「優待」投資に黄色信号?!
業績悪化で広がる株主優待の見直し
提供元:マネックス証券
営業黒字のテーオーホールディングス、なぜ株主優待を中止?
10月16日、木材商社を中心に北海道で多様なビジネスを展開するテーオーホールディングス(9812)が2020年の株主優待を中止することを発表しました。直前の10月14日に発表した決算は減収ながらも前年の営業赤字から営業黒字に浮上しており、10月15日・16日と株価はストップ高になっていました。しかしながら、それに冷水を浴びせた格好で、優待中止発表後の10月19日には株価は2割近く急落しました。同社は2019年も株主優待を中止しており、2021年以降の株主優待は「未定」としています。営業黒字のなか株主優待を中止としたことが、株主の失望を誘ったようです。
同社の本拠地は函館です。祖業である木材の商社のほか、住宅事業、五稜郭にほど近い函館市の中心繁華街にテーオーデパートを運営するなど、函館中心にスーパー、ホームセンター、本などの小売店、自動車販売、携帯電話代理店などを幅広く展開しています。しかし、木材商社や住宅事業が苦戦しており、ここ3年は営業赤字が続いていました。
2015年の決算では40億円を超えていた自己資本が直近決算では1.5億円と債務超過寸前まで減少するなど、厳しい業況が続いています。2018年末から2019年初にかけ、JR函館駅近くと函館を代表する温泉地である湯の川温泉の不動産を売却し、特別利益を上げるなど現状打破に向けて取り組んでいますが、それでもいまだ逆境から抜け出しきれてはいません。
2020年第1四半期は新型コロナウイルス感染拡大の影響でホームセンターの売上が大きく伸び、小売事業の黒字が大きかったものの、住宅事業など引き続き赤字事業も多い状況です。これらの苦境を踏まえて「株主優待の中止」という判断をしたのでしょう。
テーオーの株主優待は、旧社名であるテーオー小笠原時代から有名で北海道の特産品(いかめしの他、焼酎や魚介類など)が送られていました。これら優待品が魅力的なこともあり、時価総額20億円にも関わらず株主は2,500人を数えます。送料などコスト負担も少なくなかったのかも知れません。3年連続無配で、来期も無配予想の状況で株主優待だけ継続するという判断も難しかったのでしょう。
業績悪化の目立つ企業における株主優待の見直し
コロナ禍で業績の二極化が広がる中、株主優待の見直しはテーオーに限らず行われています。
株主優待はもともと自社商品の株主への販売促進という面も大きく、特に飲食業など消費者向けの企業が自社の割引券を発行することが多くなっていました。自社割引券であれば、発行金額に対し実際に発生するコストは限定的で、うまくいけば売上への貢献も期待できます。しかも、株主向け郵送物に同封できるため、発送コストも抑えられます。しかし、飲食業や消費者向けのサービス業、小売業、観光業などはコロナ禍で業績の悪化が進んでおり、テーオー同様に株主優待の見直しを迫られる企業も増えています。
代表的なのは、すかいらーくホールディングス(3197)でしょう。「ガスト」など様々なレストランを展開する同社は「株主優待の充実している会社」として知られていました。制度変更前の株主優待は500株保有者に対し、年間33,000円分の食事券を贈呈するものでした。その頃の株価が1,700円ほどでしたので、850,000円の投資で年間33,000円の優待を受け取れていたわけです。
しかし、同社は9月10日に株主優待制度を変更し、300株以上の株主に対する贈呈金額が概ね半分になってしまいました。株価も暴落し、翌9月11日には1割近い値下がりとなっています。同社は「不透明な経営環境が続く中、収益構造改革の一環として株主優待制度を変更した」としています。
この他にも駐車場大手のパーク24(4666)が2020年10月末の株主優待を中止(2021年以降は未定)。映画館事業の武蔵野興業(9635)が株主優待の縮小(映画鑑賞券進呈枚数を減少)、居酒屋を展開するマルシェ(7524)も株主優待を縮小(優待を年2回から1回に変更)するなど、業績悪化の目立つ企業において株主優待の見直しが広がっています。
株主優待券は今や非常に一般的な存在となっています。前述のすかいらーくの場合、株主数は43万人(2020年6月末時点)を数えます。個人株主は平均350株程度の保有ですから、従来300株保有者に贈呈していた2万円で計算すると、43万人*2万円=86億円と相当な金額の株主優待券が発行されていることが分かります。
個人投資家にとって今は注意が必要な時期
株主優待制度は特に個人投資家にメリットも大きい制度で、楽しみにされている方も多いでしょう。それだけに注意すべき点も少なくありません。株主優待制度見直しの流れは今後も続く可能性があり、一層注意が必要な時期と言えそうです。
(提供元:マネックス証券)
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