リタイア後のマネー事情

1カ月数万円の「社会保険料」は老後の大きな出費に

老後にかかる「税金」「社会保険料」っていくら?

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定年退職を迎えてからも、全員に等しく存在する支出が税金と社会保険料。総務省の「家計調査報告 家計収支編 2019年(令和元年)」によると、2人以上の高齢無職世帯(世帯主が65~69歳)の1カ月の支出は30万8134円。そのうち、税金や社会保険料を指す「非消費支出」は3万6760円と、支出の約12%を占める。

月々3万円となると大きな出費だが、具体的に何にいくら払うことになるのだろうか。ファイナンシャルプランナーの大沼恵美子さんに、老後にかかる税金、社会保険料について教えてもらった。

年金200万円なら「所得税」は非課税

「毎年納める税金の代表といえば、『所得税』と『個人住民税』です。定年退職して無職であっても、公的年金などの収入があれば、『所得税』が発生する場合があります。2013年からは、東日本大震災の復興財源として『復興特別所得税』も加わっています」(大沼さん・以下同)

「所得税」は、収入額によって決まる。2020年度の新規裁定者の年金月額(夫婦2人分の老齢基礎年金、厚生年金を含む標準額)が22万724円だったため、下記の世帯を例にシミュレーションしてみよう。

●夫、妻ともに65歳の夫婦2人暮らし
●年間の夫の公的年金等200万円、妻の公的年金等70万円
●世帯で納付する社会保険料は年間15万円

「税金は個々人に課せられるものなので、夫婦別々に計算することがポイントです。年金は110万円まで『公的年金等所得控除』の対象となるので、妻の公的年金等70万円は全額非課税となります。夫の公的年金等のみで計算しましょう」

(1)所得金額
公的年金等の収入-公的年金等所得控除
200万円-110万円=90万円

(2)所得控除額
社会保険料控除+配偶者控除+基礎控除
15万円+38万円+48万円=101万円

(3)課税される所得金額
所得金額-所得控除額
90万円-101万円=0円

「年金収入が200万円の場合、所得控除額が所得金額を上回るので、非課税となります。つまり、世帯で支払う『所得税』は0円というわけです。では、夫の年金収入がもう少し多い場合を想定してみましょう」

●年間の夫の公的年金等が240万円、社会保険料18万円の場合

(1)所得金額
公的年金等の収入-公的年金等所得控除
240万円-110万円=130万円

(2)所得控除額
社会保険料控除+配偶者控除+基礎控除
18万円+38万円+48万円=104万円

(3)課税される所得金額
所得金額-所得控除額
130万円-104万円=26万円

(4)所得税額
課税される所得金額×5%
26万円×5%=1万3000円

(5)復興特別所得税
所得税額×2.1%
1万3000円×2.1%=273円

(6)所得税+復興特別所得税
1万3000円+273円=1万3273円

「年金収入が240万円ある場合、年間の『所得税』は約1万3300円。ただし、これは所得控除を、社会保険料控除・配偶者控除・基礎控除という最低限のものだけに設定したケースです。ほかにも生命保険料控除、地震保険料控除、医療費控除、寄附金控除などが適用される世帯は多いので、『所得税』はもう少し低くなるかもしれません」

年金額によって「非課税」枠から外れてしまうことも

「続いて見ていくのは『個人住民税』です。『所得税』と同様、個々人に課税され、120万円までは『公的年金等所得控除』の対象となるので、こちらも夫の公的年金等だけで計算します」

●夫、妻ともに65歳の夫婦2人暮らし
●年間の夫の公的年金等200万円、妻の公的年金等70万円
●世帯で納付する社会保険料は年間15万円
●東京都三鷹市在住

(1)所得金額
公的年金等の収入-公的年金等所得控除
200万円-120万円=80万円

(2)所得控除額
社会保険料控除+配偶者控除+基礎控除
15万円+33万円+33万円=81万円

(3)課税される所得金額
所得金額-所得控除額
80万円-81万円=0円

「年金収入200万円の場合、『所得税』と同じように、所得控除額が所得金額を上回ったので、『個人住民税』も非課税となります」

●夫の公的年金等が240万円、社会保険料18万円の場合

(1)所得金額
公的年金等の収入-公的年金等所得控除
240万円-120万円=120万円

(2)所得控除額
社会保険料控除+配偶者控除+基礎控除
18万円+33万円+33万円=84万円

(3)課税される所得金額
所得金額-所得控除額
120万円-84万円=36万円

(4)所得割額(市民税+都民税)
36万円×6%+36万円×4%=3万6000円

(5)調整額(※1)
(5万円+5万円)×5%=5000円
※1 「所得税」が非課税となる基準を若干上回る所得を有する方の税引き後の所得金額が、非課税基準の金額を下回ることのないよう、税額を減ずる調整措置

(6)均等割額
5000円(市民税3500円、都民税1500円)

(7)個人住民税
所得割額-調整額+均等割額
3万6000円-5000円+5000円=3万6000円

「年間3万6000円なので、12カ月で割ればそこまでの額ではありませんが、非課税と比べると大きな差です。年金繰下げなどで年金収入が上がると、非課税世帯から外れてしまうことがあるので、注意しましょう」

加えて、2021年から個人住民税の公的年金等所得控除は110万円、基礎控除は43万円になるため、合わせて注意しておこう。

また、「所得税」「個人住民税」以外にも、発生する税金があるとのこと。

「自宅を所有していれば『固定資産税』『都市計画税』、車を所有していれば『自動車税』を納める必要があります。年齢に関係なく発生する税金なので、定年退職を迎える前から所有しているのであれば、老後もかかってくることを想定しておきましょう」

「社会保険料」は年間数十万円にのぼる!?

老後に発生する支出で、もっとも負担が大きいのは社会保険料なのだそう。

「退職後は『国民健康保険料』『介護保険料』が発生します。住民税や所得、資産をもとに算出しますし、計算に用いる係数や限度額が自治体によって異なるので、個人差が大きいのですが、全般的に年々負担が増していることは間違いありません」

まず、「国民健康保険税」から見ていこう。

●夫、妻ともに65歳の夫婦2人暮らし
●年間の夫の公的年金等240万円、妻の公的年金等70万円
●120万円までの「年金所得控除」により妻は非課税
●東京都三鷹市在住

(1)所得金額
公的年金等の収入-公的年金等所得控除
240万円-120万円=120万円

(2)保険税の算定基礎額
所得金額-基礎控除
120万円-33万円=87万円

(3)基礎課税分(医療分)
所得割=算定基礎額×5.0%
87万円×5.0%=4万3500円
均等割=2万7500円×加入者数
2万7500円×2人=5万5000円
合計 9万8500円

(4)後期高齢者支援金等課税分
所得割=算定基礎額×1.9%
87万円×1.9%=1万6530円
均等割=1万800円×加入者数
1万800円×2人=2万1600円
合計 3万8100円(100円未満端数切り捨て)

(5)年税額
基礎課税分(医療分)+後期高齢者支援金等課税分
9万8500円+3万8100円=13万6600円

「上記は東京都三鷹市の例ですが、年金が200万円でも年間13万円以上の『国民健康保険税』が発生します。大きな支出ですよね。さらに、ここに『介護保険料』も加わります。『介護保険料』は基本的に基準額が用いられますが、自治体によって算出方法が変わるので、確認してみましょう」

●介護保険料基準額(月額)の例(令和2年度)
千葉県四街道市:4700円(年間5万6400円)
埼玉県三郷市:4950円(年間5万9400円)
青森県青森市:6675円(年間8万100円)
徳島県阿南市:5983円(年間7万1800円)

「『介護保険料』は、高齢化が進んでいる“過疎地域”と呼ばれるところほど高くなります。介護サービスの利用者が多い一方で、保険料を負担する人が少ないからです。定年退職後の生活拠点が介護保険料に影響すると、覚えておいた方がいいでしょう」

税金や社会保険料によって、ひと月数万円単位での支出が見込まれる。そのうえで、ライフプランを立てていく必要があるだろう。
(有竹亮介/verb)

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