歴史的な視点で経済や市場を学ぶ

【第5回】江戸時代の決済システム(前編)

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この記事は、連載シリーズ「歴史的な視点で経済、市場を学ぼう」の第5回で、2020/9/2(水)配信「【第4回】市場で争う戦国武将達 ~信長の市場振興~(前編)(後編)」の続きです。

1. 江戸時代以前の信用システム

今回は、江戸時代に高度に発達した信用を中心とした経済的な仕組みについてお話をします。信用を中心とした経済の仕組みとは、約束手形や為替手形といった現金の授受以外での決済を可能にする仕組みと考えてください。

最近はFinTech(フィンテック)が話題ですが、従来あった信用の仕組みを現代のテクノロジーの進化によって変化させるのがFinTechですから、信用の仕組みそのものを過去から見ていくことは、今の世界の変化の意味を知るために重要だと思います。

前回までに、現金決済以外の制度のことをお話していないので、江戸時代になってはじめて信用の仕組みが出来たと思われるかもしれませんが、実は、これからお話する江戸期の信用の仕組みと似たような仕組みはすでに、鎌倉・室町時代に存在していました。

特に、室町時代は貨幣として利用していた中国銅銭の流入減などにより、信用の仕組みが非常に発達していた時代でした。割符(さいふ)と呼ばれる為替手形に似た機能を持つ有価証券がかなり利用されていました。ただ、割符は江戸期の経済の仕組みとの強い連続性がないので、日本中世の信用システムを語るのは、この程度にします。興味のある方は、ぜひ、いろいろ勉強してみてください。

1「交換・権力・文化」 桜井英治 みすず書房
2「日本中世の経済構造」桜井英治 岩波書店

2. 東西の経済圏と江戸期の貨幣制度

信用システムの話の前に、それを必要とする江戸期経済の前提をお話します。まず、江戸期の経済システムといっても、260年の長さになる江戸期を一括りに語るのは乱暴かもしれません。そこで、基本的には、江戸期の経済システムが概ね固まった18世紀以降を念頭に置くこととします。

まず、江戸期では、「大坂の銀遣い、江戸の金遣い」と言われ、東西の経済圏で利用する貨幣が異なりました。これは、室町期から東西で用いる中国製銅貨の種類が違うように、どうも日本では元々東西で経済圏を分ける性質があるようで、また西国に銀山が多く東国に金山が多いことも重なって、自然と違いができたものと思われます。

大坂経済圏の銀、江戸経済圏の金、そして庶民の間で用いられる銭という貨幣利用の状態から、これを三貨制度といいます。

3. 両替商・・・江戸時代の信用システムの中心

大坂には、各地の大名が蔵屋敷を設置していました。整備された航路等を利用して、日本中の物資が届けられます。そのなかでも特に重要な物資が米で、その米の換金と流通の拠点も大坂でした。この話は、次回詳細に解説します。

これら集積された物資が大坂から各地方、江戸に廻送されるのが江戸期の国内の物流の基本的な形です。

京都・大坂で買い集められて江戸に廻送される高級品は特に「下り物」といって喜ばれました。逆に「下らない物」は大した物ではないということで、「くだらない」という言葉ができました。

こうなると、東西間の物資の移動に伴い、金貨・銀貨の両替が必要になります。この両替を行う業者を両替商といいますが、江戸時代の経済は、とりわけお金の決済については大坂-江戸の両替商が支えていました。

3 銀貨は重さに価値を置く秤量貨幣、金貨は小判1枚が1両と価値が決まっている計量貨幣です。

大坂の蔵屋敷では、米の換金、物資の購入、および廻送という極めて重要な事務が行われました。そのような重要な雑務や、藩の財政に関わるような御用(借金)を承る大坂商人が出入りするようになります。その大坂商人のことを掛屋(かけや)といい、その掛屋の多くが両替商でもありました。

大坂の物資を大坂の商人から江戸の商人が買い付けると、物資が大坂に行き金貨が大坂に来て銀貨に両替される(あるいは江戸で両替されて銀貨が大坂に来る)はずです。ところが、実際には、金貨や銀貨を大坂-江戸間で輸送する手立てがありませんでした。

物が実際に移動しているのに?と思われるかもしれませんが、貨幣はとても重い。そして、貨幣を船で輸送したり人手中心の陸上で輸送したりするのは、様々なリスクを伴います。そのためキャッスレスで決済を進める仕組みが重要となります。

全国政権が成立したなかで、銀遣い圏の大坂と金遣い圏の江戸とを結ぶ決済については両替商が活躍しました。すなわち両替商の帳簿上でお金を移動さていたのです。その指図は、高度に発達した各種の手形で行われていました。(後編に続く)

※このお話は、横山和輝名古屋市立大学経済学部准教授の協力を得て、横山氏の著作「マーケット進化論」日本評論社、「日本史で学ぶ経済学」東洋経済新報社 をベースに東京証券取引所が作成したものです。

(東証マネ部!編集部)

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