シリコン・サイクルはスーパー・サイクルに入った!?
提供元:日興アセットマネジメント
<ここがポイント!>
■ シリコン(半導体)サイクルはスーパー・サイクル化していた
■ コロナ禍でさらに強力に、世界経済の成長に今後も貢献
■ 米中テクノロジー競争も後押し要因に
シリコン(半導体)サイクルはスーパー・サイクル化していた
以前、「シリコン・サイクルはスーパー・サイクルへ」(2018/3/20)で、シリコン・サイクルはスーパー・サイクルになりそうだ、という考えを示した。ここでは、その後の状況を確認し、当時からみれば“スーパー・サイクル化した”と考えられる要因を報告する。
シリコンは、パソコンやサーバー、スマートフォン(以下、スマホ)の部品などに使われている。そして、シリコン・サイクルとは、シリコンの販売額がサイクルとなって上下動している様を表す言葉だ。
2017年ごろから半導体の売り上げが勢い良く伸びた時(上図の丸囲み)、シリコン・サイクルは過熱しているのか、本当に「スーパー・サイクル」に入るのか、などと議論されていた。この時、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)に関わる分野の成長が続いていたので、「スーパー・サイクル化」すると考えられていた。
統計的に、1998年末から2017年末までの半導体売上高を回帰分析すると、傾きは0.32であったが、2021年2月末までデータを3年2ヵ月間伸ばすと、傾きが0.36に上昇した。つまり、トレンド線の右肩上がりの度合いが高まった、ということになる。単なる上下動であればトレンド線は変わらないはずなので、この変化はサイクルを超える力、つまり成長するイノベーションが起きた、と評価して良いだろう。
コロナ禍でさらに強力に、世界経済の成長に今後も貢献
半導体売上の成長は、2016年ごろから変化し始めている。従来のパソコンやサーバー、携帯電話などに加え、スマホの機能強化、運転支援システム、生産現場のIoT、さらにそれらを支えるAI技術の開発設備、ビッグデータを保管するクラウドサーバー、そして仮想通貨のマイニング用サーバーなどが新たに台頭してきたとみられる。
さらに、コロナ禍でのロックダウンや外出自粛に伴う、ゲーム機器販売やネット通販利用の増加、動画のネット配信拡大によるサーバーの追加需要なども、スーパー・サイクルを強力にした。このところの供給不足がなければ、もっと押し上げただろう。
サイクルを分析する際、逆ウォッチ曲線、いわゆる「くるくるチャート」(上図)をよく使う。2017年末に半導体売上高のサイクルは、右上に大きくぶれていた。しかし、新しいトレンド線を使って描きなおすと、2021年2月時点の変化(縦軸)は依然高いものの、トレンドからの乖離(横軸)がそれほど大きく見えない。
つまり、2017年末に「行き過ぎ」に見えた(右上に大きく飛び出した)売上高は、結果として新しいサイクルであったわけで、「スーパー・サイクル」が現われていたのだ。現在もコロナ禍の影響などが一時的なサイクルの強さ(第一象限にあるということは、左下に回りやすい(反時計回りのサイクル))に影響を与えているが、非合理なバブルには見えない。
このように、2017年ごろに始まったとみられる半導体売上のスーパー・サイクルは、技術革新に伴って新商品やサービスが広がった結果、半導体の使用量が急増したことにより起きた、と判断している。
米中テクノロジー競争も後押し要因に
投資家が心配しているのは、バイデン政権と中国とのテクノロジー競争激化に安全保障面への配慮などが加わり、輸出入制限などのさまざまな制約が発生し、米中のテクノロジー産業、ひいては半導体需要が低迷する可能性である。確かに、安全保障については、通信分野において中国製品を西側諸国が使わないこと、一部の高性能な半導体は米国から中国への輸出を制限するなど、さまざまな制約が実際に起こり始めている。
米中関係については、貿易不均衡に着目して関税を引き上げたトランプ政権と人権問題などに着目するバイデン政権とで対応が異なる。トランプ政権で引き上げられた関税は、バイデン政権でも維持されると予想する。なぜなら、中国の貿易は不公正だ、といった考えが米国で幅広く受け入れられているからだ。しかし、バイデン政権の着目点からみると、関税を引き下げないまでも、引き上げる可能性は低いだろう。貿易不均衡よりも、人権問題を理由に中国政府高官への制裁を行う傾向にあるからだ。
バイデン政権は中国が最大の競争相手であるとして、米国への留学などを制限する可能性もあるが、貿易そのものを制約する可能性は低いだろう。それゆえ、通信分野や高機能部品などについての軍事・安全保障面からの制約はこれまで同様に続くが、バイデン政権で大幅に引き上げられるとはみていない。軍事・安全保障面については、国防総省など党派色が小さい部門で検討されているからだ。
中国は、米国から主要部品を入手する難しさが明らかになったことで、政府が補助金を投入して高性能な半導体設計と生産を始めている。この動きは、結果として中国の跨越(カエル跳び)成長の象徴の一つとなろう。米中対立は、人権問題など経済以外の分野でトランプ政権時代よりも厳しくなる恐れがあるが、中国の技術革新の始まりとなる可能性もある。安全保障分野での制約は、テクノロジー産業全体からみればさほど大きくないと、みている。
(日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山直樹)