投資家の本棚

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【株主優待の名人・桐谷さん】引き際と勝ち逃げの大切さを教えてくれた本『リーマン恐慌』

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投資家としての一面も持つ各界のトップランナーに、投資への想いとオススメの本を訊くこちらの企画。今回は、“株主優待の名人”として人気の棋士・桐谷広人さん。約1,000銘柄を長期保有し、優待品だけで生活をまかなう桐谷さんですが、かつてはハイリスクな投資で痛手を負ったことも。

失意のどん底だった頃に出会ったのが、ご紹介いただく書籍『リーマン恐慌』(岩崎日出俊 著)です。この本が桐谷さんを優待生活に導く、ひとつのきっかけになったそう。オススメの理由をはじめ、桐谷さんの読書生活にも迫ります。

『リーマン恐慌』には投資で成功するための真髄が書かれていた

――桐谷さんオススメの書籍『リーマン恐慌』ですが、著書の岩崎日出俊さんはリーマン・ブラザーズの元幹部だったということで、リーマンショックの真相が克明に記されていますよね。どの部分に影響を受けたのでしょうか?

桐谷さん:この本には、リーマン破綻の実情が書かれていますが、その内容よりも、この一節が胸に響いたんです。

「自分の能力とその限界を知っている頭のいいトレーダーは、自分の引き際を知っている。成功を手にする最大の要素は『勝ち逃げ』であること、いつまでも勝ちつづけられないことがわかっているのだ。〈中略〉しかし、個人は引き際を知らず、乱高下する相場に人生のかけがえのない貴重な時間をとめどもなく奪われ、疲れ切るか、破綻するかで終わることが多い。一時的に勝ったとしても引き際を見誤って、元の木阿弥となる例は枚挙にいとまがない」(『リーマン恐慌』P.251より)

ここで書かれている「個人」は、まさに自分のことだと思ったんですよ。

――それは、なぜでしょうか?

桐谷さん:ひとことで言えば、勝ち逃げしなかったからですね。私がこの本に出会ったのは、2008年12月のことです。

――というと、まさにリーマンショックの後ですね。

桐谷さん:はい。当時は棋士を引退して、投資だけの生活をはじめてからちょうど1年が経つ頃でした。信用取引に手を出した矢先、リーマンショックが起きて、3億円まで増やした資金が5,000万円まで減ってしまったんです。手元に現金がないので、値下がりした株を売ってしのいでいました。本なんて買う余裕がなく、書店で立ち読みする日々でしたが、そのときちょうど新刊で販売されていたのが、『リーマン恐慌』でした。

――勝ち逃げできなかったのは、なぜだったのでしょう?

桐谷さん:私が投資をはじめた頃はバブルの時代で、どの銘柄を買っても値上がり続けていたんです。これが永遠に続くような気がしていました。でも、そのあと、山一證券が破綻したり、ITバブルがあったりと、よく考えれば下落する局面があると気づくはずなんですよ。それなのに、ちょっと儲けると気が大きくなって、甘い勝負に出てしまう。

――桐谷さんも、そうだったと。

桐谷さん:はい。私は、資金20万円から投資をはじめて、将棋で稼いだお金をコツコツ投資に回し、資産を3億円まで増やすことに成功しました。そこでやめておけばよかったのに、もっと増やせるだろうと思ってしまったんです。2007年に棋士を引退してからは、株の勉強にもっと時間を使えると思い、資産30億円を目指したわけです。

――なんと、10倍! 3億円あれば充分な気もしますが。

桐谷さん:そうなんです。世界一周旅行でもして、気楽に暮らせたと思いますよ。でも、自分ならもっと稼げると思ったわけです。でも、よく考えたら30億円を手にしたとしても、使わないから意味ないんですけどね。でも、引き際が分からないもんだから、『リーマン恐慌』に書かれているように、かけがえのない時間を奪われていました。昔はパソコンがなかったので、わざわざ証券会社のボードを見に行ってましたしね。

――それは手間がかかりますね。

桐谷さん:株価が上がると気分がウキウキして、下がると元気がなくなる。相場に振り回されていたわけですよ。『リーマン恐慌』は、そのことを的確に指摘していて、あぁ~その通りだなと思って、目が覚めたんです。

――それで、株主優待生活に舵を切ったと。

桐谷さん:そうです。リーマンショックで大損してお金がなくなったとき、はじめて優待品のありがたみに気づきました。それまで、優待品なんて気にも留めていませんでしたが、お米や豆腐、レストランの食事券が届いて、数年間、命をつなぎとめることができたんです。それで、株の値上がりを待つよりも、優待をもらって人生を楽しむ方が自分に合っていると思ったわけです。


――優待生活をはじめてから、何が一番変わりましたか?

桐谷さん:気分が落ち込まなくなり、精神的に楽になりましたね。株価が下がると憂うつで、すごく不機嫌になっていましたから。まあ、いまは優待の期限に追われる日々なので、ある意味、優待にこき使われていますけど。強いていえば、優待が廃止されたときにガッカリするくらいでしょうか。

投資本はBOOKOFFでチェック! 良さそうな本なら優待券で入手する

――桐谷さんは、独学で投資をはじめられたそうですが、参考にした本はありますか?

桐谷さん:いろいろな本を読みましたけど、まあ、参考になる本は、ほとんどありませんでしたね。「株や相場の未来予想」について書いてある類は、まず当たりませんよ。もし当たるなら、本なんて書かないで、ひっそり儲けるはずですから。

――ということは、投資関連の本は読まれない?

桐谷さん:BOOKOFFで立ち読みくらいはしますね。BOOKOFFがいいのは、10年近く昔の本も置いているところですよ。そうすると、「この著者はヨミを外してばかり」なんてことも分かっちゃう。ただ、立ち読みばかりじゃないですよ。BOOKOFFの株も持っているので、これはいいなと思ったら優待券で買います。

――たとえば、どんな本でしょうか?

桐谷さん:『大暴落』(斎藤精一郎 著)はいいですね。バブルの頂点だった1988年に発売された本ですが、世界最古のバブル崩壊といわれるオランダのチューリップバブルなどに触れながら、日本もいつ株価が暴落してもおかしくないと書いてある本です。

――予言的な本ですね。

桐谷さん:まさに、そうですね。でも、当時はそんなこと起きるわけない、と誰も著者の言い分を信じなかったみたいです。私は、バブル崩壊後に読みましたけど、実際はここに書いてある通りのことが起きてます。だから、結局のところ、そのとき本当にためになる投資の本を見つけ出すのは、難しいんじゃないでしょうか。

――なるほど。なんとも深いご意見です。

桐谷さん:ただ、投資の専門書以外で、普遍的に大切なことを教えてくれた本はありますよ。それは、鉄腕アトムです。

――鉄腕アトム、ですか。ちょっと意外です。

桐谷さん:鉄腕アトムは、ロボットに張り付いてエネルギーを吸い取る宇宙生命体が攻めてきたとき、群体で立ち向かおうとするんです。一体だけだと負けてしまいますが、たくさんのロボットが集まって大きなロボットになって戦えば、一部のロボットのエネルギーが吸い取られても、他の部分が動くからやっつけることができる。これは、投資でいうところの分散投資ですよ。いろいろな優待銘柄を持つようにしたのは、鉄腕アトムに学んだ、とも言えますね。

――投資に直接関係なさそうでも、本質的に言わんとしていることは同じなんですね。そう考えると、いろいろな本を読んだ方がいいのかもしれませんね。

桐谷さん:そうですね。投資スタイルに影響を与えた本、と聞かれたら『リーマン恐慌』くらいですが、私自身は読書が好きですからね。特に歴史小説は大好きで、直木賞作家の宮城谷昌光先生の本はほとんど読んでいます。でも、いまは優待券を使うのに追われていますし、セミナー講師や原稿で何かと忙しくて、思うように本を読めないんですよ。本当はゆっくり歴史小説を読む時間が欲しいと思っているんですけどね。

取材・文 末吉陽子(やじろべえ)
撮影 菅井淳子

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