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IT2社はなぜ「リモートワーク」に違う判断をした?

コロナ禍で「働き方」が大きく分かれたヤフーとサイバーエージェント

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2020年は「働き方」を考える1年でもあった。リモートワークが普及したことで、出社やオフィスの意義を見直すきっかけになったと言える。実際、緊急事態宣言が明けた後は、どこまでリモート体制を継続するのか、どこまで出社のペースを回復させるのか、企業ごとに差が出た。

ITの大手2社も、大きく判断が分かれた。ヤフーは“完全リモート”を選択。10月1日から「無制限リモートワーク」として、出社しなくてよい体制とした。一方、サイバーエージェントは「週2日リモート、週3日出社」を推奨する形をとった。出社にも重きを置いたのである。

今後、出社を前提とした働き方は変化するのか。逆に、オフィスに通う価値とは何か。本記事では、ヤフーとサイバーエージェントの人事担当者に取材。それぞれの取り組みを紹介しながら、未来の働き方を考えたい。なお、両社の対応は、あくまで第3波が広まる前のものであり、またコロナ終息後を見据えた長期的な目線であることに留意したい。

9割以上の社員がリモートを好感。副業の促進にもつなげたヤフー

2020年10月1日、ヤフーは「無制限リモートワーク」を開始した。前年まで回数制限付きのリモートワーク制度「どこでもオフィス」を設けていたが、2月以降は新型コロナの感染拡大を受けて、段階的に月5回の上限を解除。社員に在宅勤務を強く推奨していた。その後、緊急事態宣言が解除された後も継続。10月からは正式制度として無制限のリモートワークを導入した。

あくまでリモートの“推奨”であり、社員は出社することも可能。ただ、10月1日時点で約95%の従業員が在宅勤務を実施していたという。

なぜフルリモートに舵を切ったのか。ヤフーで採用担当の本部長を務める金谷俊樹氏(コーポレートグループ ピープル・デベロップメント統括本部 コーポレートPD本部長)は、決断への過程を説明する。

「2月に段階的にフルリモートへ移行してから、2つの指標を計測してきました。『業績』と週1回の『社員アンケート』です。リモートワークが事業や社員の生産性・モチベーションにどんな影響を与えるか見るためでした」

計測の結果、業績は悪材料がなく、社員アンケートでも、90%を超える社員がリモートワークによるパフォーマンスへの影響は「ない」あるいは「向上した」と回答したという。この結果から、正式制度としての導入が決まった。

加えて、金谷氏の個人的な考えとして、フルリモートへ一気に進んだ背景には「社会インフラを担っているという自負も大きかったのではないか」という。Yahoo! JAPAN!をはじめ、多くの人が日常的に使うサービスを運営するからこそ、止めてはいけないという意識が強い。感染リスクを下げるフルリモートの決断は「危機管理ともつながっているかもしれない」と話す。

同社は、昨年7月から副業人材(ギグパートナー)の募集も開始している。この制度も、実はリモートワークが進む中で生まれたアイデアだという。

「リモートワークを行う中で、移動時間や距離の壁がなくなるメリットを強く感じていました。社員は空いた時間を使い、今まで以上に副業がしやすくなります。そんな話をする中で、逆に外からの副業も受け入れやすくなったのではないかと。私たちがオンライン完結で業務をしているのだから、応募する方もオンライン前提。たくさんの優秀な方に出会えると思いました」

その一方で、コロナ終息後の働き方については「考えるべきことが多い」と金谷氏は言う。

「今まで当たり前だった『出社して仕事をする』という前提が一変しました。その中で『出社する意義』『オフィスの価値』をどう捉えるべきか。コロナが終息してもリモートワークは続くでしょうが、一方でオフラインにしかない価値もあるはず。両方の良さを取り入れた新しい働き方を考える必要があります」

サイバーエージェントが「週3日出社」を推奨した理由

ヤフーと異なる決断を下したのがサイバーエージェントだ。同社は、緊急事態宣言下で2カ月のフルリモートを実施したが、解除後は一定日数のオフィス出社を推奨した。コロナの感染拡大状況に応じて柔軟に対応しながら、11月時点では、週2日はリモートワークを行う「リモデイ」、残り3日はオフィス出社を基本の勤務モデルとしている。

こちらもあくまで推奨であり、出社が“義務”ではない。個人の判断でリモートを増やすことも可能だ。

とはいえ、リモートワークが得意そうなIT企業が出社を推奨するのは意外。同社の石田裕子氏(専務執行役員 採用戦略本部長兼任)は、判断の裏側をこう話す。

「緊急対応として初めて全社フルリモートを実施しましたが、問題なく業務を遂行することができました。一方で、リモートワークの割合を増やすことで、会社が持つ強みやカルチャーが失われるリスクを感じました。それは私たちの優位性を損なうだけでなく、業績に悪影響を及ぼすリスクもあります」

ヤフーと同様、こちらもリモート期間に社員アンケートを取り続けた。だが、社員一人ひとりで立場や環境も違うため「全員が納得する働き方を示すのは難しかった」。その中で、最終的には経営トップを中心に判断を下したという。

実際、藤田晋社長のブログには、この決断にまつわる経緯や心中が記されている。当初は週1日のリモデイ、4日の出社推奨だったが、その後に上述の形へ変更した。リモートワークの良さを取り入れつつも、出社を重視していることに変わりはない。

「社員同士が顔を合わせて生まれる一体感や信頼関係は、サイバーエージェントとして外せない要素です。チーム主義の社風であり、人を巻き込んで成果を出すことが前提の組織なので、リモートワークでの“やりにくさ”を感じる社員も多かったのです」

出社を重視したとはいえ、コロナ前よりリモート比率が高まるのはサイバーエージェントも同様だ。そんな中、リモートの増加を考慮した新たな人事評価制度も設けている。「成果ミッション5:5」というものだ。

リモートワークが増えると、社員評価も変化する可能性がある。違う場所で働くため、後輩の教育やチームの雰囲気醸成といった数字に表せない貢献の評価が難しくなる。売上や契約数、作ったシステムなど、数字に表れる“成果”を重視した「成果主義」になっていくだろう。

この流れを意識して生まれたのが「成果ミッション5:5」。成果主義に振り過ぎない評価制度といえる。

「数字に表れる成果と、表しづらい貢献を5:5で評価する制度です。これまでも、私たちは若手社員の育成や採用といった全社への貢献を人事評価の対象としていました。ただ、業務として評価することを明言していなかったのです。世の中の流れとして成果主義が主流になる中で、明文化して価値を定義しておきたいと。ビジネス職を対象にトライアル段階ですが、そんな意図で生まれた制度です」

こちらも、コロナ終息後を見据えた制度といえるだろう。足下の対応だけでなく、すでに未来へ向けた準備も行っている。

「新しい働き方」を考えた2020年は、出社やオフィスという概念をゼロから再定義する機会にもなった。今後、私たちはどんな働き方をしていくのか。企業はどんな体制をとるのか。間違いなく、転換期が訪れている。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2020年12月現在の情報です

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