とある市場の天然ゴム先物 09
【用語・データ集(3)】天然ゴムと先物市場の橋渡しとなるデータから需給を読む
前回では用語解説とデータの探し方の第2弾として、ゴム先物市場の活性度を測る指標についてご紹介しました。今回は実物の天然ゴムと先物市場の橋渡しをするデータを見てみましょう。
建玉を取引最終日まで持っていたら何が起こる?
前回、先物市場でAさんが10枚売り、Bさんが10枚買いで売買が成立した場合、Aさんは売10枚、Bさんは買10枚のポジション(建玉)を新たに持つことになるとご説明しました。
それではこのポジションを限月の取引最終日まで持ち続けたらどうなるでしょう?
大阪取引所に上場するゴム先物は、RSS3、TSR20ともに「受渡しありの現物先物取引」となっています。これは取引最終日の取引終了までポジションを持ち続けていたら、売り方は天然ゴムの現物を買い方に渡し、買い方は受渡値段(最終帳入値段ともいいます)で計算した金額を売り方に渡すことで最終決済をすることになります。
ここで実例として、ゴム報知新聞NEXTで人気連載中のマーケットアナリティクスの記事を見てみましょう。
「1月25日にはJPXゴム(RSS3)1月限が納会を迎えたが、受渡価格は335.00円、受渡高は247枚となった。昨年12月限の292.00円から43.00円の急伸になっている・・・」(2021年2月1日記事)
この記事から、RSS3先物の2021年1月限は取引最終日(1月25日)の取引終了時まで反対売買されなかったポジションが247枚あり、これが天然ゴム現物と受渡値段335.0円を元に計算した金額(売買をしてポジションを持ったときの約定値段に受渡高を掛けた金額となります)で決済されることが分かります。RSS3先物1枚の取引単位は天然ゴム5トンですので、1月では247枚×5トン=1,235トンのRSS3が売り方から買い方に渡されたということになります。
ちなみに1月限の取引最終日におけるRSS3先物全体の取組高は13,717枚ですので、受渡高247枚は取組高全体の1.8%となります。また1月限の最大建玉残高は7,836枚(2020年8月25日)であり、こちらと比べると3.2%ということになります。ここからゴム先物の決済は圧倒的に反対売買が多く、受渡決済の数量は限られていることが分かります。
数量は多くないとはいえ、天然ゴム調達の機会を投資家に提供することはゴム先物市場の本質的な役割の一つです。実際、2020年に先物で受渡されたRSS数量はタイから日本への輸入量の21%を占めており、先物市場は天然ゴムのサプライチェーンの一部としての役割を果たしているといえるでしょう。
RSS3先物価格、受渡高、受渡高・取組高比率の月次チャート
なお各月の受渡高については、2020年7月以降は日本証券クリアリング機構ウェブサイト上の取引所取引に関する統計データで、それ以前はTOCOMウェブサイトの受渡集計表で確認できます。
実際に渡す天然ゴムはどこにある?
ところで売りポジションを持ち続けた人は最終決済で天然ゴムを渡すことになりますが、この渡す天然ゴムはどこにあるのでしょう?冒頭の例ですとAさんは先物10枚分の天然ゴムを渡すことになりますが、これは50トンにもなります。これはアジアゾウ10頭と同じくらいの重さですので、Aさんが家に保管しているとは考えにくいですね。
先物の受渡しの対象となる天然ゴムですが、RSSの場合ですと通常はタイから輸入され、通関手続きを経て大阪取引所が指定する倉庫(指定倉庫)に在庫として保管されることになります。つまりAさんは50トン分の天然ゴムを前もって指定倉庫に保管しておく必要があります。
こうした指定倉庫は東京都、神奈川県、千葉県、愛知県、兵庫県に計34ヶ所ありますが、数が最も多いのは神奈川県の16倉庫で、在庫量も全体の70%超となります(2021年2月22日現在)。
指定倉庫におけるRSS在庫
こうした指定倉庫における在庫状況や、在庫増減の要因となる入庫や出庫量をまとめたデータがゴム(RSS)市場指定倉庫入庫、出庫及び在庫集計です。データの発表は月3回(10日、20日、30日。当日が休業日のときは前営業日)で、都道府県ごとの在庫やゴムの等級別の在庫およびその増減を確認することができます。
ゴム指定倉庫 在庫集計
指定倉庫の在庫状況はゴムの需給を推測する手掛かりとなります。例えば同じ在庫の減少でも、「需要(出庫)が増加したのか」、「供給(入庫)に問題が生じているのか」によって相場の見通しは異なるでしょう。また在庫が増加している場合、タイの原産地のゴム価格と比較して日本の先物市場の値段が割高になっている(または割高になる見込みが高い)ことで輸入量が増えている、といった可能性も考えられます。
実際に2020年のRSS3先物価格と指定倉庫在庫の推移を見てみますと、2020年8月以降に指定倉庫在庫が減少しており、歩調を合わせるように先物価格が上昇しています。この時期はタイで医療用手袋(ラテックス)の需要が拡大したことで、同じゴムの樹液を原材料とするRSSの供給が減少してRSSの原産地価格が急ピッチで値上がりしていました。そうした背景からRSSの日本への輸出も減少して需給がタイトになったことから、思惑買いが入り先物価格も急上昇したと言われています。
RSS3先物価格と指定倉庫在庫推移
在庫の増減には様々な要因がありますので必ずしも「在庫減=先物価格上昇」となる訳ではありませんが、それでも特にファンダメンタルズを分析する際には指定倉庫の在庫動向は重要な手掛かりになるでしょう。
なおこちらの在庫動向はあくまでも指定倉庫における在庫になりますので、コンテナヤードや指定倉庫以外の営業倉庫、タイヤメーカーの倉庫にある在庫は含まれないことにご注意ください。ご参考までに、全国の営業倉庫における生ゴム在庫は日本ゴムトレーディング協会が毎月公表しています(ただし閲覧は会員のみ)。
TSR20先物の場合
ちなみに、ここまではRSS3先物における受渡しや在庫についての話となります。
大阪取引所のゴム先物にはもう一つTSR20先物がありますが、こちらは「タイまたはマレーシアの港における船積み(FOB)」での受渡しとなり、「日本国内の倉庫渡し」であるRSS3先物とは取り扱いが異なります。
FOBというのは最終決済において売り手は船積みによって受け渡せばよいということですから、それまでは売り手がどこかに天然ゴム(TSR)を保管することになります。タイまたはマレーシアの港での受渡しですのでどちらかの国内の倉庫に保管しているのが自然でしょうが、RSS3先物のように取引所が倉庫を指定することはありません。そのため、TSR先物については指定倉庫在庫の統計データはありません。
こうした受渡し方法の違いは先物の価格形成にも影響を与えます。RSS3先物は日本国内の倉庫渡しとなるため、RSS3先物の価格は原産地の価格だけでなく日本への輸送や日本国内の倉庫の状況にも影響を受けます。一方でTSR20先物はそうした要因の影響を受けませんので、より原産地価格に近い価格となるといえるでしょう。
さて、今回はゴム先物の受渡高や在庫集計といった用語やデータの探し方をまとめてみました。次回では海外市場やその他のゴム先物の相場の参考になるデータをご紹介いたします!
※次回の更新は2021年3月9日(火)頃の予定です。
【もっと知りたい方に!】
北浜投資塾「先物取引」
JPX「天然ゴム先物ファクトシート」
TOCOM「ゴム取引の基礎知識」
宇佐美洋・小野里光博「入門 商品デリバティブ」
JPX「商品先物取引に係る受渡決済関係事務処理要領」
(著者:大阪取引所 デリバティブ市場営業部 矢頭 憲介)
(東証マネ部!編集部)