2022年3月には人口カバー率90%超へ
ソフトバンクが構築する5Gネットワークの強みとは
最近よく耳にするキーワードを取り上げる「マネ部トレンドワード」。5G編の初回となった前回記事では、5Gそのものの概要や可能性を取り上げた。
これ以降の記事では、実際に5Gに関わる企業を取材していく。今回話を聞いたのは、ソフトバンク。5G通信を提供する“キャリア”のひとつである。
5Gは今年3月から商用化がスタートしたものの、どのキャリアもまだ提供エリアは少なく、これから順次拡大していく。その中で、ソフトバンクはどんな計画を立てているのだろうか。また、ソフトバンクの5Gにおける「技術的な強み」とはどんなものなのか。同社の5G事業でモバイルネットワーク領域を担当する常務執行役員 モバイルネットワーク本部 本部長の関和 智弘 氏に話を聞いた。
5Gの凄さをいち早く体験できる「5G LAB」も注目
5Gは、各通信キャリアが今まさにエリアを広げているところ。そのやり方は、まず既存の4G通信システムを拡張する形で5G通信を提供し(ノンスタンドアロン)、その後、独立した5Gシステム(スタンドアロン)へと移行していく形だ。これは日本のキャリアはいずれも同様である。
「ソフトバンクとしては、2020年度末までに全国47都道府県に5Gの基地局を1万局、21年度末までに5万局の基地局、人口カバー率は90%超まで広げる予定です。スタンドアロンは2021年から整備を始め、2022年には軌道に乗せていきたいと考えています」
5Gによって大きく進化する点は3つ。「高速大容量」「低遅延」「多数同時接続」だが、4G通信システムを拡張するノンスタンドアロンでは「高速大容量」のみの実現となる。ただ、私たち一般ユーザーが進化を実感しやすいのもこの部分。「まずはゲームや動画、VRといった個人用コンテンツで『高速大容量』の力が発揮され、その後、スタンドアロンに移行する中で、『低遅延』など他の特徴を必要とするビジネスや社会課題の解決に活用されていくと考えています」と、関和氏は5Gの展望を語る。
ではまず一般ユーザーは、「高速大容量」によってどんなコンテンツと巡り合えるのだろうか。
「スポーツやコンサートのライブ映像を視聴する際、これまでは配信されている“限られた視点”の映像を見るのが一般的でした。しかし5Gなら、視聴者がカメラを自由に動かすなど、あらゆる角度からの映像を観れるかもしれません。VRやARのようなコンテンツも考えられます。5Gの高速大容量により、多視点の映像を同時に送れるのです」
ソフトバンクは、すでに5Gならではのコンテンツを配信するサービス「5G LAB」を提供。嵐の歌う姿をVRで見られるなど、ユーザーが5Gの凄さを体感できるものとなっている。
さらにその後、スタンドアロンでの整備が進み、3つの特徴すべてが実現すれば、ビジネス用途や社会課題の解決にも5Gが存在感を放つ。それは「ソフトバンクグループの持つ先端技術の発展にもつながります」と関和氏。
「AIや次世代交通システムのMaaSは、つねに遠隔との大容量通信が必要です。5Gが整備されれば、通信は強化され、この領域の進化が加速するでしょう。ソフトバンクグループには、AIを中心とした技術に投資するソフトバンク・ビジョン・ファンドや、MaaSにつながるモビリティサービスの実現を目指すMONET Technologiesなどがあります。これらの事業とも組み合わさっていくはずです」
ソフトバンク独自の「プライベート5G」とは?
各キャリアが5Gを整備する中で、ソフトバンクならではの特徴や強みはあるのだろうか。関和氏は、全国約23万箇所の既存基地局のロケーションが強みになるという。
「ソフトバンクは、さまざまな通信会社を買収して成長してきました。そのため、基地局のサイト数が豊富です。これは5Gエリア拡大のメリットになるでしょう。というのも、5G専用の周波数は遠くまで届きにくいため、4Gで使っている周波数を5G化するなど、さまざまな周波数を組み合わせてエリアを拡大します。組み合わせ方は、エリアのお客さま数などを見てベストミックスを作るのですが、基地局が多いほど組み合わせは多様になります。結果、全国のお客さまが5Gを使える状況をより早く作れると考えています」
加えて、地方の5Gネットワーク整備については、KDDI株式会社との合弁会社「5G JAPAN」を設立。地方のエリア展開において共同で推進する体制をとった。「1社で行うより、単純に2倍近い速さで全国にネットワークを構築できるのでは」と話す。
なお日本では、企業や自治体が限定したエリアに独自の5Gネットワークを整備できる。これを「ローカル5G」といい、通信キャリアが一般に提供する5G(パブリック5G)とは対極の位置付けとなる。ローカル5Gは、一般の通信に乗らないためセキュリティは安全だが、あくまで自前のネットワークとなり、通信設備の維持・管理も自分たちで行わなければならない。
「そこでソフトバンクは、2つの中間に位置する『プライベート5G』を提供します。特定の敷地内に5Gネットワークを作る点はローカル5Gと同じですが、運用や保守はソフトバンクが担当します。セキュリティを担保した独自のネットワークでありながら、維持・管理の手間は省ける形です」
もともと同社では「おでかけ5G」という設備を開発してきた。これは、可搬型の5G基地局を設置することで、限定的に5Gネットワークを構築できるもの。「1人暮らし用の冷蔵庫の中を5G空間にすることもできる」(関和氏)とのことで、こういった技術がプライベート5Gにもつながっているようだ。
まずは個人用のコンテンツから普及し、やがて産業用の利用が進んでいく。5Gの発展の道筋の中で、ソフトバンクの持つ技術や資産は存分に生かされていくだろう。
(取材・文/有井太郎)
※記事の内容は2020年10月現在の情報です