とある市場の天然ゴム先物

とある市場の天然ゴム先物 16

TSR先物・タイの承認工場追加の背景を語る!

TAGS.

大阪取引所(OSE)の天然ゴム先物には70年近い歴史を持つRSS3と、2018年に新たに取引を開始したTSR20があります。このTSR20先物につき、2021年5月27日に「承認工場の追加」を公表しました。そこで今回はこの承認工場追加の背景について簡単にご説明します。

TSR20先物で対象となる天然ゴム

TSRはTechnically Specified Rubberの略で、技術的規格に基づき格付けされたもので、その形状から「ブロックラバー」とも呼ばれています。

TSRの製造方法は、原料(カップランプやUSS)を機械で粉砕、細粒化し、水洗いしたのち、熱風により短時間で乾燥させ、プレス成型してポリエチレンシートで包装します。成型後、ベールごとにサンプルを抜き出し分析試験を行い、その測定結果から技術的規格に基づき格付けされます。

RSS3とTSR20

出所:日本取引所グループ

ところでRSS3先物と同じく、投資家がTSR20先物を買い建てて取引最終日までポジションを保有しますと、最終決済時に実際の天然ゴム(TSR20)を受け取ることとなります。

こうして受渡しされるTSRの要件は、OSEの業務規程で「当社が承認した工場で生産されたTSRのうち、タイ王国の法令に基づくTSR20番の品質規格に該当するもの(未通関のものに限る。)」と定められています。

つまり、先物で対象となるTSRは「タイ産(STR: Standard Thai Rubber)」かつ「OSEによって承認された工場で生産されたもの」ということになります。

さらにOSEの商品先物取引に係る受渡決済関係事務処理要領において詳細な品質規格や包装形態などが指定されており、OSEの承認工場一覧はこの事務処理要領の別紙16に掲載されています。2021年5月31日現在で23工場あり、今回追加となったのは以下の表で色が付いているBD6、BD7、BD8の3工場となります。

TSR20承認工場一覧(23工場、2021年5月31日現在)

出所:日本取引所グループ「商品先物取引に係る受渡決済関係事務処理要領」より筆者作成

なぜ工場を承認する必要がある?

ところで第11回にて、RSS3先物の受渡供用品は特定の輸出業者(シッパー及びパッキングハウス)の取り扱うもので、かつ取引所の受渡・品質委員会によって検品が行われたうえ、日本の倉庫によって受渡しされるとご紹介しました。

このような検品制度がある理由は、RSSが視覚によって等級分けされることで品質にバラツキが生じたり、受渡供用品の対象が通関後1年間以内のものとなることから、保管される倉庫内で品質が劣化したりする可能性があるためです(とはいえ、近年は受渡供用品の品質に問題が指摘されることはほとんどありません)。

一方、TSRは技術的に格付けされるものであり、ゴミ・灰分・窒素含有量・揮発性物質・窒素含有量、ウォーレス初期可塑度、可塑度残留率などの数値が検査され、これらすべてに合格したものに検査証明書が添付されることから、RSSに比べて品質のバラツキの可能性は低くなります。

またOSEのTSR20先物の受渡しはFOB(本船渡し)で、タイやマレーシアの輸出港で買い手の指定する船舶に貨物を積み込むことによって契約が完了するため、RSSの場合のように日本国内の倉庫保管期間における劣化の心配はありません(ただし生産からFOBでの受渡しまでの間の保管状況によって品質が劣化する可能性はあります)。

こうした製造工程や受渡方法の違いから、TSR20先物の受渡供用品にはRSS3のような検品制度がありません。そこで受渡供用品の「技術的な品質要件」を定め、品質に従ったTSRを製造・管理できる「工場を承認」し、事後の対応として「仕向地の港で陸揚げされた日から45日以内のクレーム制度」を用意する、といった制度の組み合わせによって受渡供用品の品質を担保しています。

なお制度設計にあたっては、TSRの受渡供用品はタイ・マレーシアのFOBであることから、日本で行っているのと同種の検品制度を海外でも実施できるのか…といった実務的なハードルもありました。

ちなみに他の取引所のTSR20先物も同様の承認工場の制度があり、2021年5月末現在、シンガポール取引所(SGX)の承認工場は141、うちインドネシア91工場、タイ30工場、マレーシア20工場、上海国際エネルギー取引所(INE)の承認工場は37、うちタイ25工場、中国7工場、インドネシア3工場、マレーシア2工場となっています。

承認工場の変遷と今回の工場追加の背景

ところで2018年にTSR20先物の取引を開始した当初、多くの受渡品を確保する観点から、タイの51工場を承認工場として指定していました。

ところが実際に取引が開始して受渡しが行われたところ、特にPre-Breakerと呼ばれる機械を使用して製造されたTSRが中国国内で一般的でないなか、このPre-Breaker使用のTSRが受渡供用品に含まれていたことから、これらを除外して欲しいという要望が市場参加者から上がりました。

また、SGXやINEといった他取引所のタイの承認工場と比べて数が多く、かつリストにも相違が多かったため、取引所間の裁定取引をやりにくいという意見もありました。

そうしたなか、2019年7月よりTSR20先物の取引高が目に見えて減少していきます。

そこで起死回生策として、2020年3月27日に受渡供用品の要件を「Pre-Breakerを使用して生産されたものを除く」と変更し、Pre-Breaker使用品のみを生産している工場をリストから除外したうえ、更に裁定取引の利便性拡大を狙って海外市場でTSRを取引する投資家にも広く認知されている工場に絞った結果、承認工場数は当初の51工場から21工場となりました。

ですがその後にコロナ危機が発生したことなどもあり、残念ながら市場流動性は回復せず、2020年以降は取引も発注もほとんどない状況になってしまいました。

まさに危急存亡の秋・・・とのことで、2021年3月よりTSR市場振興策(TSRインセンティブ・プログラム)を開始し、マーケットメイカーを呼び込むことで市場になんとか最低限の気配注文は出るようになっています。

ですがこのTSR先物市場の取引が活性化するには、マーケットメイカーや金融系プレイヤーの参入だけでは十分でなく、実需筋を含めた様々なプレイヤーが市場に参加し、グローバル・サプライチェーンの一部として機能する必要があります。

そうしたなか、タイの大手ゴム製造会社より新しい3工場の承認申請を受けることとなりました。

この3工場は海外取引所で承認されている工場という訳ではありませんが、取引制度要綱に定められた「Pre-Breaker使用品を受渡供用品として提供しないこと」を満たし、かつ国内外の実需家より「受渡提供品となることについて問題はない」とのフィードバックを得たことから、追加を決定することになりました。

今回の承認工場の追加により、売り手のゴム製造会社やその顧客といった買い手がTSR先物市場を活用するきっかけとなる可能性がありますので、小さな一歩ですが市場振興に向けた偉大な一歩になることを期待しているところです。

なお追加となった承認工場ですが、2021年7月限(取引最終日は2021年6月30日)に係る受渡決済分から適用されることになります。

※次回の更新は2021年6月22日(火)頃の予定です。

【参考資料】
日本取引所グループ「商品先物取引に係る受渡決済関係事務処理要領」
Shanghai International Energy Exchange “TSR product list”
Singapore Exchange “SICOM TSR20 Approved TSR Factory List”
TOCOM「ゴム市場・受渡供用品の要件及び承認工場の見直しに係る規程変更について」

(著者:大阪取引所 デリバティブ市場営業部 矢頭 憲介)
(東証マネ部!編集部)

注目キーワード