【日経記事でマネートレーニング16】相場ニュースを読む~国際商品、世界の景気・インフレの先行指標~
提供元:日本経済新聞社
このコーナーでは日経電子版の記事を読むことで資産形成力のアップを目指します。実際のニュースやコラムを引用し、初心者には難しく思えるような用語をかみくだき、疑問点を解消していきます。金融・経済ニュースをどれだけ読みこなせるかは投資のリテラシーそのものです。日々の情報にリアルタイムで動ける実践力を養いましょう。
16回目は国際商品を学びましょう。前回取り上げた金も国際商品ですが、本来のイメージは原油や非鉄、穀物といった資源やエネルギーを指します。一般の個人にはなじみが薄いですが、世界の景気やインフレの指標にもなるので投資のうえでもビジネスのうえでも見落とせないテーマです。
主に一次産品対象、エネルギーや資源を標準規格で上場
国際商品はコモディティーとも呼び、世界全体の需給で価格が決まるということを前回学びました。もう少し踏み込んでいうとそうした商品の標準規格を決めて、世界のみんなで取引できるようにしましょう、という趣旨です。
たとえば原油は中東から北海など世界中の油田で採掘されるからコストや質はバラバラなわけです。銅といっても純度50%程度なのか、純度99%の精製品なのかまちまちですからひとくくりに1グラム〇ドル、1トン〇円というふうに取引はできません。そこで商品の規格を共通化して上場し、世界中の参加者が取引できるようにしました。
サンプル記事をみてみましょう。
国際商品にはいくつかのカテゴリーがあり、日経電子版や日本経済新聞でよく登場するのはまず原油、天然ガスなどのエネルギー関連です。金属は主に3種類があり、銅や亜鉛、アルミニウムなどの非鉄金属(メタル)、金やプラチナなどの貴金属(プレシャスメタル)、それからニッケル、マンガンなど希少金属(レアメタル)があります。大豆やトウモロコシなどの穀物も代表的な国際商品で、大半の価格動向は日経紙面に掲載しています。
紛争・天候などリスク要因はグローバル、米インフレなどの先行指標に
国際商品の取引参加者は誰でしょうか?アルミを使いたいのは缶メーカーだろうし、銅を買うのは金属加工や鋳型業者でしょう。大豆や小麦を買い付けるのは食品会社や日本の商社だと思えます。
価格が下がると買い手は利益が増える機会になりますし、売り手や生産国など川上にいるプレーヤーは価格が上がったほうがよいかもしれません。こうした参加者は「実需筋」「需要家」と呼ばれ、たとえば「国際商品価格の過去1カ月の加重平均+〇ドル」というふうに実際の取引の値決めに使うケースもあります。紛争による産地の操業停止、物流の遮断、天候不順による生産量の変動などグローバルな事象が発生した場合は先物取引を活用して事業で損失が出ないようにしています。
川上の価格変動はやがて川下の製品価格や消費者の小売価格に波及します。物価の先行指標になるわけです。米国のインフレ動向にも直結するので物価変動はそのまま各国の金融政策や景気対策を左右します。国際商品はほぼすべて企業(国家)間取引ですから企業業績にも直結します。
というわけで新たなプレーヤーが登場します。投資家ですね。物価高→インフレ→金融引き締め→株安。いろいろなシナリオが国際商品を出発点として描けるわけです。
①非鉄金属=銅や亜鉛、アルミなど鉄以外の金属。埋蔵量が少なかったり抽出が難しかったりするニッケルやマンガンなどは希少金属(レアメタル)とよんで区別している
②国際商品=原油、金属類や穀物など国際市場で価格が決まる一次産品。一次産品を集めて価格動向を指数化した日経国際商品指数などがある
③ニューヨーク市場=世界最大の商品・エネルギー取引所であるニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX、通称ナイメックス)。穀物ではシカゴ市場が有名
④WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物=ライト(軽質)、スイート(低硫黄)という品質を満たす米国産油種の先物
⑤ロンドン金属取引所(LME)=London Metal Exchangeの略でシティー(ロンドンの金融街)を代表する取引所。銅、アルミ、亜鉛、鉛、すず、ニッケルなどを上場している
⑥アルミニウム=一般には地金(じがね)という高純度の塊を取引対象にしている。日本を含む世界各地に倉庫があり、在庫量なども公表されている
⑦実需=原材料、資源として利活用、取引対象にしている参加者。値動きだけに着目した投資家と区別している
では、いつものようにかみくだいて直した記事をみましょう。
「独立国家共同体(CIS、いまのロシアなど)、チタンなどレアメタルを大量売却か、軍事備蓄放出観測」――1991年、ソ連邦崩壊で体制混乱が長引く中、資金難に直面していたロシアなどが軍事物資の換金に動き、レアメタル価格が急落しているという筆者のスクープ?記事です。国際商品は経済的に貧しい国々に産地が偏っていることもあり、政治的な要因で市況が荒れることが少なくありません。また、銀を買い占めて価格を釣り上げたメタルトレーダーや、不正取引で巨額損失を出した日本の総合商社もいました。
澄み切った株式市場と違ってちょっと「濁った」部分が見え隠れするのもある意味退屈しないジャンルではないかと感じています。
(日本経済新聞社 コンテンツプロデューサー 田中彰一)