マネ部的トレンドワード

自動車業界に起きる変化は?

中国・欧州で普及する電気自動車(EV)。日本メーカーはどう戦うか

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自動車業界に、大きな変革のときが迫っている。電動車への転換だ。日本政府は、2035年までにガソリン車の新車販売禁止などの方針を打ち出した。いつかは「そんな未来がくるだろう」とおぼろげに予期していたものが、一気に現実味を帯びたといえる。

では、ガソリン車からの転換はどんな変化をもたらすのだろうか。そもそも、現時点における世界や日本の自動車市場はどんな現状なのだろうか。近年注目されるキーワードに迫る連載「マネ部トレンドワード」。電気自動車(EV)編の第1回では、市場の現状や今後について、富士経済の自動車部門を担当する饗場知氏に聞いた。

2022年にも、EVの販売台数はハイブリッドを抜く可能性

はじめに、近年ガソリン車からの脱却として対象に挙げられる「電動車」とは、大きく4つの種類がある。完全に電気のみで走行する「電気自動車(EVまたはBEV)」、ガソリンと電気を併用する「ハイブリッド車(HV)」、HVに外部充電の機能もついた「プラグインハイブリッド車(PHVまたはPHEV)」、さらに水素で発電して走行する「燃料電池自動車(FCV)」だ。

長らく純ガソリン車がメインだったが、これら4つへの転換が世界中で始まっている。ただし、その普及の仕方は地域ごと差があるようだ。

「現在はまだ電動車の中でHVがリードしていますが、今後はEVが伸びていくでしょう。2022年にも年間の販売台数がHVを超えるとみられます。その市場を牽引しているのが中国と欧州。中国は潤沢な補助金を出すなど、国としてEVの普及を推進しており、国民も環境自動車を一種のブランド物のような感覚で見ています。一方、欧州は、私たちの思う以上に今も空気汚染は深刻で、消費者の環境意識が高い。厳格な環境規制もあります。そこにEV戦略がはまり、各メーカーは2020年頃からEVへと舵を切りました」

富士経済のレポートによると、2020年に世界でもっとも新車販売台数が多かったのはHV(269万台)。だが、EVは前年比31.7%増の220万台と急激に追い上げている。長期的にはEVが主役となり、2035年には2400万台を超えると予測している。

「対する日本は、HVが市場の中心であり、今後もしばらくはHVやPHVが主力でしょう。消費者としても、HVは燃費が良く車種も多いので選びやすい。むしろEVはまだ手が出しにくいといえます。メーカーにとっても、ガソリン車の製造を完全に止めることは、その部品に関わる多数の企業との取引を止めることにもなる。製造の上流から下流まで、幾多の企業が関わる自動車産業だからこそ、安易な転換は産業界にひずみを生みます。今後EVに転換するにしても、欧州・中国よりはゆったりしたペースになるのではないでしょうか」

日本は、世界の中でもいち早くHVの技術を確立した国だ。「トヨタを中心に、日本メーカーがHVを進化させる中で、欧州メーカーは技術的な遅れをとりました」(饗場氏)。欧州メーカーは、同じ土俵で戦うことを避けてEVにシフトした面もあるという。そして欧州の環境規制も、EV主導のメーカーに適した内容になってきた。その結果、日本も規制に合わせざるを得なくなっているともいえる。

ただし、欧州の環境規制も少し考え方が変わってきたという。これまでは、走行時のCO2排出量を評価の基準としていたが、今後は「自動車の製造工程で排出するCO2も含めて評価する動きがある」と饗場氏。その場合、現状の技術では、実はガソリン車の方がトータルのCO2排出量は少ない可能性さえあるという。

たとえば、EVに不可欠なバッテリーの製造には多くのエネルギーを使う。ここでCO2が大量に排出される。もちろん、これからの技術革新で改善される可能性はあるが、どういった評価軸で規制を行うのか見ていったほうがよさそうだ。

異業種参入も予想される中、自動車メーカーの強みとは


では、日本メーカーのEVに関する現状はどうなのか。「先行しているのは『リーフ』を出している日産でしょう」と饗場氏。また、ホンダも昨年『Honda e』というEVを投入した。

「一方、トヨタはEVに関して動きが少ないと思われがちですが、今はEVに本格参入する時期を慎重に見極めているのではないでしょうか。トヨタが新車を販売するとなれば、台数もエリア規模も世界最大級。数千台の販売では終われません。EVが世の中に浸透し、十分に採算がとれるタイミングで投入したいでしょう。今はまだ、一部の消費者が購入する状況。EVが一般化し、大規模に展開できるタイミングを待っているといえそうです。もちろん、その裏でEVの技術開発は進めているでしょう」

なお、EVとガソリン車では、車の構造が大きく変わる。エンジンがモーターになり、燃料タンクがバッテリーに変わるだけではない。一台あたりの部品点数は激減し、作りも簡素になるという。

「近年は、モーターやギア、インバーターを一体化した『eアクスル』というユニットをさまざまな企業が販売しています。モーターやギア、インバーターは、これまで個別に搭載していましたが、ひとまとめのユニットで販売し、メーカーがそれを車に乗せる形も出ている。こういった形で、自動車の一部構造をユニット化して切り売りするケースも増えるかもしれません」

なお、EV普及の最大のカギを聞くと「バッテリーの価格」だと饗場氏。同じ車種のEVとガソリン車を比べると「100〜200万円ほど販売価格に差があります」とのこと。この価格差の主要因となるのが、バッテリーのコスト。少しずつ価格は低下傾向にあるが、それでもまだ大きな価格差があるだけに、その解消が求められる。

「バッテリーでもうひとつ触れたいのは、充電に時間がかかること。その点で、充電スタンドのあり方にも注目すべきでしょう。現在のような専用スタンドだけでなく、時間を潰す意味で、コンビニやお店とスタンドが併設して、買い物の合間に充電する形も増えていくのではないでしょうか」

最後に、EVのニュースでしきりに語られるのが、自動車メーカー以外の企業の参入だ。そういった市場の競争を見る上で、饗場氏は、既存の自動車メーカーが持つ優位性に触れる。

「自動車メーカーは、安全性や衝突時に人を守る設計を追求し続けてきました。巨額の投資もしており、そのノウハウは後発企業が簡単に手に入れられるものではないでしょう。EVになって自動車自体は作れても、安全面の設計ノウハウは、簡単に越えられないハードルになると思います」

大きな転換を迫られる自動車業界。日本の主力産業であり、また、1つの車を作るのに多くの企業が関わっているからこそ、EVへの転換は経済を大きく左右する。そんな中で、これからメーカー各社はどんな戦略をとるのか。次回以降、実際に自動車メーカーなどに取材し、その中身を見ていきたい。

取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2021年8月現在の情報です

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