著名人の投資哲学インタビュー

投資家の哲学

投資とはミッキーマウスに稼いでもらうこと?奥野一成さんの投資哲学

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国際金融の世界で、有力機関投資家の一角を成す「農林中央金庫」。あまり聞き馴染みがない人もいるかもしれないが、ウォール街では「NOCHU(農中)」と呼ばれ、巨額マネーを動かす日本最大規模の機関投資家として知られる。

その戦略部隊にあたるグループ会社「農林中金バリューインベストメンツ」で、投資の舵取りを任されているのが、最高投資責任者の奥野一成さん。ウォーレン・バフェットの投資哲学にも通じる「長期厳選投資」を実践する、日本では稀有なファンドマネージャーだ。奥野さんが手掛ける機関投資家向けファンドは、高い運用実績を上げ続け、運用総額は約4,000億円。その手腕はプロの世界でも一目置かれている。

著書『教養としての投資』『15歳から学ぶお金の教養 先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』などを通して、投資の啓蒙活動にも力を入れている奥野さんに“投資の哲学”を教えてもらった。

軍師のように戦略を立てる。長期融資で企業に伴走する面白さを知る

――奥野さんが、投資に興味を持つようになったきっかけを教えてください

奥野:投資に興味を持つ人、イコール株式を売買してお金を稼ぎたいと考えている人、というイメージかもしれませんが、私はそうではなく、大学時代に経営そのものに興味を持ちました。産業の変遷やどんな企業が強いのか、ということを知りたいと思ったんです。自分でビジネスをするよりも、世の中のビジネスを学びたいと考え、就活ではコンサルタント会社を受けました。

――なるほど。奥野さんが社会人になられたのは、1992年ですよね。その頃にコンサルタントを志望する学生は珍しかったのでは?

奥野:そうですね。いまでこそ憧れの職業なんて言われますけど、当時は全然浸透していませんでしたから。コンサルタントという仕事に対する認識も薄かったように思います。大学の先輩からは「自分でカネを出してビジネスをしていないコンサルタントの話をまともに聞く経営者なんていない」なんて言われてしまいました。でも、その時は「それもそうだな」と素直に受け止めて、志望を変え、企業に長期の設備投資資金を供給する、日本長期信用銀行(以下、長銀)に入社しました

――当時の長銀と言えば、超難関の就職先ですよね。長銀では、どのようなことを学ばれたのでしょうか?

奥野:成長する企業の見極め方を学びました。長期の融資額は大きいので、利益を確実に上げられる企業じゃないと返済が困難。そのため、長銀の銀行員には、企業の「稼ぐ力」を判断する能力が求められます。「今後、日本や世界の産業がどうなっていくのか」「強い企業とは何か? それをどこで判断するか」といったことを徹底的に叩き込まれました。

――つまり、ビジネスの原理を教わったと。それって、まさに奥野さんが学生時代にやりたかったことですよね。

奥野:はい。企業への提案が通って、実際に成長していくプロセスに携われるので、やりがいがありました。融資は、いわば軍師のように戦略を立てる仕事。それは投資にも通じるので、当時学んだことは、いまに活きています。

バフェット流で持続的な競争優位性を持つ企業に投資したい

――奥野さんは、「永久に株式を保有できる企業に投資する」ということを信条に、ファンドを運用されています。その視点は、やはり長期の融資に携わっていたからこそ生まれたものなのでしょうか。

奥野:そうですね。長銀時代には、目先の資金繰りのための短期資金ではなく、長期の投資で利益を上げることを目指して、設備投資などを目的とした長期資金を貸し出していました。その際には、融資先の企業と連携し、さまざまなアドバイスをしながら、お互いにとってハッピーなゴールを目指さなくてはいけません。この経験が、いまのスタイルにつながっています。あとは、ウォーレン・バフェットの影響もありますね。

――バフェットと言えば、世界が認める“投資の神様”ですね。

奥野:はい。修士号を取るためにロンドンに留学していた頃、バフェットの存在を知って、彼が書いたものを読み漁った時期がありました。彼の投資手法の特徴は、投資先企業に持続的な競争優位性があるかどうかを分析し、まるで買収するかのように徹底して企業価値評価を行うところにあります。そして、投資をしてから少なくとも5年間は保有することを想定して、株式を購入するんです。ちなみに私は、企業の強さに変化がない限り、永遠に保有するつもりで投資するべきだと考えています。

――「持続的な競争優位性」を見極める、という視点は長期の融資を行う際にも求められそうです。

奥野:その通りです。投資も持続的な企業価値増大が見込める企業を選別することが重要になるわけですから、考え方は長期の融資と同じです。しかし、当時の日本では短期売買を繰り返すスタイルばかりで、バフェットのように一度買ったら手放さないつもりで保有する投資家はほとんどいませんでした。その時に、自分が本当にやりたいことはバフェット流の投資だと思ったんです。

投資の世界に「楽して儲かる」はない。投資を学びビジネスセンスを身につける

――ただ、長期で保有できる企業を見極めるには、バフェット並み……とは言わないまでも、それなりに勉強が必要ですよね。

奥野:もちろんです。小手先のテクニックを使って楽して儲けるのではなく、長期投資をするにはビジネスや投資の本質を知る必要があります。その大前提として、会計的な数字を理解しなければいけません。なぜなら、どんなビジネスを分析するときにも、「いま儲かっているのか、儲かっていないのか」「過去は儲かっていたのか」「将来儲かるのか」を把握することが必要だからです。

――具体的に、何を学べばいいのでしょうか?

奥野:たとえば、会計の話であれば証券アナリストの一次試験に合格できるレベルの知識は欲しいですね。重要なのは、会計上の数字の流れと実際のビジネスを結び付けて考えること。会計を学びましょうと言うと、簿記を頑張ろうとする人がいますが、そうじゃないんですよね。

――学ぶべきポイントが分かると、頑張りどころがはっきりします。

奥野:あとは、疑問を持ち、仮説を立てて検証することも大事です。たとえば、「mixiってなんで流行らなくなっちゃったんだろう?」「iPhoneのカメラの性能がどんどん良くなってるけど、ニコンやキヤノンは大丈夫かな?」という疑問を持ったとします。そのうえで、「もしかしたら、SNSは参入障壁が低いからmixiは競争優位に立てなかったのかもしれない」「デジカメで勝負するだけではこれから先、持続的に利益を上げるのは難しいのかもしれない」というように、情報や数字を有機的に結び付けながら仮説を立て、ファクトをもとに検証していく、というかたちです。

――すごく分かりやすいです!

奥野:それから、経営者を知ることも大事です。具体的には、経営者がこれから何に投資しようとしているのかを知らなくてはいけません。たとえば、最近は決算期に投資家向けの社長メッセージがネット配信されるので、それを聞くといいでしょう。超くだらないことしか言わない経営者と、未来に目を向けている経営者は、誰の目にも明らかです。有能な経営者は、優れた投資家でもありますから。

――なるほど。

奥野:ただし、未来志向で期待できそうな経営者でも、注意すべき点はあります。それは、本当にそのビジョンを実現する手腕があるかどうか。たとえば、その人が過去に「こんな未来にします」と発言していたら、実際にそうなっているのか調べたほうがいいですね。

――自分の大切なお金を投じるわけですから、発言に責任を持っている経営者かどうかは、見過ごせないポイントですよね。

奥野:まぁ、実現できていない経営者も多いですがね(笑)。でも、もし長期的に利益を上げ続けられる企業を見極めて投資することができれば、長期にわたって「他力」で稼ぐことができるわけです。逆に、短期投資でパソコンに張りついて株の売買をしている人は、どんなに利益を上げていたとしても、「自力」で労働しているのと変わりません。

――そう言われてみると、労働している状態と変わらないですね。

奥野:投資で重要なのは、いかに他力で利益を得るか。大げさに言えば、ウォルト・ディズニーに投資してミッキーマウスに働いてもらい、日本電産に投資して永守重信会長を部下に持つ。それができるのが、投資だと思います。

――それは心強い(笑)。特に、投資にそこまで時間を割けない個人投資家の場合は、より「他力」というポイントを意識したほうがいいのかもしれません。

奥野:そう思います。あと、産業や企業を見極める力は、ビジネスセンスに直結しますから、本業を持つ個人投資家の場合、出世も転職もしやすいですよ。単にお金を稼ぐ手段として投資をとらえるのではなく、自分の人生に投資することだと考えてみてはどうでしょうか。そのためにもなるべく早いうちに、少額からでもはじめることが大切だと思います。

取材・文:末吉陽子(やじろべえ)
撮影:菅井淳子

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