データの掛け合わせで活躍人材を明らかに
マーケティングの思想で科学的人事を実現する「タレントパレット」
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人事は、担当者の「勘と経験」が作用しやすい領域だと言われる。一方、マーケティングの世界を見ると、顧客の過去の購入履歴や商品にたどり着いた経路など、各顧客のデータを時系列で分析し、より良い一手を考えている。
ともに“人”が主役でありながら、人事とマーケティングでは管理の仕方に大きな差がある。そのギャップに目をつけ、マーケティングの思想を人事に取り入れて「科学的な人事戦略」を実現するツールがある。「タレントパレット」である。
「これまでの人事ツールは、採用、配置、育成、評価など、分野ごとバラバラに最適化されてきました。それが人事の『勘と経験』への依存を強めていたと考えられます。しかし本来、採用や配置、評価などは、1人の社員の中で時系列上に連なっているもの。そこで、これらのデータをすべてつなぎ、人事の意思決定を高度化するのがタレントパレットです」
そう話すのは、このツールを提供するプラスアルファ・コンサルティング取締役副社長の鈴村賢治氏。マーケティングの思想を人事に取り入れることで、なぜ意思決定が高度化されるのだろうか。
最近よく聞くキーワードについて、関連企業に取材する「マネ部的トレンドワード」。HRテックを特集する本連載では、今回、タレントパレットを取り上げる。
マーケティングのCRM(顧客管理ソフト)を人事に活用
プラスアルファ・コンサルティングは、もともとマーケティング領域の事業を展開してきた。その中で、マーケティングのノウハウを人事に活用すれば、データに基づいた科学的な人事戦略を実現できると考えたという。
「マーケティングでは、顧客の過去の購買行動や意識調査の回答など、あらゆるデータをひとつの場所に集約し、顧客を分析しながら次の打ち手を考えます。しかし、人事を見ると、採用や育成、社員満足度などのデータがバラバラに管理されているケースが多い。そこでタレントパレットでは、マーケティングと同様に、社員のあらゆる情報をこのツールに集約します」
タレントパレットでは、各社員の顔写真とともに、一人一人の情報がデータベース化されている。社員の経歴やこれまでの業績、人事評価、適性検査の結果、勤怠データ、保有スキルなど、あらゆる人事データが蓄積されている。
「集約されたそれぞれのデータを掛け合わせると、より細かな社員分析が行えます。たとえば、各社員の『残業時間』と『評価』を掛け合わせると、残業が少なく評価が高い、生産性の高い社員がわかります」
こういったデータの掛け合わせは、企業の採用活動にも役立つという。同社では無料の適性検査を用意しており、その結果もタレントパレットに蓄積できる。そこで、適性検査の結果と社員の評価を比較すると、活躍社員の傾向が見えてくる。これを採用活動に反映し、適性検査で「将来活躍しそうな人材(=現在の活躍社員に回答傾向が近い人材)」を見出すこともできる。
そのほか、活躍者のデータを分析し、「過去に受けていた研修やキャリアの共通点などがあれば、今後の社員育成に活かせます」という。
「社員の配置においても、各部署で活躍している社員の適性検査の結果や保有スキル、資格などを見ると『この部署に合う人物像』を分析できます。すると、人材配置の根拠が明確に見えてきます。今まで、社員の配置理由を説明するのは苦労する点も多かったはず。その根拠を、データで論理的に伝えられるのもメリットです」
一方、社員にとってもプラスの要素があるという。たとえば自分が目指すポストがあったとき、そのポストについている社員の経歴やスキル、評価などがつぶさにわかるので、今の自分に何が足りないのか、必要なスキルやキャリアが明確になるという。
事業転換には欠かせない「人材ポートフォリオ」の把握
コロナ以降、事業転換に舵を切る企業も多い。特に目立つのはDXの推進。既存事業のデジタル化を進めるケースは増えている。ただ、ここで問題になるのがデジタル人材の確保。仮に事業をデジタル化しようにも、ITスキルを持った社員がいなければ事業転換は進まない。
かといって、闇雲にデジタル人材を採用するのも得策とはいえない。本当に必要な人材を必要な人数確保できるとも限らないからだ。そこで、タレントパレットが存在感を発揮するという。
「仮に事業のデジタル化を進める際、現段階で自社にどれだけのITスキルを持った人材が何人いるのか、その社員が今どの部署に配置されているのか。こういった人材ポートフォリオを網羅的に把握できます。必要な人材と現状のギャップを把握できれば、より精緻な人材募集が行えるでしょう」
加えて、タレントパレットの機能で面白いのが、部署異動のシミュレーションだ。
「タレントパレット上で、メンバーのアイコンを異動させたい部署にドラッグ&ドロップします。すると、これまでの評価や個人データを参考に、異動後の各部署の売上や人件費の変化を算出します」
大きな事業転換を行う上では、部門をまたいだダイナミックな異動も必要になる。「部門内の異動であれば、部門長がメンバーを細かく把握しているので問題ありません。しかし、部門をまたぐ場合は、こういったツールによる社員情報の共有が必要になります」。
最後に、タレントパレットでは社員満足度の分析にも力を入れている。多くの企業では、定期的に社員調査のアンケートを行うが、その調査で埋もれている財産が、アンケートの自由回答だという。自由回答は一人一人の本音が細かく書かれているものの、社員数が多ければ多いほど、それらをひとつひとつ分析するのは労力がかかり、おざなりになる。
「私たちはマーケティングの領域で、テキストマイニング技術を培ってきました。これを人事にも活かし、アンケートの自由回答を分析しています。例えば、アンケートの回答をテキストマイニングすることで『新規事業への挑戦』を希望する社員が多いなど、全体の回答傾向がわかるだけでなく、実際にその内容を記述した社員を個別にリストアップすることも可能です」
組織全体の人事傾向から一人一人の分析まで、「鳥の目と虫の目をあわせ持つことが人事で重要」と鈴村氏。テキストマイニングは、まさに虫の目を補完する機能といえるだろう。
これまでの人事において「腑に落ちない結果」に直面した人は少なくないはずだ。なぜ自分がこの部署に異動するのか、なぜ自分は昇進できないのか。そういったケースを減らし、明確なデータで人事を行う。それこそが、タレントパレットの目指す「科学的な人事戦略」といえる。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2021年6月現在の情報です