制度内容の複雑化&申告書増加で、会社も従業員も負担が増えるかも

2020年分「年末調整」の変更点をチェック!

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2020年も残り2カ月を切り、年末調整の時期が近づいてきた。「平成30年度税制改正の大綱」の影響を受け、2020年分から年末調整が大幅に変化し、従業員の申告にも関係してくるようだ。

年末調整直前の今のうちに知っておきたい2020年分年末調整の変更点を、税理士の新井佑介さんに教えてもらった。

ほとんどの給与所得者は「控除額」に変化なし

「年末調整には、給与所得、所得控除に関する税制改正が影響してきます。主に4つの改正内容が関係してくるので、1つずつ紹介しましょう」(新井さん・以下同)

(1)「給与所得控除」の引き下げ
給与所得控除とは、給与所得者(被雇用者)に適用される控除で、所得税を計算する際に、最初に年収から差し引かれるもの。この控除額が、2020年分から一律10万円引き下げられる。

控除額の上限に関しては220万円から195万円へと、25万円も引き下げられる。さらに、「給与等の収入金額」の上限も、年収1000万円から年収850万円に引き下げられる。つまり、年収850万円を超える人は、給与所得控除額が一律195万円になるわけだ。

(2)「基礎控除」の変更
基礎控除とは、すべての納税者に適用されるもので、これまでは一律38万円が控除されていたが、2020年分から最大48万円に引き上げられる。

ただし、適用要件が設定され、合計所得が2400万円を超えた人は控除額が32万円、合計所得が2450万円を超えた人は16万円、合計所得が2500万円を超えた人には適用されない制度になる。

「給与所得控除は10万円引き下げられますが、ほとんどの人は基礎控除が10万円引き上げられるので、プラマイゼロといえそうです。合計所得2500万円超の人は、給与所得者の0.3%程度といわれているので、基礎控除が適用されない人はほぼいないといっていいでしょう」

(3)「所得金額調整控除」の創設
年収が850万円を超える人は給与所得控除が引き下げられるため、所得税が増えることになる。しかし、年収850万円超でも、「本人が特別障害者である場合」「23歳未満の扶養親族がいる場合」「特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族がいる場合」のいずれかに当てはまると、所得金額調整控除が適用される。

控除額は、年収から850万円を引いた金額の10%。年収が1000万円を超える場合は、一律「1000万円-850万円の10%」が、控除額となる。

(4)「配偶者控除」「扶養控除」などの合計所得金額要件の見直し
給与所得控除、基礎控除の変更に伴い、下記5つの要件も見直される。
・同一生計配偶者の合計所得金額要件
・扶養親族の合計所得金額要件
・源泉控除対象配偶者の合計所得金額要件
・配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額要件
・勤労学生の合計所得金額要件

配偶者控除や扶養控除、勤労学生控除などに関係してくる部分で、それぞれの合計所得金額要件が、現行のものから一律10万円ずつ引き上げられる。例えば、「配偶者特別控除の対象となる配偶者の合計所得金額要件」は、従来「38万円超123万円以下」だったが、2020年度分から「48万円超133万円以下」へ変更になるため、注意が必要だ。

提出しなければならない「申告書」が増える

「税制改正に伴い、年末調整の申告に必要な書類が増えます。これまでは『扶養控除等申告書』『配偶者控除等申告書』『保険料控除申告書』の3点でしたが、ここに『基礎控除申告書』『所得金額調整控除申告書』の2点が加わるのです」

「令和2年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」(国税庁ホームページより)

2020年分から、「配偶者控除等申告書」に「基礎控除申告書」「所得金額調整控除申告書」が合体し、1枚の様式になる。基礎控除は、給与所得者全員が関係するため、配偶者がいなくても、提出しなければならない書類が増えるというわけだ。

「新しい書類には、『年収の見積額』『所得金額の見積額』を記載する欄が設けられています。あくまで見積額での申告となるため、年収が確定した後に書類の書き直しや再照合が発生することが懸念されます」

年末調整申告用のPC&スマホアプリ登場

「年末調整控除申告書作成ソフトウェア」トップページ

複雑化する年末調整の申告を簡便にするべく、国税庁が2020年10月1日に「年末調整控除申告書作成用ソフトウェア」「令和2年分 年末調整に係る控除申告書作成アプリ」をリリース。パソコンやスマートフォンで、年末調整申告のための書面を作成できるソフトウェアだ。

「現状リリースされているソフトはプロトタイプなので、マニュアルが分かりづらいなどの問題点はありますが、電子データを取り込めたり、システム上でエラーチェックしてくれたりするので、記入ミスは少なくなるはずです」

ただし、懸念点もあるそう。勤め先や保険会社などが、できたばかりのソフトに対応していないことも多いのだという。

「従業員が国税庁のソフトで電子データを作り、会社に提出しても、会社が導入している年末調整の計算システムが対応していなければ、その電子データは使えません。保険会社などは、そもそも電子での情報提供を行っていないところもあります。契約している保険会社が対応してくれるか、確認が必要です。これらを踏まえると、今年はまだ国税庁のソフトを活用しにくいでしょう」

紙の申告書を会社に提出する場合は、基礎控除の分だけやや手間が増える印象の2020年分年末調整。変更点を理解し、申告時にミスしないように気をつけよう。
(有竹亮介/verb)

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