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シニア2人がシリコンバレー流のMVPで開発

長期投資を“一瞬”で疑似体験できる「賢者のポートフォリオ」とは

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リスクを少なくする投資法の代表といえば「長期投資」。もし真剣に投資を始めたいと思ったら、まずは長期投資を“お試し”で体験して、ノウハウを蓄えてから本格スタートしたいもの。とはいえ、それは簡単ではない。なぜなら、長期投資は結果(=長期投資のメリット)が出るまでに、5年、10年とかかるからだ。その長い期間、ずっとお試しで行うわけにもいかない。

そんな中、長期投資の疑似体験を“短時間”で味わえるゲームを開発した人たちがいる。スタートアップのあせまねライフ株式会社である。同社が生んだゲームアプリ「賢者のポートフォリオ」は、過去30年超の市場データを搭載し、その期間の長期投資を一瞬で疑似体験できる。

面白いのは、このゲームがシリコンバレーのITベンチャーが使う開発理論や手法によって制作されたこと。また、クラウドソーシングなどの現代的なビジネスネットワークも活用している。しかも開発者は、定年リタイア後にこの事業を始めた “シニア”の2人だ。

果たしてどんな想いや開発体制でこのゲームができたのだろうか。あせまねライフの宮井博氏(代表取締役社長)、小原沢則之氏(代表取締役)に伺った。

どのようにして、“5年後”の投資結果を短時間で知るのか

宮井氏と小原沢氏は、もともと日興證券(現SMBC日興証券)の調査部門などに在籍し、投資や年金運用のコンサルティングに長く関わってきた。さらに2人は、大学での金融教育、投資教育にも携わったという。

実はその大学において、学生たちと話す中で「若い人の金融リテラシー教育の必要性を強く感じた」という。そしてそれが、ゲーム開発へとつながっていく。

「大学生と話すと、たとえば銀行に預けたお金はどうなっているのか、株はどこで買えるのか、知らない人がたくさんいます。それも、経済学部の学生が知らないケースもある。そうして、知識をつけないまま社会に出る人も少なくありません。一方、彼らは長い老後が待ち構える世代。早いうちに知識を蓄えて、資産形成を始める必要があります」(宮井)

これ以外にも、2人が「金融リテラシー教育の必要性」を感じる機会はあった。たとえば、近年は企業の退職給付制度の中で外部積立の企業年金制度が充実し、年金資金を専門の運用会社に運用委託する、あるいはDC(確定拠出年金)のように加入員自ら運用商品を選ぶ形態も増えている。その中で「企業年金の加入員は知識がないために、内容を理解しないまま運用結果を受け入れざるを得ず、DCの場合は加入員が自分で適切に運用商品を選べない人も多い」と宮井氏。年金などの資産運用に携わるうちに、最終受益者によるチェック機能が十分に働かないというカバナンスの問題を痛切に感じてきたという。そこで2人は、早いうちから投資を学ぶツールの開発を考え始めた。

「特に作りたかったのが、若者に長期投資を疑似体験してもらう仕組みです。言葉で伝えるよりも体験させることが何より大事だと考えていました。長期投資はリスクを少なくする定番手法ですので、早くにそのメリットを知るべき。しかし、長期投資は結果が出るまでに時間がかかる。その問題を解決すべく、さまざまな方法を模索したのです」(小原沢)

投資を疑似体験できるゲームは多数出ている。たとえば、実在の銘柄をいくつか選んで、仮の投資額を設定するもの。その後、実際の市場の値動きに合わせて運用成績が出る形だ。とはいえ、リアルタイムの市場に合わせると、長期投資は結果が出るまで何年も待たねばならない。それでは長期投資を体験できるゲームとして普及しにくい。実際、今出ている株式投資のシミュレーションゲームは、ほとんどが“短期投資”を楽しむもの。イベントなどのニュースで株価がどう動くかを見るのがメインで、NISA口座の開設者など長期の堅実な投資を志向すべき投資家には向いていない。

そこで2人は新たな「投資教育ツール」を考え始めた。そして、ツールの条件を3つ定めた。それは、若者にとって身近な「ゲーム」であること、そして「長期投資を学べる」こと。しかも「結果がすぐに見られる」こと。この3つを踏まえたツールで、若者が時間をかけずに長期投資のノウハウを積み重ねることを狙ったという。

そうしてできたのが「賢者のポートフォリオ」である。1987年から2019年までの株式関連データを搭載し、800を超える銘柄について、この期間内に株価がどう動いたかを計測。いわば過去の市場を“追体験”できるようにした。事実を元にした模擬投資の体験アプリだ。

「ゲーム内容を大まかに説明すると、さまざまな年代・条件に合わせて、ランダムに12の銘柄が表示されます。ユーザーは、その時々の状況に応じて1〜5年後に高いリターンが期待できる銘柄を5つ選択。この選択に対して点数が表示されるのですが、実際に好成績だった銘柄を選ぶほど高得点になります」

ゲームでは、各年の経済状況や各銘柄の業種や事業内容、財務状況まで事細かに掲載。それらを見ながら、長期投資で伸びる銘柄を選んでいく。どう選んだらいいかわからない場合は「攻略のヒント」を見ることもできるので、どのような状況でどのような業種が伸びるかなどを学ぶこともできる。

「賢者のポートフォリオ」は2020年6月1日にリリースされ、大学などの学校教育現場には無料提供を実施。すでに明治大学、日本大学、文教大学の講義やゼミで採用が決定し、他大学でも採用に向けた検討が行われている。

神奈川県のビジネスコンテストで「アイデア賞」を受賞

このゲームの開発には、現代的なビジネス理論や手法が多数取り入れられている。そのひとつが「MVP(Minimum Viable Product)」だ。シリコンバレーのITベンチャーでは主流の開発手法である。

「MVPは、日本語で『実用最小限の製品』などと訳される開発手法です。最初から100%の完成品を作ろうとせず、いわばプロトタイプの実用製品を最小限の資金と時間でいったん作成。それを市場に投入してユーザーの反応を見ながら、機能の修正・追加を重ねて徐々に完成度を高めていくものです」(小原沢)

このゲームも、最初は小原沢氏がエクセルでプロトタイプを用意。その後、ゲームの世界観を表す“モックアップ”を制作。中身のデータはまだ構築せず、ゲームの世界観を伝える最低限の要素を盛り込んだという。

さらに制作過程では、ゲームのキャラクターやページのビジュアル、さらにはゲームのシステムを作る必要がある。これらについては、もちろん2人の専門分野ではない。そこでクラウドソーシングサービスを利用した。

「クラウドソーシングサービスには、さまざまなスキルを持った方が登録しています。その中でグラフィックデザインやゲーム制作に実績のある人を募集。最終的に、私たちのイメージや要望とマッチする方に制作を依頼しました」(小原沢)

小原沢氏は、起業に際して多数のビジネス理論を学んだという。その中で特に共感したのが「リーン・スタートアップ」という手法だった。同名著書で有名になったエリック・リースの理論であり、意味は「無駄のない起業」。クラウドソーシングサービスの活用は、まさに“無駄のない”真骨頂だろう。

本ゲームは、2020年2月に行われた「かながわシニア起業家ビジネスグランプリ2020」のベストアイデア賞を受賞。ローンチ前の段階で受賞するのは珍しいことだという。そして、今後はこのゲームを中心に、金融リテラシーや長期投資の意義を伝えていく。

「コロナにより、有名企業でさえ経営悪化を報じられることも珍しくありません。若い方にとっては、就職先を選ぶのも悩ましい時代です。その中で、投資は企業や経済、社会を見る目を養うことにもつながるでしょう。その意味でも、金融リテラシーが上がり、投資が身近になってほしい。あるいは、こんな苦境の時代だからこそ『この企業に頑張ってもらいたい』と株式を購入して応援することもできる。そういった投資と社会のつながりも伝えていきたいですね」(宮井)

小原沢氏も、「株式はリスクが大きいから長く保有するのは危険」という誤解のもと、長期の資産形成に向いているはずの株式を「遠ざけてしまっている」人が多いと指摘する。

そういった投資の誤解をなくすために、若いうちからの金融リテラシー教育が必要。長くこの業界を見てきた2人は、新しい理論や手法を駆使しながら若者にアプローチしていく。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2020年12月現在の情報です

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