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人材育成の「アルー」に聞く

企業の新人研修、オンライン化によるメリット・デメリットとは

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4月から入社した新卒社員が最初に行う「新入社員研修」。ただ、昨年はコロナ禍の真っ只中となり、対面での研修が満足に行えない状況となった。そこで台頭したのが、オンラインによる新入社員研修だった。

そして今年、まだコロナの影響が消えない中、引き続きオンラインでの新入社員研修を行う企業は多いようだ。では、オンラインに変わったことで、どんなメリットや課題が生まれているのだろうか。

このテーマをもとに話を伺ったのは、人材育成・社員研修のサービスを展開するアルーの中村俊介氏(同社コーポレート部 エグゼクティブコンサルタント)。アルーではいち早くオンライン研修に対応しており、そのメリットや課題も見えてきたという。はたして今後、新人研修のあり方はどう変わるのか。中村氏に聞いた。

新人研修の7割はオンライン。想像以上にマイナス影響なし

「私たちが受け持つ新入社員研修のうち、約7割はオンラインで行われている現状。新入社員以外も含めた企業の研修全体で見ると、8〜9割はオンラインで実施されていますね」

社員研修のオンライン比率について、こう説明した中村氏。コロナ前は、オンライン研修は「ほぼゼロに近かった」とのことだが、この1年余りで様相は一変した。といっても、新入社員研修のおもな内容はオンラインでもそう変わらない。社会人としてのマインドセットや仕事の進め方、ホウレンソウの大切さや最低限のマナーなど。基本的には、これらをZoomなどで行うイメージだ。

とはいえ、オンライン化によって新入社員の士気が下がらないか、精神的なフォローを十分行えるかといった不安は強かったという。しかし、2020年の結果を分析すると、オンライン化のマイナス影響は予想以上に少なかったようだ。

アルーでは、新入社員の能力的成長を10段階で評価する指標を設定しているが、オンライン化前後の2019年と2020年を比べると、最終的な着地点はほとんど差がなかった。また、同社では研修を受けた新入社員について、フォローが必要、またはフォローを検討する社員の割合を毎月出しているが、2019年に比べて2020年はすべての月でその割合が低下していた。

「それまで『研修はオフラインでやるもの』という固定観念があったと思いますが、結果を見ると、必ずしもオフラインに固執する必要はないとわかりました。特に2020年は、初めてのオンライン研修でトレーナーが不安な中、試行錯誤を重ねていった。新入社員研修は、得てして通過儀礼として、今まで続いてきた定型的なスタイルで行うことも多かったのですが、オンラインになったことでもう一度研修のあり方を見つめ直したといえます。その結果、2020年に一定の成果が生まれ、2021年も引き続き多くの企業がオンライン研修を取り入れていると思います」

オンライン化で「現場」と「座学」が混ざり合った研修も


こういった中で、オンライン研修のメリット・デメリットもわかってきたという。

「メリットのひとつは、現場と座学が融合した研修が容易になったことです。たとえば、現場の先輩社員とオンラインで1時間だけつないで話を聞く、あるいは、午前中に新人は先輩社員に現場同行して、午後はその振り返りを新人全員でオンラインで行うこともできるでしょう。移動や場所の制約が減り、現場と行き来した研修プログラムが立てやすくなります」

学びや研修の世界で最近注目されているのが、オフラインとオンラインを混ぜた学習方法「ブレンデッドラーニング」だ。社員研修の世界においては、オフラインとオンラインだけでなく、「現場」と「座学」を混ぜ合わせたブレンデッドラーニングが進むと中村氏は考える。

「特に新入社員研修は、仕事の良い面、明るい部分だけでなく、現場の泥臭さや苦しさも見せながら、それに対する考え方や心構えをトレーナーが伝えることも必要です。現場と研修をうまく混ぜれば、そういったことができる可能性があります」

一方、オンライン研修のデメリットも明確になっているという。ひとつは、研修に“緊張感”を出しにくいこと。まだ社会に出たばかりの新入社員に対しては、緊張感の演出が重要で、それがないとどうしても気が緩む、あるいは適当にこなそうとする新入社員が出てくる。オフラインであれば、トレーナーが口調やトーン、振る舞いをうまく使いながら、場の空気を変えて緊張感を演出できた。

ただ、この緊張感をパソコンの画面上で演出するのは難しい。そこで、オンライン研修では場の空気で緊張感を出すのではなく「課題そのものの難易度や基準を厳しくする形を取っています」と中村氏はいう。

もうひとつ、オンラインの課題として挙げられるのが「同期の絆」を醸成することだという。画面上の研修では、どうしても社員同士の仲が深まりにくい。実際にこういった悩みを話す企業もあるようだ。

「ひとつの対策として提案しているのは、あえて答えのない課題をテーマに据えて、グループで議論するプログラムです。たとえば『自社のこれからの存在意義』という大きなお題を考えるなど。簡単に答えが出ないからこそ、お互いが深く踏み込んで話し合わざるを得ない。こうして、オンラインでも相互理解する形を狙っています」

なかには、新人同士の“絆”は必要ないと考える企業もあるかもしれない。近年は、新卒一括採用の是非に対する議論も増えている。また、個人のスキルに応じて採用するジョブ型雇用が広まれば、終身雇用を前提とした新卒一括採用が減る可能性は高い。すると、なおさら新人同士の絆の醸成は必要ないと見る向きも出るだろう。企業の考え方により、研修も多様化していくはずだ。

大切なのは、研修がオンライン化したことで、研修の意義や目的を再考する機会が生まれたこと。そしてそれは「企業が新入社員採用のあり方自体を問い直すきっかけにもなるでしょう」と中村氏はいう。

さまざまなものがオンラインに置き換えられたコロナ禍。新入社員研修も形が大きく変わる中で、すべての判断基準になるのは、各企業が「何のために研修を行うのか」「どんな社員を育てたいか」という根本の目的・意義だ。研修のオンライン化は、そんな問いを企業に投げかけるだろう。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2021年7月現在の情報です

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