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コロナ禍の就活で、企業と学生の間に新たに生まれたメッセージとは

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3月から本格的にスタートした就職活動。通常なら、リクルートスーツの若者が街にあふれる時期だが、コロナ禍ではどうなのだろう。テレワークが普及したように、就活もオンライン化が進むのだろうか。そもそも、この状況で企業の採用意欲はどれほどあるのだろうか。

そんな疑問から取材したのは、新卒採用の動向を調査するマイナビの東郷こずえ氏(HRリサーチ部 HRリサーチ1課 課長)。毎年の風物詩である就活は、コロナ禍でどう変化するのか。その展望を聞いた。

「対面」の理由が企業に求められる


コロナ禍の就活で予想される変化はいくつかあるが、もっともわかりやすいのはオンライン化だ。ただ、面接や企業説明会がすべてオンライン化されるというより、オンラインと対面の“使い分け”が主流になると東郷氏は考える。その背景にあるのが、1年前の就活の経験だ。

「2020年の就活を経て、オンラインと対面それぞれのメリットが明確になってきました。企業側も学生側も同様です。たとえば企業からすると、経営者や役員との最終面接までオンラインで行うのは、学生を細かく知る面で不安があります。一方、学生もデジタルネイティブ世代といわれますが、オンライン面接だと自分の熱意や考えがきちんと伝わっているのか、不安を抱く傾向が強いんですね」


実は2020年の就活でも、すでに“使い分け”は主流だった。マイナビの調査によると、全体の企業のうち、企業説明会などの「個別企業セミナー」をすべて対面で行った企業は39.7%。これが1次面接になると47.4%に上がり、最終面接では71.5%にまで上昇した。最終段階に近づくにつれて対面が増えているのだ。ちなみに、上場企業は対面の割合が低く、上記3つの数字も、それぞれ17.4%、20.4%、50.9%と全体平均を下回っている。

いずれにせよ、最終面接に向けて対面が増えていくことに変わりはない。今年も、フェーズごとにオンライン・対面を使い分けるケースが増えるという予測だ。

「ポイントになるのは、オンラインと対面のどちらで行うかという選択に意味が求められることです。特に対面で実施する場合、そう決めた理由は重要なメッセージになるでしょう。仮に企業が対面でイベントを行ったとして、学生から『対面でやる必要はなかったのでは?』と思われれば、企業への評価は下がるかもしれません。一方、その意図をきちんと伝えられれば企業理解が深まります。これはコロナ前にはなかったことです」

昨年の就活でも、この点で苦心する採用担当者たちの声が聞かれたという。なかには「なるべく対面で行いたいが、学生や会社の理解を得られるか心配」というものもあった。

インターンシップに苦心する企業。オンラインでの工夫とは


特に多くの担当者を悩ませるのが、インターンシップだ。最終面接などは対面実施でも学生の理解が得られやすいが、インターンシップは位置付けが難しい。とりわけ製造業の担当者からは「ものづくりは体験しないと楽しさや難しさがわからない。しかし対面実施にすることで『WEB対応していない会社』『遅れている』という印象になると困る」「会社方針により、来社してのインターンや採用活動は禁止されている。とはいえ製造業なので、会社の雰囲気を知ってもらわないと効果的な活動にならない」という声もあったようだ。

「製造業の中には、工作キットを学生の自宅に郵送して、オンラインでレクチャーしながら製作を体験するインターンシップもありました。また、WEB上だと参加する学生同士や社員との雑談が生まれにくいので、あえてお昼休憩の時間もオンラインでつなぐ企業も見られましたね」

もちろん、就活のオンライン化によって生まれたメリットもある。そのひとつが、就活の“格差”を埋めること。これまで、地方から首都圏への就職を考える学生は、イベントのたびに長距離移動する必要があった。それが、オンライン化で「参加のハードルが下がりました」という。また、理系学生は研究の忙しい合間に就活をしなければならず、苦労が多かった。それらも「オンライン化で軽減されるのでは」という。

かつての経験から「コロナ禍でも採用は大きく落ち込まないのでは」


ニュースを見ていると、コロナの影響で「採用が厳しくなる」という論調が聞かれる。ただ、2021年の就活に関しては「大きく落ち込むことはないのでは」と東郷氏は予測する。

「航空系などの一部企業を除いて、新卒採用を毎年続けている企業は今年も継続すると思います。ワクチンの供給も始まり、今の就活生が活躍する数年後は回復期に入っている可能性が高いでしょう。であれば、その時期を見据えて人材を確保したいはずです。むしろ少子化が進む日本において、若い人材が入る機会を逃すのは大きなリスクなのです」

ひとつの手段として、いったん新卒採用を見送り、完全な回復期に入ってから中途採用で補うという考えもある。しかし、かつてのバブル崩壊や就職氷河期で企業がそれを実践し、人材確保に「かなり苦労した経験がある」とのこと。だからこそ、今回、通年の新卒採用を大幅に減らす企業はそこまで増えないと話す。

この1年で、働き方は大きく変わった。また、大手企業の足下が揺らぐシーンも見られ、企業経営の難しさを感じた人は多いだろう。当然、それは学生も同じ。彼らがどんな就活を経て、どんな企業を選ぶのか。その動きにも、未来を反映するサインがあるかもしれない。


(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2021年3月現在の情報です

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