マネ部的トレンドワード

うまくいかない組織の原因を“可視化”

「モチベーションクラウド」は、組織におけるレントゲンの役割

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「良いチーム」が強いのは、スポーツもビジネスも同じ。それはきっと多くの人が納得するだろう。とはいえ、良いチームを作るのは簡単ではない。チームの状態は目に見えるものではないため、今どんな状態でどこに問題を抱えているのか、どこを改善すれば良いのか、判断しにくいからだ。たとえば離職者が相次ぐ組織において、何が根幹の原因なのか、ハッキリと分からないケースもあるだろう。

そんなチーム状態を数値で可視化し、組織を改善するサービスがある。リンクアンドモチベーションの「モチベーションクラウド」だ。国内最大級のデータベースをもとに独自の手法で組織の状態を分析して、現状のスコアを算出。問題箇所には改善策を実行していく。

「モチベーションクラウドにより、メンバーが今の組織のどこに満足しているのか、あるいはどこに不満を感じているのか明らかになります。それをもとに改善コンサルティングを行います」

こう話すのは、リンクアンドモチベーション 代表取締役社長の坂下英樹氏。いったいどのような仕組みで組織の状態を診断するのか。近年注目されるキーワードに迫る連載企画「マネ部的トレンドワード」。HRテック編の今回は、モチベーションクラウドを取り上げる。

自社の組織スコアを業界や全体の平均と比べられる

モチベーションクラウドは、まず組織の状態を可視化するところから始まる。そのために行うのが、エンゲージメント・サーベイと呼ばれるアンケート調査だ。

「行動経済学・心理学に基づき、16領域64項目について、設問が作られています。設問の領域は、大きく『対会社』『対上司』『対職場』に分かれていますね。対会社なら、事業内容や組織風土、理念戦略などの項目について、従業員がどう感じているか調べていきます」

これらの設問を行い、各項目における従業員の「期待度(=従業員が会社に何をどの程度期待しているか)」と「満足度(=従業員が会社に何をどの程度満足しているか)」を明らかにする。その結果は「エンゲージメントスコア」として数値化。このスコアから、組織の状態が分かってくる。会社全体でのスコアのほか、部署ごと、年齢ごと、役職ごとなど、各カテゴリの分析も可能だ。

これにより「なぜか離職者が多い」「どうも従業員のモチベーションが低い」など、ぼんやり感じていた組織の課題の原因が見えてくる。坂下氏は「たとえるなら、今までなんとなく胃が痛かったのが、病院で検査して原因が胃潰瘍だとハッキリする。そんなイメージですね」と表現する。

「スコアの“偏差値”が分かるのも特徴です。モチベーションクラウドは7,350社、183万人以上のデータが蓄積されており、自社のスコアを全社平均や業界平均と比較できます」

ローンチ以来、さまざまな企業の組織状態をスコア化する中で、坂下氏は「業界や企業規模ごとにありがちな組織の課題も見えてきた」という。その一例として、スタートアップによく見られる課題を教えてくれた。

「スタートアップに多い組織の課題は、管理職に対する従業員の不満です。スタートアップは、規模が小さい頃は、創業者などのトップ層が従業員を牽引して成長するのが一般的。しかし、組織が成長すると、ある段階で従業員の中から管理職、マネジメント職を担う人材が必要になります。しかし、管理職を任される従業員は、今までトップ層に引っ張られる立場だったので、自分で意思決定することに慣れていない。実際にスタートアップのスコアを分析すると、『判断してくれない管理職』への不満が強い傾向があるのです」

レントゲンで見つかった原因を、人とツールで改善していく


組織の状態を可視化した上で、実際の組織改善も行う。リンクアンドモチベーションは、もともとコンサルティング会社からスタートしており、コンサルタントを多数抱える。そこで、モチベーションクラウドとコンサルタント人材が力を合わせて、改善を行っていくのだ。

「モチベーションクラウドでは、過去のデータを手掛かりに改善手法をレコメンド(提案)します。さらに、当社コンサルタントが具体的な打ち手を提案。身体の状態を診断するレントゲンがモチベーションクラウドであり、その後の治療は人とモチベーションクラウドの両方で行っていくのです」

組織改善のフェーズに入った後も、定期的にサーベイを行いスコアの変化を定点観測。数値を見ながら、改善状況を把握していくという。

こういった組織改善のツールは、売上アップやコスト削減に直結するツールと比べて「成果をイメージしにくい」という声もあるかもしれない。しかし坂下氏は、研究機関だけでなく、多くの企業で事業成果との相関関係は実証されてきており、今後、組織の状態を良くすること、ひいては働く従業員の環境を良くすることは、投資企業選定においてもより重要になると考えている。

「今までの企業は、投資家への情報として、財務状況や売上・利益といった数字を主に開示してきました。しかしESG投資が進む中で、特に海外では『人的資本』の情報開示を企業に義務づける流れが加速しています。人的資本とは、企業がどんなスキルや知識を持った人材を抱えて、その人材をどう生かすかという視点。その情報が、投資家にとって重要になっているのです」

今後は、事業や財務だけでなく、その企業で働く“人”の情報が価値を持つようになる。すると、人が働く組織のあり方にも視線は注がれる。もちろん、健全で働きやすい組織ほど評価されていく。

こういった流れは、日本でも加速していくという。何より「私たちが先頭に立って、組織を大切にする文化を築きたい」と力を込める。

すでにその行動も起こしている。同社が作った「エンゲージメント・レーティング」は、同社のサービスで算出したエンゲージメントスコアに応じて「AAA」〜「DD」まで11段階でランク付けする取り組み。このレーティングを「その企業の組織状態を示す指標にしたい」と言う。

レーティングが普及するほど、高いランクを取得していることが企業価値となるかもしれない。そうなれば、多くの企業が組織状態を良くし、ランクを上げようとする。そしてこのレーティングは、その企業に就職を希望する人にとっても、職場環境を知る手立てになる。

さらに同社は、オープンワーク株式会社をM&Aし、2020年1月より連結子会社化した。オープンワークは、日本最大級の従業員クチコミによる転職・就職者向け情報プラットフォーム「OpenWork」を運用している。

「就職先を選ぶ上で、給料や仕事内容だけでなく、どんな組織で働くかも重要な項目です。そういった就職先の選び方が定着すれば、企業は良い人材を獲得するために組織改善に力を入れます。OpenWorkは、まさに就職者が企業の組織の内情を知るサイト。このサービスが拡大するほど、企業は組織改善に注力するでしょう。同時に、問題を抱えた組織で働く人の苦しみも減らします」

今まで目に見えにくかった組織の状態を可視化し、改善につなげるモチベーションクラウド。このサービスを起点に、いずれは「組織状態の良い企業」が、投資家や就職者に選ばれる企業となっていくことを期待したい。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2021年4月現在の情報です

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