【日経記事でマネートレーニング8】相場ニュースを読む~「3万円」アンケート~
提供元:日本経済新聞社
このコーナーでは日経電子版の記事を読むことで資産形成力のアップを目指します。実際のニュースやコラムを引用し、初心者には難しく思えるような用語をかみくだき、疑問点を解消していきます。金融・経済ニュースをどれだけ読みこなせるかは投資のリテラシーそのものです。日々の情報にリアルタイムで動ける実践力を養いましょう。
8回目も相場ニュースを取り上げます。なにしろ私たちはいま、日経平均株価が30年半ぶりに3万円台にのせるという歴史的な局面に遭遇しています。相場・市場の先行きに注目が高まっているときは特集や特別な企画記事が多く掲載されます。たとえば「市場関係者へのヒアリング」や「専門家へのアンケート」が典型例です。この機会にそのあたりを題材にリテラシーを深めてみましょう。意外に難しい一面もあります。
「バブル」は価値増大・上昇局面における根拠・裏付けの有無
日経平均の3万円乗せをきっかけに全国紙やテレビ、ネットなどで毎日のように相場報道が流れます。関心事はやはり株価上昇の持続性でしょうか。
ついこの前も「ヤング日経」という企画で大学4年生の方と対談させてもらったのですが、「これだけコロナ禍で大変なときになぜ株式相場が上がっているのですか」という質問をぶつけられました。
初心者でなくても、いまの上昇は一過性ですぐに下がるのではないか――こんな疑問を投げかける記事や専門家のコラムが目立っています。というわけで、以下のようなサンプル記事を拾ってみました。
まず、「バブル(泡)」ということば。世界経済や金融市場の歴史を学ぶとけっこう頻繁にバブルというワードがでてきます。では、株式市場のバブルとはどういう意味なのでしょうか?
要は「価値の増大や価格の上昇時に裏付けがあるか」「買うに足りる根拠があるか」です。
将来、会社の収益が回復するし、配当も増える蓋然性が高い、とみれば根拠はあるといえます。逆にカネが余っているから買う、ほかに買うものがないので買う、みんな買っているから買う、株価が上がっているから買う――というような投資行動に基づいていれば、理にかなった価値判断がなされていない、裏付けが乏しいといえバブル的といえます。
バブルは泡なので早晩はじけて消えます。いまの株高がバブルと判断すれば株式投資は控えるほうが賢明でしょうし、根拠があるなら相場が下がった局面などで積極的に買うほうがいいでしょう。専門家のアンケートですが金融商品の成績にも響くので個人にとって他人事ではありません。資産形成のうえでもこのたぐいの記事は読みこなせるようになっておきましょう。
「市場の見方」はトリミング集なので読みにくいし難しい
ではひとつひとつみていきましょう。記事全文を載せたいのですが、紙幅の都合で割愛しました。じつは市場の見方やアンケートは意外に難しくて読みにくいのです。取材に協力していただいた方が100の分量を話してくださっても掲載できるのはせいぜい10、20ぐらいになることがほとんどです。そうなると枝葉をトリミング(刈り取って)しキーワードだけが詰め込まれます。読み手は文脈や行間を自身のリテラシーで埋めていかないといけないわけです。
①30年半ぶりに3万円=30年半前はバブル崩壊局面。意味があるのは3万円台に乗せた1988年(33年前)の上昇局面との比較になる。また、30年あまりで日経平均株価の構成銘柄もかなり入れ替わっており、中身が異なることを意識すべし
②日経QUICKニュース社=主に相場速報などを担う日経グループ会社
③市場関係者=投資戦略などを決めるストラテジスト、マーケットの動きを分析するアナリスト、実際に資金を動かす運用担当者、などが対象
④バブル=経済実態の裏付けがない、または根拠が薄い現象や状態
⑤リスク要因=ばらつきや振れの原因。株式市場では景気や業績、金利などを指す
⑥米株の急落と米金利の上昇=日本株の保有、売買とも外国人の比率が大きくなっており、日本よりむしろ米国発の要因で日本株が左右される局面が増えている
⑦予想PER(株価収益率)が過去のレンジを逸脱=一般に業種や企業ごとにだいたいの平均ゾーンがあり、そこを超えると買われすぎ、売られすぎとみる。この文脈では日経平均株価を「ニッポン株式会社」と見立てて、構成する225社の決算から合計1株利益を出すと日経平均の過去のPERのゾーンから上に逸脱している、と解釈できる
⑧品薄の値がさ株=品薄は発行済み株式数や流通株式数が少ないという意味。値がさ株は株価水準が高い銘柄で、日経平均は単純平均しているため、値がさ株の変動が指数に影響しやすい。直近では東京エレクトロン、TDK、信越化学工業などの株価が1万円以上でこれらの銘柄の動きが日経平均を左右しやすくなっている
⑨リスクテーク=リスクtake→リスクをとる→価格変動の大きい株式の投資に前向き、という意味の業界用語。リスク許容度が高まる、リスク選好が活発、などともいう
では、いつものようにあえてかみくだいて直した記事をみましょう。
識者アンケートや専門家の見方はいわば「メッセージのつまみ食い」です。紙面的にはどうしても見出しのイメージが強くなりますが、今回の事例でも単なる「バブルか否か」の結論ありきではなく、その判断に至る考え方のプロセスを追いかけるようにするとより理解が進みます。
(日本経済新聞社 コンテンツプロデューサー 田中彰一)