マネ部的トレンドワード

世界的に珍しい制度も導入

知っているようで知らない、「5G」による3大変化とは

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最近よく聞くキーワードについて、その概要や社会に与える変化を追っていく連載企画「マネ部的トレンドワード」。今回取り上げるのは「5G」である。

2020年から本格的に提供開始となった5Gは、新しい通信システムの総称。「G」はGeneration(世代)の頭文字で「第5世代移動通信システム」と呼ばれる。

5Gという言葉はだいぶ聞き慣れたが、これまでの通信と比べてどれだけの違いがあるのか、私たちの生活や社会にどんな変化をもたらすのか、わからない点も多い。そんな疑問を解消すべく、みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部の中志津馬氏、西脇雅裕氏に取材。5Gのキホンについて詳しく聞いた。

5Gの「低遅延」が、世界中の人手不足問題を救う?

既存の通信と比べて、5Gはどれほど違うのだろうか。中氏は、1世代前の通信システム「4G/LTE」との比較をこう説明する。

「5Gには3つの大きな進化があります。それは『高速・大容量』『低遅延』『多数同時接続』で、4Gと比較すると、おおむね高速化は10倍、遅延は10分の1、多数同時接続は30~40倍になると言われています。特に注目したいのは低遅延と多数同時接続。高速化はこれまでもつねに発展してきましたが、残りの2つは、今まで見られなかったスケールの変化です」

中志津馬氏(みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 シニアコンサルタント)
情報通信技術利活用のための政策立案支援などの業務に携わる。総務省の「情報通信白書」作成支援など、情報通信技術に関する国内外の産業戦略および市場・技術動向等の調査研究業務を担当。

では、5Gの低遅延と同時多数接続は何をもたらすのか。まず低遅延については「ドローンや車両、さまざまな機器の“遠隔コントロール”が進化する」と西脇氏は話す。

「たとえばドローンを遠隔操作する際、これまでは障害物を回避しようにも、通信遅延によって間に合わないケースが考えられました。自動運転なども同様です。しかし、5Gの遅延は“1ミリ秒程度”に収まると想定されており、これは人間の感覚とほぼ同じ。世界的に少子高齢化・人手不足が進む中で、離れた場所から機械をコントロールする技術は、人手不足を解消する意味でも重要。5Gはそれをバックアップするでしょう」(西脇氏)

西脇雅裕氏(みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 コンサルタント)
インフラ(通信、建設テック)、モビリティ(自動運転、MaaS等)などをテーマに、中央省庁、民間企業等のリサーチ・コンサルティングに従事。

もうひとつの同時多数接続については、「スマートシティをはじめ、すべてがつながった社会の実現に近づく」と中氏。スマートシティとは、車や電車・バス、人々の持つスマホ、そして街中のさまざまなセンサーがつながり、あらゆるデータを連携してより良い暮らしを生む街づくりとも言えるが、そういった「すべてがネットワークでつながった街」を作るには、5Gの無線通信による同時多数接続が有効になってくる。

「ただし、現時点で各通信キャリアが展開している5Gは、3つの特徴のうち『高速・大容量』しか実現していません。というのも、現状の5Gは、各社とも4Gの通信システムを拡張する形で提供しています。これを『ノンスタンドアロン(NSA)』といいますが、この方法で実現できるのは『高速・大容量』のみ。今後、各社は4Gの拡張ではない、独立した5Gシステム『スタンドアロン(SA)』も増やしていく予定で、3つの特徴すべてが具現化するのは、スタンドアロンでの通信が行えるようになってからです」(中氏)

提供みずほ総研

今春から5Gの本格展開がスタートしたが、本当の意味でその凄み、3つの特徴を私たちが体感するのはまだ先。スタンドアロンによるネットワーク環境になってからと言える。西脇氏は「スタンドアロンのシステムが稼働し始めるのは、早くても2021年からです」と付け加える。

なお、各通信事業者は今年から基地局を整備し、順次5Gの提供エリアを拡大していく。その際、先にノンスタンドアロンを全国に広げて、その後スタンドアロンに変えていくのか、あるいは初期からスタンドアロンを積極的に増やすのかは、事業者ごとの戦略によって変わるという。

スポーツ中継は、自分でカメラの視点を選べるかもしれない?

もちろん、スタンドアロンの5Gが全国で完全整備されたときは、私たち一般消費者が受けるメリットも大きくなるだろう。

「わかりやすい例がエンタメコンテンツの進化です。たとえばスポーツ中継は、高画質・高音質の映像が見られるのはもちろん、映像の視点が多数用意された『多視点映像』が実現し、自分の好む視点を随時選べる中継が出てくるかもしれません。5Gにより、従来の何倍もの映像データを流せるからです」(中氏)

また医療分野では、大容量や低遅延の実現により、遠隔地からの診療や手術を受けることも可能になるかもしれない。

一方、5Gは通信料や契約料といった消費者の支払うコストを下げる可能性もある。それに関係するのが、通信システムの技術進化だ。

「これまで、ネットワークを構成する機器は通信専用の高品質なものでしたが、4Gの頃から廉価な汎用機器を使いネットワークを構成する実験が行われてきました。5Gではこの技術がさらに応用されるため、ネットワーク機器や設備投資のコストを下げられるかもしれません。そうなれば、当然ユーザーの契約料や通信料の低下につながる可能性があります。第4のキャリアとして参入した楽天が低価格を実現したのも、この技術の応用が関係しています」(西脇氏)

世界でも珍しい「ローカル5G」は、日本の製造業の強みに?

さて、ここまでは5Gが一般消費者にどんな変化を与えるか聞いてきたが、実は“対企業”の視点でも「5Gのもたらすインパクトは大きなものになる」と2人は口をそろえる。その代表と言えるのが「ローカル5G」だ。

「日本では、企業や自治体が限定したエリアに独自の5Gネットワークを整備できます。これを『ローカル5G』と呼んでおり、たとえば企業の敷地内や工場内で5Gを使いたいがまだ通信キャリアのネットワークが届いていない場合、先に自前の5Gを整備できるのです。しかも、専用の周波数が割り当てられ、独占的な使用が可能。通信キャリアもその周波数は使えません。これは世界的に見てもユニークな制度です」(中氏)

5G自体は、アメリカと韓国が2019年に始め、その後、中国や欧州がサービスを開始した。日本は、必ずしも先進国の中でトップ集団にいるわけではない。ただし、ローカル5Gのような制度で先行しているのは「日本とドイツくらい」と西脇氏。仮に、専用の5Gを工場に引けば、そこで使うロボットや製造ラインの管理なども、センサーや通信を多用できる。そうして「高度なデジタルファクトリーを作り上げることが可能」と話す。それが、5G時代において「日本の製造業の強みになるのでは」と続ける。

また、通信事業者のビジネスにも変化が出る。これまでは、通信キャリアが直接顧客から利用料などをもらう「B to Xのビジネスモデルが主流だった」と中氏。しかし、今後は通信事業者が提供する5Gのインフラに、別のさまざまな企業がサービスを乗せて消費者に届けるケースが多くなるかもしれない。

先ほど述べた“遠隔操作”や“新しいエンタメコンテンツ”はその典型だろう。あるいは、通信事業者が製造系の企業と組んで工場向けのサービスを提供する、交通事業者と組んでMaaSのサービスを提供するなど。通信事業者と顧客の間にさまざまな企業が入る「B to B to Xの形が増えてくる」と指摘する。

私たちの生活を豊かにし、また各企業の新しいビジネスをも創出していく5G。では、実際に5Gに関わる企業は今、どんなことに取り組んでいるのか。次回以降、さまざまな企業に取材していく。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2020年9月現在の情報です

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