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MAB投信だより

ファンドラップ、比較可能な運用情報の公表を

提供元:三菱アセット・ブレインズ

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サマリー

●実店舗型の金融機関が提供するファンドラップは、リタイアメント層の退職金などを中心に、8兆円を超える運用資産を集めている。
●ところが、ファンドラップは公募ファンド等と異なり、パフォーマンスチャートやポートフォリオの内容といった運用実績、運用状況は、一般にホームページ上などで公表されていない。
●顧客が金融機関比較を的確に行えるよう、一歩進んだ情報公開が期待される。

1. ファンドラップの運用実績は基本的に非公表

投資一任契約の一種であるファンドラップは、2004年にスタートしてからリタイアメント層を中心に2014年頃から急速に残高を伸ばし、今や個人の資産運用において主要な選択肢の一つとなった(図1)。

近年ではAIがアドバイスを行うロボアド(投資一任型ロボットアドバイザー)が契約件数では台頭しているが、一件当たりの運用金額は少なく、実店舗型のファンドラップの存在感は依然として大きい。足許で急速にデジタル化が進みつつあっても、まとまった資金を運用する場合には、顧客一人一人に合ったきめの細かいアドバイスが期待されていることが示唆される。

出所:投資顧問業協会統計資料よりMAB作成。2020年9月末現在。
「実店舗型」は超富裕層向け専業を除く実店舗型金融機関における個人向けのラップ契約(ファンドラップ以外を含む)を示したもの。
金融機関数は協会への届出事業者ベース。
ただし2016/3以前のデータには一部法人契約が含まれる。
「ネット専業」には一部IFA向けラップ等が含まれる。

一方、ファンドラップの運用コストは公募ファンドを直接購入するのに比べて高額かつ複雑な傾向にある。組入ファンドの運用管理費用に加えて投資顧問料(報酬)が発生し、契約金額によって報酬率が異なったり、成功報酬、固定報酬の別を選ぶ必要がある。ゆえに、各金融機関(銀行、証券等)のサービス内容や運用実績等を十分に比較し、納得した上で運用を任せたいという顧客は多いのではないかと考えられる。

ところが、各金融機関のファンドラップ紹介ページには、サービス内容の記載はあっても、運用状況や運用実績が殆ど公表されていない。ファンドラップは個別に一任契約を結ぶ形態であるから、金融機関に情報を公表する義務はないためである。また、ファンドラップの契約にはある程度まとまった金額が必要であるから、複数の金融機関で契約している顧客は少なく、ネットの口コミ等でも評判が広がり難いようだ。

2.「含み損益」からもう一歩進んだ公表が求められる

こうした現状から、ファンドラップに関心を持った顧客が公表情報をもとに運用の内容について金融機関を比較し、客観的な評価を行うことは極めて困難な状況にあるが、足許では改善の向きもある。下図に示した「運用損益別顧客比率」(横軸が含み損益の大きさ、縦軸が顧客の割合)は、金融庁が「比較可能な共通KPI」として2018年より公表を求める指標の一つであり、多くの金融機関がホームページ上でファンドラップのみの集計を公表している。

出所:金融庁  共通KPIの公表イメージ図(R2.9.18)

この比率を比べれば、どこの金融機関で契約者の含み益もしくは含み損が大きくなっているかがわかるので、ファンドラップを比較するための手がかりとして参考にできる。

ただし、この指標はあくまで含み損益を示すものなので、契約を締結、終了するタイミングや運用戦略のリスク水準の影響を受けてしまい、金融機関の正確な横比較はできない。ファンドラップを検討する顧客がより的確に評価するためには、運用実績や運用状況の更なる「見える化」が求められる。

3. ファンドラップの「見える化」に向けて

実際に金融機関が運用実績等の「見える化」を進めるにあたっては、契約形態は異なるが運用形式の実態が近い、公募ファンド・オブ・ファンズの月報が参考になる。具体的には、パフォーマンスチャートや騰落率、投資するファンドの組入比率やその寄与度などを定期的にホームページ上で公表するイメージである。一般にファンドラップの運用戦略は数種類に類型化されており、その運用実績等が契約者向けには開示されていることを鑑みると、公表は十分に実現可能と考えられる。

なお、パフォーマンス計測の際には、前述したように公募ファンドと比べて複雑な体系となっている運用コストの計算処理がポイントとなる。これにはいくつかのパターンが考えられるが、(1)最も高い報酬率を控除する、(2)実際の報酬率の残高加重平均を控除する、(3)報酬は控除せず別表で報酬率を表示する、などの方法であれば一定の妥当性がありそうだ。

本稿ではファンドラップを取り巻く情報公開の現状と、その改善の必要性について言及した。ネット活用時代の今、リタイアメント層などがファンドラップの金融機関比較をより的確に行うことができるよう、アドバイス内容などサービスの説明に加えて、ポートフォリオの中身やパフォーマンスについても紹介ページに記載するなど、客観的な評価を可能とするために更なる情報の公表を期待したいところである。

(ファンドアナリスト 瀬山太郎)

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