マネ部的トレンドワード

毎年10%以上の市場拡大が見込まれる

普及が進むHRテック。AIによって人事はどう変わるのか

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最近注目されるビジネス業界のキーワードに迫る「マネ部的トレンドワード」。今回取り上げるのは「HRテック(HRテクノロジー)」である。

HRテックとは、人事業務のテクノロジー化。人事業務は多岐にわたるが、求人や採用、労務管理、社員育成、人材配置など、そのほとんどをこれまでは人が行ってきた。ここにテクノロジーを活用しようという動きが起きている。

HRテックは、今後どれだけ盛り上がるのだろうか。さらに、テクノロジーの活用によって人事の仕事はどう変化するのだろうか。そこでこの記事では、人材育成・人事コンサルティングを行うHRDグループに取材。韮原祐介氏、久保田智行氏、水谷壽芳氏の3名に、HRテックの概要を聞いた。

HRテックの市場拡大ペースと、背景にある日本人の“キャリア変化”


HRテックの市場は、今まさに伸び盛りといえる。水谷氏によれば、このマーケット発祥の地であるアメリカでは、2019年時点で約160億ドルの市場規模に成長。さらに今後も、2027年までの年平均成長率が11.7%と予測され、右肩上がりになると考えられている。

日本もアメリカの動きを追随するようだ。国内の市場規模は、2019年時点で約1119億円。2023年までは、13.7%の年平均成長率が予測されている(※)。すでに「440を超えるサービスが国内で確認されており、今後さらに加速していくでしょう」と水谷氏は説明する。
※シード・プランニングが2019年に行った調査結果より

これほどHRテックが注目される背景には、日本の雇用形態やキャリア意識の変化も関係しているようだ。韮原氏が説明する。

「終身雇用が崩れ、雇用の流動性が増す中で、求人・採用の精度を高めることや、良い人材を流出させないよう社員の満足度を高める必要性が増しています。アメリカでHRテックが先行したのは、人の入れ替わりが激しく、質の高い人事が求められているため。日本での必要性も今後もっと顕在化してくるでしょう」

これまでの日本企業は「社員の5年後、10年後の姿を予想しやすかった」と韮原氏。しかしキャリアが多様化する今後は、良い人材を取り入れ確保し続ける“人事力”が競争のカギとなる。そこでHRテックは注目度を増すという。

人事業務はいろいろあるが、日本のHRテックで進んでいるのは「求人・採用」だという。水谷氏によれば、求人に関するサービス提供会社は120社、採用に関しては86社ほどある。そのほか、労務管理・評価のサービスも61社あるという。

「一方、人材の配置・登用や教育・人材開発のHRテックサービスは、現状ではまだ少ないです。ただ、今後バーチャルワークなど働き方の多様化が進むと、この分野のサービスも普及していくでしょう。今までのように、社員の働きぶりを直接見ながらの配置決めや、対面での社員教育の効率が悪くなるためです」(水谷氏)

社員の採用や教育、配置を変えるには「AI×データ」がカギ

HRテックの大きな流れを聞いたところで、これらのサービスが人事業務をどう変えるのか考えていきたい。

もっとも想像しやすいのは、これまで手作業で行っていた採用や勤怠、給与払いなどの業務をデジタル化・自動化すること。すでに取り入れている企業も多いだろう。しかし、HRテックの“本領”はその先にあるようだ。

「AIを活用したHRテックが普及すると、できることはもっと増えるでしょう。たとえば社員教育のeラーニング化はすでに行われていますが、各社員のスキルや進捗を見ながら、個人に最適なトレーニング内容をAIが分析・提案する形も考えられます」

教育機関や学習塾でも、AIを使って学習効率を改善する取り組みは進んでいる。これらは当然、企業の社員教育にも応用されると考える。

ほかにも、AIのデータ分析により、社員教育の質や効率を高める形は考えられるようだ。従来の階層別教育で提供されるような、一般的な教育内容はインターネットで調べればわかる時代であり、データを活用してより個人のニーズを踏まえて、成果に直結する教育コンテンツの提供が実現可能である。これについて、久保田氏が説明する。

「特に注目したいのが営業教育の進化です。オンライン営業が増える中で、その映像データを活用し、相手の表情や会話を解析して営業力を高めるツールの開発も進んでいます」

久保田氏は「セールスパーソンのスキルは属人化しやすく、他の社員に伝承することが難しかった」という。何より「セールスパーソン本人も自分が持っているスキルに気づいていないこともある」と続ける。たとえば、その人が無意識にやっている相槌や話し方が、相手への好印象につながっている場合もある。「そういったノウハウを、映像という確かなデータから分析できる」と考える。

データを分析・活用する手法は採用にも生きてくる。水谷氏が紹介するのは、ある自動車販売メーカーの事例だ。好成績を収めているセールスパーソンの特性をアセスメントを使って調べたところ、その人たちの「興味・関心」について意外な事実が見つかった。興味・関心のスコアが一番高かったのは「事業開発」という指標で、おおむね予想通りの結果だったが、意外だったのは2番目。「財務・事務管理」が挙がったことだ。

「優秀なセールスパーソンは、車を販売するだけでなく、その後の手続き業務への意識が非常に高かったのです。この結果をもとに、そのメーカーは新たな領域の人材採用を始めました」(水谷氏)

こういったデータをAIが分析すれば、より膨大な量のデータから意外な事実が見つかる可能性がある。それを人事業務に生かすHRテックは増えていくという。逆に企業は「AIの分析に必要となる十分な質と量の人事データをどう溜めるか、その手法を考えていく時代になってきている」と韮原氏は指摘する。

「とはいえ、AIがすべての人事業務を担うのはまだ現実的ではありません。たとえば採用なら、大量に来る応募について、まずはAIがスクリーニングして絞っていく。過去の採用データを分析し、その企業で最低限満たすべき要素を明らかにして、スクリーニングする形が考えられます。一方、採用決定などの重要な判断については、AIがアシストすることによって人間がより正しい判断する、という形が広まるのではないでしょうか」(韮原氏)

なお、企業がHRテックを導入する上では「人事業務の横のつながり、一貫性を意識して導入することも重要になる」と久保田氏は言う。採用・教育・配置など、多岐にわたる人事業務だが、すべては1人のキャリア上でつながっていく。各業務がバラバラの方針や手法では効果が出ない。その連携を意識することがポイントになる。

まさに進化の最中であるHRテック。AIなどのテクノロジーが入ることで、この領域は大きく変わっていくかもしれない。次回以降、実際のサービス事業者に取材し、HRテックの実像に迫っていきたい。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2021年3月現在の情報です

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