中国市場の乱高下はファンドが演出?
提供元:東洋証券
年初から好調な値動きが続いていた中国株市場は、2月中旬の春節(旧正月)を境に調整局面に入っている。年初来の上昇を一気に打ち消してしまった形だ。背景には、昨年あたりからにわかに盛り上がってきたファンド(投資信託)マネーの動きがあると言われている。
個人投資家からは最近、株式ファンドの話がよく出る。「投資はプロにお任せ」ということだろうか。中国の知人から突然スマホ画面を見せられ、「この基金(ファンド)、知ってる?」と聞かれたことが何回もある(大抵は見たことも聞いたこともない商品なのだが……)。
マーケットでは昨年後半頃から「抱団(バオトゥアン)」というキーワードが話題だ。元々は「しっかりと結束する」という意味だが、投資の世界では「機関投資家や大型ファンドが揃って買いを入れる」のような投資行為を指す。投資対象は優良ブルーチップや政策関連セクターなど順張りが基本。個人投資家の間で株式型ファンドの人気が上昇中だ。
公募投資信託の純資産データを見ると、「株式型」と「ハイブリット型(基本的に株式+債券)」の数字が急増中。18年末の2兆1848億元(約36兆7000億円)から、20年末の6兆4208億元(約107兆8700億円)まで約2.9倍に拡大した。公募投信の全純資産に占める比率は30%を超え、約4年ぶりの水準を回復。個人の投資マネーが個別売買だけでなくファンド経由でも市場に流入しているようだ。
業界大手の易方達(E Fund Management)が手掛ける人気ファンドの一つに、中国A株と香港株のブルーチップに投資するハイブリッド型商品「易方達藍筹精選混合」がある。20年末時点の資産規模は677.01億元(約1兆1400億円)。俗にいう「1兆円ファンド」だ。
組み入れ銘柄を見ると、白酒大手の貴州茅台酒(マオタイ)、フードデリバリー最大手の美団(メイトゥアン)、メッセージアプリ「WeChat」を展開するテンセント、監視カメラで世界最大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)など、誰もが知る銘柄がズラリ。これらの人気商品が話題になり、ファンド市場の拡大を後押しし、株価も右肩上がり。「明星基金経理(スターファンドマネージャー)」の収入が天文学的数字になるなど、業界でもてはやされ、まさに「この世の春」状態だった。
しかし、今年1月下旬頃からその風向きが微妙に変化し始めた。人気ファンドの新規購入が一時停止になったり、メディアで「抱団」の行為を戒めるような声が出るなど、急ピッチの上昇への警戒感が現れてきたのだ。「ファンドが売りに走ったのではないか」――。こんな疑心暗鬼が個人投資家の間にも広がり、これまで買われていたハイテクや白酒、新エネルギー株などが揃って下落。相場全体に影響を与えた。
一方、下落局面で、中国地場系ファンドが「自社株買い」ならぬ「自社ファンド買い」を行っているとの情報もあった。春節明けの2月18日から3月8日にかけて、各ファンドによる買い付け総額は2億元近く(約33億円)に上ったようだ。とある大手ファンド会社は自社商品を5000万元で“買い増し(出資)”。業界関係者によると、1000万元程度の持ち出しは日常茶飯事だが、5000万元という大きな額は珍しいよう。また、複数のファンドマネージャーが個人で100万~600万元(約1700万~1億円)程度を投じ、自社ファンドを買い増したとされている(ネット上では、「そんなにリッチだったのか!」というツッコミ的なコメントも見られるほどだった)。
さらに、3月9日には、「国家隊」と呼ばれる中国の国有系ファンドが市場安定のため資金を投入し、株式市場を買い支えているとの報道もあった。これを受け、中国株の指数は下げ幅を縮小。いつものように真偽のほどは不明だが、大きな下落局面でこのような動きが入りやすいのは中国市場の経験則であり常識でもある。マーケットが乱高下を繰り返した2015年にも同じような流れが見られた。市場には様々なファンドがあるものだ。
改めてマーケットの主体を見てみよう。中国株式市場では個人投資家の割合が約8割とされる(売買代金ベース)。個人が動けば相場も動く。ネットの噂や憶測で個別株が乱高下するのは日常茶飯事。企業業績や成長性、バリュエーション、ましてやマクロ経済動向や金融政策などとは全く関係なく、個人トレーダーが日銭を稼ごうと超短期で売り買いを行う。1日当たり売買代金が1兆元(約17兆円)を超える日も多いが、それを支えるのはアクティブな個人投資家である。
一方、持ち株ベースではどうか。上海証券取引所のデータによると、個人投資家の持ち株比率は20.59%(2019年末時点)。07年はなんと48.29%だったので、近年は大きく低下した。一方、一般法人は60.89%、機関投資家(ファンドなど)は15.74%だ。個人はストック(貯蔵量)よりもフロー(流動量)で存在感を発揮していると言えようか。
中国証券投資者保護基金による調査(19年)では、個人投資家全体の73.3%が中長期投資をメインと考えている。「短期をメイン」とするのは18年の28.2%から17.9%に低下。頻繁に売り買いを行う層が減ったように見える。しかし、彼らの長期や短期という定義は曖昧だ。同じ調査では、47.1%の投資家が「購入した株は6カ月以内に手放す」と答えた。また、7割超が1年以内に売却するとし、3年以上保有すると答えたのは10.9%にとどまる。ただ、「含み損を抱えたときはどうする?」という設問には、39.8%の人が買い増し(いわゆるナンピン買い)するというアクティブな回答。塩漬け状態にする人は14.1%だった。
アクティブな個人投資家が人気ファンドにも資金を投じ、個別優良企業の株価やマーケット全体を押し上げ、その後に利益確定売りが膨らんだのがここ数カ月の中国株式市場の特徴と言える。各ファンドは3月末の運用実績を4月上旬から中旬にかけて発表予定だが、その際、人気銘柄の保有を減らしたことが明らかになれば、個人投資家の間に動揺が走るかもしれない。ボラティリティーが大きい相場には注意が必要だ。
ただ、20年決算が揃ってくれば、好業績銘柄から買われる「業績相場」が本格化し、今年からスタートする第14次五カ年計画(2021~25年)が改めて注目されれば「政策相場」への移行も進むだろう。現在の調整局面の先を見据えた投資を心掛けていきたい。
(提供元:東洋証券)