2021年度の減額は「新ルール」
年金額はどうやって決まる?2021年から始まった年金改定の新ルール
提供元:Mocha(モカ)
2021年4月から受け取れる年金額は、前年度よりも引き下げられました。どうして年金額は減らされてしまったのでしょうか。そのしくみが気になりますよね。そこで今回は、受給できる年金額が減ってしまうしくみを解説し、今後も減額となる可能性についてお伝えします。
どうして年金額は減らされてしまうの?
2021年4月から受け取れる老齢年金は、前年度の年金額から0.1%引き下げられました。このように年金額は毎年見直され、場合によっては減額となることがあります。そもそも年金額はどうして減ってしまうのでしょうか?
実は、年金額は次の2つの理由で改定されることになっているのです。
●(1)物価と賃金の変動率
高齢者に給付される年金は、現役世代が納める国民年金保険料や厚生年金保険料によって賄われています。ただ、昨今の急速な少子高齢化によって、納付と給付のバランスが取れなくなってしまいました。そこで、現役世代の負担を減らすために、老齢年金の給付額が調整されるようになったのです。その際、年金額の改定に使われているのが、物価や賃金の変動率です。そのときの社会情勢や経済情勢によって物価や賃金が下落すれば、年金額が前年度よりも減ってしまうことがあります。
●(2)マクロ経済スライド
年金額の改定は物価や賃金の変動率のほかに、マクロ経済スライドによる調整も行われています。マクロ経済スライドとは、社会情勢に合わせて年金の給付水準を自動的に調整するしくみのことです。物価や賃金が上昇した場合、年金額の伸びからスライド調整率を差し引くことで年金額を改定します。また、物価や賃金の伸びが少なく、調整すると前年度の年金額を下回る場合は、スライド調整率による調整は一部のみに留めます。さらに、物価と賃金の伸びがマイナスの場合には、物価と賃金の下落分は年金額を引き下げますが、スライド調整率による引き下げは行いません。
このように、年金額は物価と賃金の変動率に加えて、マクロ経済スライドによる調整も行われています。そのため、年度によっては年金額が減ってしまうことがあるのです。
2021年から始まった年金改定の新ルール
老齢年金額の改定には次のような基本ルールがあります。
・新規裁定者(新たに年金を受給し始める人)は、賃金の変動率に合わせて改定する。
・既裁定者(すでに年金を受給している人)は、物価の変動率に合わせて改定する。
ただ、基本ルールのままでは長期的な年金財政が成り立たなくなることが想定されるため、例外ルールが設けられました。その例外ルールは次の通りです。
・物価も賃金も上昇し、賃金よりも物価の上げ幅が大きい場合は、既裁定者も賃金変動率により年金額を改定する。
・物価と賃金がともに下落し、物価よりも賃金の下げ幅が大きい場合は、新規裁定者も物価変動率により年金額を改定する。
・物価は上昇するが賃金は下落の場合は、新規裁定者・既裁定者ともに年金額を改定しない。
年金制度は上記のような例外ルールのもと運用されてきましたが、今後も年金制度を持続し、給付水準を確保していくためには、制度改革が必要となってきました。このような状況から、2016年に現役世代の負担能力に応じた給付とすることを盛り込んだ年金改革法が成立、年金額の改定ルールが見直されることになったのです。
そうして見直された年金改革ルールの1つが、2021年4月から適用されるようになった下記のルールです。
<現行ルール>
・物価は上昇するが賃金は下落の場合は、新規裁定者・既裁定者とも年金額を改定しない。
↓
<新ルール>
・物価は上昇するが賃金は下落の場合、新規裁定者・既裁定者とも賃金変動率により年金額を改定する。
つまり、賃金が下落したらその変動率の分、年金額が減らされるようになったのです。
冒頭で、2021年4月から受け取れる老齢年金が、前年度の年金額から0.1%引き下げられたことをお伝えしました。これは、2020年の消費者物価指数の総合指数は変わらなかったのに対し、賃金変動率は0.1%のマイナスだったためです。この場合、現行ルールでは年金額の改訂が行われなかったはずなのですが、2021年4月からの新ルールが適用されたため、年金額が0.1%の減額になった、というわけです。
今後の年金額はどうなる?
2016年に成立した年金改革法では、もう1つ見直された改定ルールがあります。それは、2018年4月から導入されたマクロ経済スライドのキャリーオーバー制度です。これは、前年度の年金額を下回らない措置を取りつつ、スライド調整率によって調整しきれなかった分を翌年度以降に繰り越して、賃金と物価が上昇した年度で調整するというものです。
年金額を決める際、物価や賃金の伸びが少なく、調整すると前年度の年金額を下回る場合は、スライド調整率による調整は部分的に行い、未調整分を翌年度以降にキャリーオーバーすることになります。
このことから想定されるのは、キャリーオーバーによる未調整分の積み上がりです。2020年からの新型コロナウイルス感染拡大の影響などで、賃金が下落し、物価も上昇しない状況が続いた場合、未調整分が積み重なっていくことがあるかもしれません。いつか物価や賃金が上昇に転じたとしても、これまで積み上がったキャリーオーバー分を差し引いて年金額が調整されるので、年金額は減額となる可能性が高いのです。
まとめ
老齢年金額は、物価や賃金の変動率のほか、マクロ経済スライドのスライド調整率によって毎年改定されます。社会情勢や経済状況が悪化すれば、年金額が減らされてしまうのです。今後はいつでも社会情勢などに関心を持ちつつ、どんな状況になったとしてもショートしない家計づくりを目指したいものです。
[執筆:ファイナンシャルプランナー 前佛朋子]
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