マネ部的トレンドワード

登録企業は3万社を超えてシェア1位

もっともデジタル化から取り残された業務に手を伸ばす「SmartHR」

TAGS.


デジタル化が進んでもなお、会社員にとって“紙”の手続きは多い。年末調整や人事部への家族追加などの変更申請はその代表。何枚もの書類に同じ内容、たとえば氏名や住所を繰り返し記入し、うんざりした経験もあるはずだ。

そういった人事・労務管理を効率化するサービスとして急伸しているのが「SmartHR」だ。人事と従業員の間で起こる紙のやりとりをデジタル化し、煩雑な作業を自動化する。HRテックのひとつといえる。

「労働人口が減る中で、働き方を変えて一人ひとりの生産性を上げる必要があります。しかし、働き方を変えるための“旗振り役”である人事の方が忙しくては、変化は進みません。人事の仕事を助け、生産性の高い働き方を後押しするのがこのサービスです」

そう話すのは、株式会社SmartHRのCOO(最高執行責任者)を務める倉橋隆文氏。近年注目されるキーワードに迫る連載企画「マネ部的トレンドワード」。HRテック編の本記事では、SmartHRを紹介する。

創業者の妻が産休を取得。その実体験から生まれたサービス

「SmartHRは、2015年にローンチしました。サービス開発のきっかけは、創業者の一人、宮田昇始の妻が産休を取得するときの実体験。大きなお腹を抱えながら、何枚もの書類に記入している姿だったといいます。ただでさえ子どもを身ごもり大変なのに、氏名や住所を何度も繰り返し記入するなど、ムダが多い。このムダを『ITの力で変えたい』と思ったのがスタートでした」

こうして作られたSmartHRは、人事・労務管理にまつわる煩雑な手続きを効率化するサービスとなった。クラウド上にあるSmartHRから、雇用契約や入社手続き、社会保険や年末調整などの業務をデジタルで完結。何枚もの書類に書き込む手間はなくなり、氏名や住所といった項目は一括で入力される。書類送付などがデジタル上でのやりとりに置き換わるのも大きい。

こういったデジタル化・自動化の機能は、SmartHRのローンチ当初から力を入れてきた。さらに最近は、人事データ分析や従業員アンケートの機能も追加されている。

「SmartHRで労務管理を行うと、従業員の給与や社歴、勤怠状況などのデータがクラウド上に保管されます。そのデータをもとに、平均給与や勤務実態を部署や年齢、役職ごとに分析・比較できます。また、SmartHRによる従業員へのアンケート調査も可能。仕事への満足度や会社への意識を測ります。こちらも、部署や役職などのセクターごとに回答結果を分析可能です」

倉橋氏は、デジタル化・自動化を「第1機能群」、分析・アンケート機能を「第2機能群」と表現する。第1機能群で人事業務を効率化し、第2機能群で人材活用や生産性向上のヒントを得るシナリオだ。

シェア1位でも「全企業の2%弱」。まだまだ大きな伸びしろ


ここ数年、HRテックのサービスは急速に増えているが、労務管理のクラウドサービスではSmartHRがシェア1位(※)をキープしている。登録企業は2020年11月時点で3万社を突破。大企業から中小企業まで幅広く、たとえば企業規模を小(1〜300名)、中(301〜1000名)、大(1001名=)の3つに区切ると、売上構成比はおおむね3等分される。つまり、規模の偏りなく、さまざまな企業が満遍なく導入している。
※デロイト トーマツ ミック経済研究所「HRTechクラウド市場の実態と展望 2020年度」

さらに、リモートワークが増える中で、労務管理のデジタル化や自動化のニーズは増している。コロナ禍以降は「ユーザー数が3割ほど増加しました」という。

「この領域は、まだまだ伸び代があると思います。日本には約160万の企業があり、SmartHRを利用する3万社は、全体の2%にも及びません。地方企業での利用も加速しており、私たちも福岡や名古屋に新拠点を構えました。全国をサポートする態勢が作れればと思っています」

サービスを普及させる中で、特に力を入れているのが「セキュリティ対策」だ。「SmartHRは、マイナンバーを含めた個人情報を管理しており、情報漏洩の防止が最重要項目です」という。ISMS認証やSOC2保証報告書の受領など、セキュリティに関する規格や認証も取得している。

「組織体制においても、プロダクト開発とセキュリティ管理の組織を完全に分離。プロダクト開発の外側からセキュリティチームが分析することで、厳正な目線を担保しています」

そのほか、サービスの「使いやすさ」「わかりやすさ」もこだわっているポイントだ。「業務ソフトは固いデザインになりがちですが、なるべく柔らかく、直感的に操作できる仕様にしています」。先述した創業者の宮田氏がウェブディレクター出身であることも大きいという。

なお、SmartHRはもともと社会保険の手続きを自動化の主な対象にしていた。しかし、ユーザーの声をもとに、雇用契約書や年末調整など、カバーする領域を徐々に増やしていった。

「お問い合わせフォームからいただいたお客さまの声は、プロダクト責任者が1件ずつ確認しています。その中で、必要度・緊急度の高いご意見から反映していますね。リリース以降、機能追加の根底にあるのはお客さまの声であり、その声を反映できるのがクラウドサービスの良さです」

さらに今後は、他の人事システムとの連携を進めていく。SmartHRが担う領域は人事の一分野であり、給与支払いや採用管理など、ほかにも人事業務で使われるシステムは多数ある。それらのシステムと横連携できるようアップデートを続けるという。「横連携は、HRテック業界全体のキーになります」と倉橋氏は見ている。

さまざまな業務の中で、もっともデジタル化から取り残された領域に手を伸ばす――。それこそが、倉橋氏の考えるSmartHRの役割だ。このサービスは、人事と従業員の間の“ムダ”を取り除き、企業の生産性を押し上げていく。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2021年4月現在の情報です

用語解説
設問1※必須
現在、株式等(投信、ETF、REIT等も含む)に投資経験はありますか?
設問2※必須
この記事は参考になりましたか?
記事のご感想などをお寄せください。
(200文字以内)

注目キーワード