業生産指数』は実測データをまとめたハードデータですが、2カ月先の生産計画も各企業に調査しています。その指数が、製造業が今後どう推移していくか予測するための材料になります」
「企業のマインド」「労働者の感覚」が投資のヒントになる
さらに、国内の「経済指標」で重視すべきものを聞くと、2つの指標を上げてくれた。
日銀短観
日銀が全国約1万社の企業を対象に行っているアンケート調査。企業の経営環境に対するマインドや計画を数値化したもので、調査は3の倍数の月に実施され、翌月第一営業日に発表される。
「『日銀短観』では、現在の業績や製品の販売価格、仕入れ価格、設備投資の計画、想定為替レートなど、さまざまな情報を企業から聞いています。さらに、調査の実施から公表までの期間が短く、速報性が高いのです」
国内企業の現在の状況や、今予定している事業計画が把握できるため、投資に生かしやすいのだ。
「特に注目するべき指数は『業況判断DI』。業況を“良い”と回答した企業の割合から、“悪い”と回答した企業の割合を差し引いて作った指数で、先行きについても聞いているものです。3カ月前の調査と比較することで、景気がどう動いていくか予測できます」
景気ウォッチャー調査
商店主やタクシー運転手など、景気の動向を肌で感じている人たちの声を、内閣府が調査・数値化したもの。毎月25日から月末にかけて調査し、翌月上旬に発表。
「現場で働く人たちに景気の方向性や先行きを聞いたデータで、『現状判断DI』と『先行き判断DI』が公表されます。毎月発表されますし、公表のスピードがとにかく速い」
「経済指標」の読み方に慣れていない人こそ、「景気ウォッチャー調査」は読みやすく、知識も得やすいようだ。
「ほかのデータと違い、アンケートに答えた人のコメントが掲載されているところが特徴です。働いている人のリアルなコメントに景気変動の理由が表れているので、投資のヒントになると思います」
それぞれのデータが、どのような事柄をまとめたものなのか知るだけでも、指標の見方は変わってきそうだ。まずは、「鉱工業生産指数」「日銀短観」「景気ウォッチャー調査」をチェックしてみよう。
(有竹亮介/verb)
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永濱利廣
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト。1995年4月に第一生命保険に入社し、1998年4月に日本経済研究センターに出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部に所属し、2016年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師なども務める。著書に『経済指標はこう読む』『エコノミストが教える経済指標の本当の使い方』など多数。