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ゴールドマン・サックス出身者が創業

手数料は成果報酬のみ、「投資の三原色」を提供するsustenキャピタル・マネジメント

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投資信託やロボアドなど、プロやロボットに資産運用を“お任せ”するサービスは、通常、信託報酬等を含んだ運用手数料が発生する。多くはランニングコストであり、運用成績の良し悪しに関係なく、手数料が取られるものだ。

そんな業界の常識を疑い、手数料を成果報酬のみで資産運用サービスを開発するスタートアップがある。sustenキャピタル・マネジメントだ。「運用成果がマイナスなのに、手数料を取りたくない」という思いから考えられたこの報酬体系は、運用利益を出すことへの自信の表れともいえる。利益が出なければ、彼らも報酬を得られないからだ。

同社は、世界的な証券会社として知られるゴールドマン・サックスの出身者によって設立された。十数兆円の預かり残高を有するグループにて運用を担当し、最先端の投資理論を知った人間たちが「一般の個人投資家も、その理論をふまえた資産運用ができるように」と、新しい投資サービスを作っている。

では、彼らが開発する資産運用サービスとは具体的にどんなものなのか。sustenキャピタル・マネジメント代表取締役CIOの山口雅史氏と、広報の山田記実氏に聞いた。

固定報酬がないため「お客さまと同じ目的を目指す」

sustenキャピタル・マネジメント(以下、susten)の資産運用サービスは、まだ開発中の段階だが、骨組みはできている。ユーザーがスマホでいくつかの質問に答えると、回答をもとにお任せで資産運用を行ってくれる。大きな仕組みは、ロボアドと変わらない。

ただし画期的な点がある。冒頭で述べた「完全成果報酬型の料金体系」だ。運用成果に関わらず固定報酬を取るのが一般的な中で、なぜこの料金体系にしたのか。山田氏はその意図を説明する。

「運用成果がマイナスのときにも手数料を取られ続けると、運用会社に対する『不信感』を募らせるお客さまもいらっしゃいます。それが、投資に対する漠然とした不安や『怖い』というイメージにもつながりかねません。固定報酬をいただかず、運用成果の追求にだけ集中することで、お客さまと運用会社が完全に同じ方向を向くことができると考えています」

利益が出なければ、ユーザーはもちろん、運用するsustenにもプラスはない。「お互いの求めるものが同じであることが重要」と山口氏も付け加える。

しかし、成果報酬のみの料金体系は、運用成績をプラスにすることが「絶対」となる。もちろん、そこに対しての自信があるからこそ、この決断をしていると山田氏はいう。

「私たちのサービスでは、今まで一部の投資家しかアクセスできなかった、プロの機関投資家向けの高度な運用手法を、広く一般の個人投資家に提供します」

同社は、岡野大氏(代表取締役CEO)と山口氏が創業した。2人は、ゴールドマン・サックスの運用部門となるゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントで、機関投資家の大規模な資産運用を担当してきた。たとえば山口氏は、ソブリンウェルスファンドと呼ばれる、政府系ファンドの運用を担当。10兆円超の預かり残高を運用するニューヨーク本社にて、北米・欧州法人顧客の資産配分責任者を務めた。

そして彼らは、機関投資家向けの高度な投資手法を「個人も活用できないか」と考えたという。

「前職の中で岡野と感じていたのは、機関投資家ならさまざまな投資手法を選べるのに、個人になると選択肢が大きく減ってしまうこと。なるべく同じ選択肢を個人にも提供したいというのが、創業の目的です」(山口氏)

RGBの三原色、今まで個人ができなかった「G」とは

では、具体的にどんな投資が行えるのだろうか。同社では、方向性の異なる3つの投資ファンドを作り、ユーザーの希望に合わせて組み合わせる。人によってその比率を変えて運用する形だ。

「私たちは、3つのファンドを『R』『G』『B』と呼んでいます。“光の三原色”が由来であり、3つの組み合わせですべてを表現できるという意味を込めています。Rは株式をメインとしたファンドで、Bは“投資適格”と呼ばれる、社債や国債の中でも特にリスクの低い債券が中心。この2つは従来のサービスにもありましたが、私たちの独自性が出ているのはGの部分。これが、今まで機関投資家にしか提供できなかったものです」(山口氏)

Gのファンドをひとことで言えば「株式相場の波の影響を受けにくいもの」と山口氏。Rは世界の経済成長の果実をダイレクトに享受できる一方、株式市場の影響を受けやすく、コロナショックやリーマンショックのように市場が大きく下落すれば、連動してマイナスになった。しかし、Gはその影響を受けない形でリターンを上げることを目指すという。

「Gの投資手法は、何十億という多額の資金が必要になるのが普通。そのため、通常は機関投資家の間でしか行われませんでした。私たちは、個人のお客さま1人ひとりから預かった資産を合わせてプールし、大きな資産にして運用。それをまた1人ひとりに配分することで、個人投資家でも行えるようにしています」(山口氏)

これまで主流だったRとBだけでは、株価の下落局面を打ち消すのは難しかった。しかしGのファンドが入ると幅広く対応できる。たとえば中東の産油国は国家資産が膨大にあり、投資で増やすよりも、経済成長などのインフレによる資産価値の目減りを避けようとしている。インフレは株式市場と連動するため、その国の政府系ファンドはGのような投資手法で資産価値を維持しようとするのだ。

山口氏は前職での経験を生かして、その投資を個人でも行えるようにした。これが同社最大の特徴と言えるだろう。“根っからの株好き”の投資家には少し物足りないかもしれないが、市場の急変動を避けて、安定的に資産形成をしたい層にはピッタリな投資サービスだ。

「周りの友人にも『なぜ投資をしないのか?』と聞くと、『変動が怖いから、損しそうだから』という声が返ってきます。極端な言い方をすると、ソブリンウェルスファンドも、投資未経験者も、実は、求めるアウトプットは同じなんです。投資=ギャンブルと誤解している人ほど、当社のサービスを利用してほしいと思います。そのような想いもあり、“家族や友人にすすめられる投資運用サービスの創出”を当社のミッションに据えています」

サービスの土台はすでにできており、年内の提供開始を目指すという。そしてその先には、彼らが目指す大きな夢がある。

「最終的には、サステナビリティに貢献する運用会社になりたいと考えています。近年、ESG投資やインパクト投資など、環境問題や社会課題の解決に力を入れる組織に投資する動きが起きています。ただ、まだ十分ではありません。私たちは、いずれお客さまからいただいた報酬の一部を、環境・福祉の支援に投資したい。利益が求められる市場原理と、サステナビリティへの支援をどう結びつけるかは永遠の課題です。それを解決する役目になれたらと思っています」(山田氏)

同社の社名にある「susten」は、サステナブル(sustainable)が語源になっているという。そこからも、彼らが実現したいのは「市場原理と環境・福祉をつなげること」だとわかる。この大きな目的のために、彼らは資産運用業界の常識に立ち向かっていく。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2020年10月現在の情報です

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