ポイントは流動性と換金性

株式投資とクラウドファンディング、金銭リターンにおける大きな違いとは?

TAGS.


ここ数年で、すっかりメジャーになったクラウドファンディング。プロジェクトに寄付をする「寄付型」や、まだ世に出ていない新商品に先行投資し、リターンとしてその商品を得る「購入型」、さらには金銭リターンをともなうものなど、いくつかの類型・タイプが存在する。

その中には「株式投資型」といい、企業の未公開株に投資するものも出ている。名前だけ見ると、証券取引所での株式投資、いわゆる一般的な株式投資と似たイメージを抱きがちだが、2つには大きく異なる点がある。特に違うのが、リターンとなる利益の考え方だ。

一体どのような違いがあるのだろうか。クラウドファンディングについて研究する横浜国立大学大学院国際社会科学研究院の井上徹教授に話を聞いた。

すべてのクラウドファンディングに共通するのは「支援」

クラウドファンディングには、大きく5つの類型がある。井上氏は、まず5類型の共通点として「プロジェクトや企業への共感にもとづく出資であり、すべての類型に“支援”の意味が含まれている」という。そしてこの“支援”という言葉が、のちに触れる「一般的な株式投資との違い」において重要なポイントになる。

その話に触れる前に、まずはクラウドファンディングの5類型を見ていきたい。多くの人に馴染みがあるのは「寄付型」と「購入型」だろう。「寄付型」は、さまざまなプロジェクトをウェブサイトなどに掲載し、寄付を募る形。対する「購入型」は、新しい商品などを開発する際に資金を募り、出資者はリターンとしてその商品を手に入れるケースが一般的だ。

いずれも金銭リターンが発生しないタイプだが、残り3類型は金銭リターンが発生する。その3類型とは「貸付型」「事業投資型」「株式投資型」だ。

「『貸付型』はソーシャルレンディングともいわれ、個人が企業等に融資して利子を得るものです。クラウドファンディングのサイトには企業情報が載っており、自分で融資先を選ぶことが可能。ただし、もし貸付先に何かあった場合、現行の法律ではプラットフォーマー(クラウドファンディングの運営元)に責任は発生しません。お金を出す側が目利きする必要があります」

「事業投資型」は、事業に対して出資するタイプ。一会社の事業の場合もあれば、複数の会社が行う事業のケースもあるという。現状は数が少ないが、こういったクラウドファンディングも存在するという。

そして最後が「株式投資型」となる。これは、インターネットのプラットフォームを介して企業の未公開株に投資するもの。リターンを得られるのは「その企業が上場・IPO(新規株式公開)を行う、あるいは第三者に事業売却するなど、イグジットに至った場合。もしくは、出資した企業が自社株を買い戻したときです」と井上氏。自分の投資した未公開株に買い手がつく状態になると、初めてリターンを得られる仕組みだ。

こういった株式投資型クラウドファンディングは、拡大傾向にある。日本証券業協会のデータをもとに、年ごとの株式と新株予約権の発行価額を合計すると、2017年は約5.1億円に対し、2020年は約21.8億円、2021年は4月までで12.5億円となっている。

金銭リターンが発生する確率は低く、期間も数年に及ぶ

では、「一般的な株式投資」と「株式投資型クラウドファンディング」では、どんな違いがあるのだろうか。前者はすでに上場し、証券取引所で売買できる企業の株式だが、後者はあくまで未公開株であり、誕生間もないベンチャー企業やアーリーステージ(企業成長における初期段階)の企業が多くなる。いわば、ベンチャーキャピタル(VC)が行う投資を個人で小規模に実践するイメージだ。

「株式投資型クラウドファンディングで資金を募る企業は、『VCからの出資を得られない企業ではないか』という疑念も一部にはあります。しかし、VCが出資する企業は、ビジネスの都合上、一定の規模が必要になるなど、企業のポテンシャル以外の面で判断するケースもあるでしょう。たとえその条件から漏れたとしても、優良な企業はあるはず。そういった企業がクラウドファンディングで資金調達できれば、社会的なメリットになります」

例として、地域に根ざしたベンチャー企業は、規模が小さいケースが多く、VCの投資対象になりにくい。しかし地域にとっては重要な存在だ。そういった企業を個人が支援する仕組みとして、オンラインで機動的に資金を流すクラウドファンディングは「意義がある」という。

なお、投資家の投資額(購入額)は、1社あたり年間50万円までとなっており、また、企業側の資金調達額も他の調達手段と合算して1億円未満と上限が設定されている。この辺りも「一般の株式投資と異なる点」だという。

一方、金銭リターンについても、一般の株式投資と大きな違いがあるという。

「一般の株式投資と違い、株式を売りたいときに売ることができません。現在の日本では、出資先企業がイグジットや自社株買い戻しをしない限り、リターンは発生しないのです。つまり、流動性や換金性は著しく低いといえます。これは一般の株式投資との明確な違いです」

報道によれば、株式投資型クラウドファンディングで取得した株式について、投資家間で売買できるセカンダリーマーケットをプラットフォーマーが作ろうとする動きもある。井上氏は「実現した場合は流動性や換金性が上がるかもしれません」と付け加えるが、今はまだそういったサービスはできていない。

となると、現時点ではイグジットや自社株買い戻しがリターン発生のタイミングとなるが、井上氏は「シードやアーリーのベンチャー企業が成長してイグジットできる可能性はVCの投資でもかなり低く、たとえできても数年はかかります」という。

たとえば、株式投資型クラウドファンディングを展開する国内サービスを見ると、投資資金の回収期間は「5〜10年が目安」と記されている。また、これまでに160件以上の企業がファンド成約したが、イグジットに至ったのは5件未満である。この数字自体は、ベンチャー企業のイグジットする確率として妥当かもしれない。また、ローンチからの期間も短く、まだイグジットに至るほどの時間が経過していない。

大切なのは、こういった実情を理解し、仮にイグジットや自社株買い戻しに至らない場合は「投資資金を回収できないと認識しておく必要がある」という。

そしてこの点が、井上氏が冒頭で述べた「すべてのクラウドファンディングには“支援”の意味が含まれている」という言葉に関係してくる。

「出資者が、流動性のない点や回収できる可能性が低く時間もかかる点を理解していれば問題ありません。しかし、現状はその理解が少なく、利益目的の投資が多い印象です。他のクラウドファンディングと同様、株式投資型も”支援“の意味合いが強く、利益目的よりは個人が行うプチ・エンジェル投資に近い。それをきちんと理解して行うことが大切ではないでしょうか」

企業に投資するという点では、一般の株式投資と株式投資型クラウドファンディングは共通している。しかし、流動性や換金性、リターンの生まれ方が大きく異なる点は、出資する際に認識すべきだろう。また、クラウドファンディングに限らず、投資全般に言えることだが、「どの類型(タイプ)なのか」「何に投資するのか」を、注意深く確認することが大切だ。

(取材・文/有井太郎)

※記事の内容は2021年6月現在の情報です

"※必須" indicates required fields

設問1※必須
現在、株式等(投信、ETF、REIT等も含む)に投資経験はありますか?
設問2※必須
この記事は参考になりましたか?
記事のご感想や今後読みたい記事のご要望などをお寄せください。
(200文字以内)

This site is protected by reCAPTCHA and the GooglePrivacy Policy and Terms of Service apply.

注目キーワード