eKYCを支える日本のパイオニア
世界ナンバー1、NECの「顔認証技術」に迫る
近年増えている「顔認証」。この技術において、世界トップを行く日本企業があることを知っているだろうか。NEC(日本電気株式会社)だ。
同社は、世界的権威である米国国立標準技術研究所(NIST)が行う顔認証技術のベンチマークテストで、No.1の評価を5回獲得(※)。1989年に開始した顔認証技術の研究開発が、今まさに花開いている。
※米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証技術の性能評価で5回目の第1位を獲得。
そしてこの技術は、フィンテックでも急速に活用されている。金融機関などで口座開設する際、オンラインのみで本人確認を行う「eKYC」において取り入れられているのだ。
NECの顔認証技術は、なぜ世界をリードしているのか。そしてその技術は、eKYCでどのように活用されているのか。同社の若山比呂人氏(第二金融ソリューション事業部主任)と、青柳亨氏(金融システム本部シニアマネージャー)に話を聞いた。
圧倒的な差で1位に。エラー率0.5%の驚異的な精度
2018年に行われたNIST主催のベンチマークテストには、アメリカや中国などから49の組織が参加。顔認証の精度評価が行われた。NECは、他社を大きく引き離して5回目の1位を獲得。1200万人分の静止画に対する認証エラー率は0.5%を記録。10年以上の経年劣化がある人物画像の顔認証では、エラー率が2位の1/4以下という圧倒的な精度だった。
それにしても、なぜ同社の顔認証技術はこれだけ優れているのだろうか。顔認証技術の活用に携わってきた青柳氏は、こう説明する。
「NECでは、1989年から30年以上かけて顔認証の精度を上げてきました。またそれ以前には、1963年から文字認識を、その後、指紋認証の技術研究も行っています。実はこれらの領域で確立したパターン認識の技術が顔認証にも生かされています」
顔認証では、まず瞳、鼻、口など、顔の特徴的な点の位置を検出する。検出された特徴点をデータ化して、2つの顔画像が同一人物か判断するのだが、特徴点をデータ化して比較するのは「文字認識や指紋認証に通じるものがある」と青柳氏。長年の研究の積み重ねが、今の高精度を生んでいるという。
顔認証を行うシーンは、近年急速に増えてきた。空港での入国審査やスマホのロック解除などはイメージしやすいはず。NECの技術も、もちろんさまざまな場面で使われている。
そして、フィンテックでも顔認証技術がカギとなっている。関連するのが「eKYC」だ。
「銀行や証券の口座を開設する際、法律上、本人確認手続き(KYC)が必要となります。今までは、たとえばオンラインで口座開設の手続きを行う場合、最終的に転送不要郵便等による居住確認を行う必要がありました。しかし法改正により、本人確認をオンラインで完結できるeKYCが可能になったのです」(若山氏)
eKYCの「e」はelectronicの頭文字。つまり「電子的な本人確認」というニュアンスになる。そして、このeKYCで使われるのが顔認証技術。基本的な方法は2つあり、1つは自分の顔と免許証などの身分証を両方撮影して送る。もう1つは、自分の顔は同じく撮影し、身分証はスマホでICチップを読み取ってデータを送る。どちらも、身分証と実際の顔写真を比較し、本人かどうかを確認するのだ。
申込者にとっては、これまで面倒だった郵便の手続きがなくなり、すぐにサービスを開始できる。サービス提供者にとっても、業務効率化や郵送コストの削減などが見込める。この点からeKYCに注目が集まっている。
広がるeKYC。金融サービス以外でも使われるように
NECでは「Digital KYC」というeKYCサービスを提供。本人確認が必要なアプリ・サービスに組み込む形で活用されている。公表されているものでは、楽天モバイルやドコモの「d払い」で導入済みだ。
Digital KYCの手順としては、まず免許証と一緒に顔を撮影する。その後、撮影人物が実在していることを証明するために「ライブネス判定」を行う。具体的には、アプリから「右目をつぶってください」、「うなずいてください」などの動作指示をランダムに出し、それに従っているかを判断する。
この一連の手順の中に、「顔認証のパイオニア」だからこそ実現した機能が詰まっているという。ひとつは、免許証と一緒に顔を撮影する点だ。
「免許証と顔を同時撮影することで、不正リスクをより低減できると考えます。とはいえ、一緒に撮影するのは、免許証の顔写真が小さくなるため判別の難易度も上がります。NECは、顔認証技術の精度に自信があるからこそ、この方法が取れると考えています」(若山氏)
もうひとつの特徴は、顔認証エンジンをスマホにインストールされたアプリ内に搭載できること。多くのeKYCは、撮影した画像を別のサーバーに送って認証を行い、結果をアプリに戻す。しかしNECのDigital KYCは、ユーザーが撮影した画像をサーバーに送らず、アプリ内(スマホ内)で認証作業を完結することができる。個人情報を扱うため、セキュリティ面で安心と言える。
「スマホ内で完結できると、認証やライブネス判定も高速かつスムーズになります。画像を別サーバーに送る時間が省かれるためです」(青柳氏)
これらの技術を可能にしたのは、やはり30年以上にわたる研究開発の賜物だろう。最近は、銀行や証券以外でもeKYCの活用が増えており、ますますニーズは伸びていくと考えられる。
「本人確認をオンラインで行う領域は広がっていくでしょう。たとえば車などのシェアリング事業は代表的ですし、公共系のサービスでも増えていく見込み。また、少し変わったところでは、婚活系のマッチングアプリなども活用が開始されています。アプリに登録したユーザーが“本人であること”を担保するのがサービスの肝となるためです」(若山氏)
今後、利用シーンが増えていくであろうeKYC。私たちが利用する様々なサービスにはDigital KYCが使われているかもしれない。世界をリードするNECの顔認証技術は、サービスを提供する企業はもちろん、サービスを利用するユーザーも全力でサポートしている。
(取材・文/有井太郎)
※記事の内容は2020年12月現在の情報です