投資家の本棚
【FP高山一恵さん】投資の本質に気づかせてくれた『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』
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投資家としての一面も持つ各界のトップランナーに、投資への想いとオススメの本を訊くこちらの企画。今回は、女性向けお金の総合相談サイト「FP Cafe」や、マネーやキャリアに関する情報サイト「Mocha(モカ)」の事業を手掛ける、ファイナンシャルプランナーの高山一恵さん。
株式投資やFX、不動産投資など、あらゆる投資を実践してきた高山さんが、自分自身の投資スタイルを模索する中で出会い、大きな影響を受けたというのが、ご紹介いただく本『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』。高山さんが投資に興味を持ったきっかけや、この本に影響を受けた理由について伺いました。
リーマンショック、東日本大震災で大きな損失を経験
――高山さんが投資をはじめられた理由は、何だったのでしょうか?
高山:ファイナンシャルプランナーとして独立、起業したことがきっかけでした。前職では、一般企業で営業をしていたのですが、在職中からお金のことに興味があり、ファイナンシャルプランナーの資格を取得しました。当初は仕事にするつもりはありませんでしたが、これからの時代、お金の知識はますます大事になると感じたんです。そこで、多くの人のマネーリテラシー向上に役立つ仕事をしようと2005年に独立を決意し、同時に「お金のプロとして働くなら、投資の世界も知らなければ」と思い、投資もはじめました。
――投資をはじめるにあたり、どのようなことを学びましたか?
高山:投資の種類や手法など、基礎的なことを勉強したり、証券会社のセミナーや投資を学べるスクールにも足を運んだりしました。ただ、「実践あるのみ!」と思っていたので、本当に最低限の知識を身につけただけで投資をスタート。それでも、買った個別株はどれも値上がりするなど成績はよかったですね。というのも、当時はネット証券が登場して間もない頃で、若手起業家が注目されるなど、株式投資ブーム真っ只中。相場がとてもよく、誰が何を買っても儲かるような時期だったんです。
――滑り出しは順調だったんですね。
高山:はい、すごくうまくいっていました。でも、それも束の間のことでした。2008年にリーマンショックが起き、保有している株が大暴落。かなり動揺してしまい、勉強不足もあって、いくつかの株を手放してしまいました。
それでも、立ち直りが早い性格なので、1年ほど経って相場が戻ってくると、懲りずにまた個別株を購入。今度はリーマンショックの経験を活かそうと、長期保有に向いている株も持とうと考えたんです。そこで購入したのが、配当利回りがよかった東京電力の株。それが2010年12月。東日本大震災の4か月前というタイミングでした。
――なんと……!
高山:震災後の損失は、かなりのものでした。この経験を機に、もう一度きちんと投資を勉強して、何があってもブレない投資哲学を確立させようと決意しました。
投資方針の転機が到来!投資の思考法を学んだ一冊
――そのときに読んだのが、今回ご紹介いただく本『投資で一番大切な20の教え 賢い投資家になるための隠れた常識』(日本経済新聞出版)ですね。
高山:はい。2012年の出版直後に、投資家の知人に教えてもらい手に取りました。世界最大級の資産運用会社の創業者ハワード・マークスの書籍で、いわゆるハウツー本ではなく、投資に役立つ20の思考法が書かれています。
――どのような内容が響きましたか?
高山:たとえば、7章目に書かれている「リスクをコントロールする」ですね。私が投資をはじめた頃がまさにそうなのですが、いつまでもいい相場が続くだろうという根拠のない観測をもとに、どんどん資金を投入していました。つまり、リスクを取り過ぎていたんですね。でも、この本には「長期的に投資に成功するための道は、やみくもにリスクを取ることではなく、リスクをコントロールすることにある」と書かれていて、リスクをどう調整するかが大事だと気づかされました。
さらに、ウェーレン・バフェットやピーター・リンチといったすぐれた投資家は、「高いリターンをあげているだけではなく、巨額の損失を出さずに、安定した成績を記録している」と書かれていて、なるほどと思いました。
――大きな利益を残すには、リスクを低く抑える知恵と工夫が必要だと。
高山:そうです。私は、かなりリスクの高い運用をしていたと気づかされました。たとえば、FX のレバレッジ(※)は、最初は2倍程度だったのですが、徐々にリスクに対する感覚が緩くなっていき、10倍くらいまで上げてしまうなんてことも。本を読んでから、改めて私の投資を振り返ってみると、儲かるときは本当に大きな利益をあげることができましたが、損失も大きくて。トータルで考えると、そんなに儲かっていないことに気づきました。
(※)FXは、FX会社に預けた証拠金(元手)より多くの金額の投資ができる。この仕組みを「レバレッジ」という。
自分の資金や金融商品を委託保証金として証券会社に預ける代わりに、証券会社からお金を借りて、自己資金以上の金額で株取引を行うこと。
――この本を読んでから、投資スタイルはどのように変わりましたか?
高山:利益をコツコツと安定的に、そして中長期的に出し続けるためにどうしたらいいかを考えるようになりました。大きな利益を狙っていくよりも損失を減らし、リスクを低くしながら市場で生き残っていく。そのためには戦略が必要だと感じ、いわゆるインデックスファンドの資産配分を増やしました。「自分は凡人である」と痛感したので、凡人が勝つための投資をしようと覚悟を決めたんです。
――凡人ですか。なぜ、そうお感じになったのでしょうか?
高山:本を通して、株式投資で成功するには、人並外れた才能が必要だと学んだんです。具体的には、類稀な分析力や洞察力ですね。多くの人が思いつく予測しかできなければ、市場で成功体験を積み重ねていくのは難しいわけです。当たり前といえば当たり前なんですけどね。私は銘柄を分析することは好きですし、投資を続けていきたいとは思っていましたが、そこまでの才能はないなと感じました。
――それで、長期的に安定した利益が見込めるインデックスファンドの比率を増やされたと。
高山:そうですね。15年近く投資を続けてきて、インデックスファンドの成績が一番安定しているんです。地味な投資ですし、銘柄分析もいらないので、やや物足りなさはありますが(笑)。ただ、株式投資やFXを全くやめたわけではありません。比率は減らしましたが、こちらはこちらで楽しいので続けています。
――では、この本をどのような人におすすめしたいですか?
高山:かつての私のように、「大きく儲かるときもあるけど、運用成績が安定しない」と感じている人ですね。いやいや実は投資って大変で、しっかり知識を蓄え、リスクや感情をコントロールしないといけないんだよと、この本を通して伝えたい。著者の“20の教え”は、いわばマーケットというリングから退場しないための武器。全部を取り入れることは難しくても、これは!というエッセンスだけでも実践してみてはいかがでしょうか。
特に、2020年は新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の危機により、これまで以上に先行きが見えなくなりました。相場の動向も読みづらくなっていますが、こうした未知の事態が起きたときこそ「本質」を押さえておくべきです。でないと、情報に振り回され、投資の軸がブレてしまいますから。この本は、その本質に気づかせてくれると思います。
――実際に高山さんも、投資のやり方が大きく変わったわけですもんね。
高山:はい、この本に出会えてよかったです。最近はマネーに関心を寄せる女性も増えていて、投資セミナーの講師をさせていただくと、会場には以前より女性参加者の姿が多く見受けられます。NISAやiDeCoが興味を持つきっかけになっているのかもしれません。ただ、投資の本質を理解しないままはじめてしまったことで、コロナショックの際には、自分の判断に自信を持てず、迷いが生じて、投資商品を手放してしまった人もたくさんいました。
日本の女性の平均寿命は87歳を超え、世界でも稀に見る長寿。そのぶん、老後のお金に対する不安も大きいと思います。そこでネガティブになるのではなく、ぜひ一歩踏み出してお金や投資のことを学んでほしいと思いますね。
(末吉陽子/やじろべえ)