カードと投資を併せて「顧客のファン化」を実現
JCB×マネックス証券のアプリは、普段の買い物と株式投資をつなぐ架け橋となる
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近年、企業のファンを育成する「ファンマーケティング」の重要性が叫ばれている。たとえば最近は、SNSなどを活用して、たとえ少数でも企業に愛着を持つ人にピンポイントでメッセージを送る取り組みが増えている。いわば100人の消費者より、20人の熱烈なファンを作り出す、「顧客のファン化」を目指すのだ。
そんな中、クレジットカードと投資の機能を合わせることで、顧客のファン化を生む取り組みが始まっている。ジェーシービー(以下、JCB)とマネックス証券が共同開発するアプリだ。
クレジットカードと投資の組み合わせから、どうやってファンマーケティングを行うのだろうか。JCB イノベーション統括部の竹内洋介氏と、マネックス証券 執行役員 プロダクト部長の山田真一郎氏に聞いた。
好きな店でカードを使うと、おまけ的にその店の株が付与される
両社が開発する今回のアプリは、自分の好きな店でJCBのクレジットカードを使って買い物をすると、おまけ的にその店の株(仮想株式ポイント)が付与されるものだ。竹内氏は「普段の買い物の中で、いつの間にか好きな会社の株をもらえるイメージ」という。
具体的にどんな仕組みだろうか。まず、ユーザーはアプリをダウンロードし、JCB加盟店の中から好きな加盟店やよく使う加盟店を登録。その加盟店でカードを利用すると、加盟店の端株(一株に満たない株のこと)相当分が仮想ポイントとしてアプリ内に貯まっていく。そして、仮想ポイントが1株相当以上になると、証券口座で実際の株と交換できる。
このアプリが生み出す価値は2つある。1つは、普段の買い物から投資を体験できる「株式投資体験」。そしてもう1つが、冒頭で述べた「顧客のファン化」。ファンマーケティングにつながるメリットだ。
まずは株式投資体験について、竹内氏はこう説明する。
「投資未経験者の中には『お金を失うリスクが怖い』『難しそう』といった理由から、1歩目を踏み出せない人がたくさんいます。一方で、最近は少額で株を買えるサービスも増えていますよね。100株に満たない単元未満株を買えるスマホ証券のサービスが代表例です。その中で、普段からよく使う企業の仮想的な株式ポイントを積み立てられるサービスがあれば、投資の1歩目のハードルを越えられるのではと思い、マネックス証券にお話を持ちかけました」
アプリでは、買い物によって企業のポイントが1株相当以上たまると、マネックス証券で口座を開設し、その後ポイントを交換して正式な株を取得できる流れだ。この仕組みは、すでに両社共同で特許出願済みだという。
マネックス証券の山田氏は、今回のスキームにより、株式投資への入り口が大きく広がることを期待する。キーになるのは、日本国内で1億を超えるJCBカードの会員規模だ。
「いうまでもなく、私たち証券会社とJCBカードのお客さまの数を比べると、その規模はまったく異なります。たくさんのカード会員の方が投資に接する機会を持つのは大きな価値でしょう。何より、投資は早くからコツコツ行うのが重要ですが、若いうちはまとまったお金がないなどの理由で挑戦しにくい。その中で、普段使いのJCBカードで買い物をしていたら自然と投資が始まっている、しかも、おまけでもらうので負担が少ないというのは“1歩目”として良いと思います」
マネックス証券でも、投資の1歩目のハードルを下げる取り組みをさまざま行ってきた。その1つが「ワン株」という、1株から取引ができるサービス。今回のアプリでもワン株の仕組みを活用するが、数多くのJCB会員が簡単に株に触れる機会を作れれば、投資の裾野は大きく広がるかもしれない。
買い物と投資をつなげることで、その企業への愛着や応援が生まれる
もう1つ、このアプリで重要な価値となるのが「顧客のファン化」だ。JCBの竹内氏は「お気に入りの加盟店をアプリに登録したり、そのお店の株をもらったりする中で、加盟店への愛着や応援の気持ちを醸成したい」という。そうして、ユーザーはお店を継続利用する“ファン”になっていく。カード会員と加盟店、両者が「win-winになるスキーム」を目指すという。
「アメリカでは似た形のサービスがあり、この仕組みが日本でも通用するのか、1つの検証でもありますね。アメリカのある論文では、企業の株を持った人は、その企業に愛着が生まれ、商品をクチコミで評価したり、身近な人に勧めたりという行動変化が起きるといいます。こちらの検証も行っていきたいですね」(竹内氏)
このアプリを表現するなら「ファイナンスとマーケティングの融合」だと竹内氏。買い物と株式投資をつなげることで、好きな商品や店と、その大もとにある企業がリンクする。消費者が、商品・店の先にある企業を知るきっかけとして、今回のアプリがあるのかもしれない
山田氏も、証券会社の立場から見て「個人株主と接点を持ち、ファンを形成したいという企業のニーズは強い」という。
「企業の中には、50万人を超える株主を抱えるところもあります。その株主と企業がどんな関係を築くかは重要となっており、こういったアプリでコミュニケーションを取る意義は大きいと思います」
今後は、2021年夏にテスト版アプリをリリースし、JCBとマネックス証券の社員に提供。仕様を改善して、本リリースの商用化開発に着手する方向で準備を進めている。さらにその後は、マーケティング面で機能を発展させる可能性もあるようだ。
「たとえば、このアプリから加盟店に送客を促すような仕組みを作ったり、アプリ会員のデータをもとに、加盟店をお気に入り登録した“ファン顧客”のデータ分析をしたり、アプリを起点にカード会員と加盟店が結びつくきっかけになればいいですね」(竹内氏)
一方、山田氏は株式投資体験の側面からこんなアプリの発展を考える。
「投資を続ける上で重要なのは、知識をつけていくことです。今回のアプリでおまけ的に株式に交換できるポイントを手に入れたならば、それをきっかけに、日々なぜこの株価が動いたのか、あるいはどんな要素が株価に影響すると考えられるのか、株価の値動きの理由や関連するニュースを載せるなど、投資の知識を養うコンテンツを入れたいですね」
マネックス証券は、早くから投資教育にも力を入れてきた。このアプリでも、投資の1歩目を体験するだけでなく、同時に知識を得られる場にしていきたいと考えている。
カード会社と証券会社のタッグで生まれた今回のスキーム。決済や消費の知見を持つJCBと、投資の知見を持つマネックス証券が力を合わせることは、普段の買い物と株式投資をつなぐ“大きな架け橋”となるかもしれない。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2021年6月現在の情報です