レジャーや災害、あるいは家庭の電力源に
三菱がアウトランダーPHEVで示す、“走るだけではない”電動車の活用
電動車への転換が進む自動車業界。EU(欧州連合)は、2035年にガソリン車などの新車販売を事実上禁止する方針を示すなど、未来へ向けて一大産業の“変革”が始まっている。そんな中、日本の自動車メーカーはどんな戦略を取っていくのだろうか。
そこで今回取材したのが、三菱自動車(以下、三菱)。同社は、世界初となる量産型の電気自動車「i-MiEV(アイミーブ)」を2009年から販売したメーカー。そして現在は、電動車を移動手段としてだけでなく、レジャーや災害時、あるいは日常的な家庭の電力源としての使い方も提唱している。
同社が掲げる電動化のビジョンとはどんなものだろうか。三菱自動車工業 EV・パワートレイン技術開発本部の百瀬信夫氏に聞いた。
三菱の4WD技術と電動技術を融合した「アウトランダーPHEV」
「三菱では、2030年までに新車と企業の事業活動で排出されるCO2の40%削減(※)、そして、電動車比率50%の達成を目指しています」
※新車は2010年比、事業活動は2014年比
世に言う“電動車”とは、電気自動車(BEVまたはEV)、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、燃料電池自動車(FCEV)の4つが主となる。三菱としては「BEV、PHEV、HEV併せて、2030年までに50%を達成したい」という。
現在、同社が力を入れる電動車が「アウトランダー」や「エクリプス クロス」などのPHEVだ。近年人気の高いSUVタイプで、アウトドアやレジャーに便利。三菱の代表車種として人気があったパジェロやランサーの4WD技術を受け継ぎ、電気自動車のシステムと融合しているという。
バッテリーの蓄電が十分なときは電動モーターでBEV走行し、電力が少なくなるとエンジンを使ったHEV走行に切り替える。電動車は、バッテリーをフル充電して最大どれだけ走れるかを表す航続距離が評価されるが、アウトランダーPHEVは、2018年に約50kmを記録。車体が重く、航続距離の出にくいSUVとしては、当時高水準だったという。2021年現在は「80kmへの到達を目指しています」という。
「私たちは、PHEVにやや比重を置きながら、電動化を進めていく予定です。BEVは走行中のCO2排出量がゼロですが、最近はバッテリーにためる電力を発電した際のCO2や、製造時から走行まで、車のライフサイクル全体で排出されるCO2の量を評価する動きも出ている。その方法で試算すると、アウトランダーのようなSUVは、PHEVよりもかえってBEVの方が環境負荷は高くなる可能性もあるのです」
今までは走行時のみのCO2排出量が見られてきたが、ここにきて世界中でライフサイクル全体の排出量を評価する「ライフサイクルアセスメント」が強まっている。となると、大量のエネルギーが使われるバッテリー製造は、CO2排出量のカギを握る。しかも日本の電力は火力発電の比率が高く、巨大なバッテリーを車に搭載するほど、製造時のCO2排出量は跳ね上がる。
SUVを完全電動車(BEV)にする場合、大きなバッテリーが必要に。アウトランダーと同等の車格でライフサイクル全体のCO2排出量を三菱が試算すると「現状ではPHEVの方が環境負荷は低い」という。
なお、今後CO2を減らすには、自動車メーカーの技術進化とともに「日本の電力事情も重要になってくる」と百瀬氏。火力発電の比率が高い現状では、どうしても日本車の製造は環境評価が不利になる。日本車メーカーの戦略を考える上で「電力の問題は、確実に議論されると思います」と語る。
家庭の電力を車が供給する「V2H」という考え方
三菱では、電動車を展開する上でもうひとつのコンセプトを掲げている。それは、電力源としての活用だ。
「停車状態が約90%もある車について、走行以外の活用を提案するものです。当社のPHEVには、電力の供給機能があり、車のバッテリーに電力を溜めるだけでなく、溜めた電力を外に供給することができる。停電時や災害時、あるいはアウトドアでの電力源にもなります」
過去の災害時には、アウトランダーやエクリプスクロスのPHEVから照明、ストーブ、電子レンジ、電動ベッドやテレビなどさまざまな家電製品に給電を行っている。
三菱では早くからこのような使い方を提案。車と何かをつなぐ「V2X(Vehicle to X)」のひとつとして、新しい使い方を普及させている。
「今後は一般家庭の電力をまかなう存在にもなれるといいですね。たとえば、電力需要の高い時間帯に、余っている車の電力を供給するなど。これから増えるであろう再生可能エネルギーは電力供給の変動が大きく、需給バランスが崩れる可能性も。その際の応急措置として、PHEVの電力を使う形もあるでしょう。電力会社と協力できれば、Win-Winのサービスになると思います」
なお、三菱では電動車を家とつなぐ「V2H」を提唱しており、そのための機器も提供している。これらのコンセプトはホームページに記されているほか、次世代店舗として位置付けた「電動DRIVE STATION」では、停電時のV2Hデモンストレーションなどを体験できるという。
最後に、電動化が進む未来には、非自動車メーカーの参入も噂されている。その中で三菱をはじめとした自動車メーカーの強みはどこにあるのか聞いてみた。
「自動車はモーターとバッテリーがあれば作れるものではありません。たとえばハンドルを20度切ったとして、タイヤが動くのはおよそ1度ほど。逆に言えば、わずかなタイヤの動きも事故につながる。高速走行時にも車体を安定させる技術およびノウハウは、そう簡単に得られるものではないと思っています」
そしてまた、一台の車を完成させるためのバリューチェーンを構築するのにも大きな費用と時間がかかるという。まさにこれこそが自動車メーカーの持つ資産であり、電動化の時代にあっても揺るがない価値といえるだろう。
移動手段としてだけでなく、電力源としての価値も伝える三菱の戦略。電動化の進む世界において、どう存在感を強めていくのか。今後も注目していきたい。
(取材・文/有井太郎)
※記事の内容は2021年8月現在の情報です